さらさらきらきら

薩摩半島南端、指宿の自然と生活

ヒメハマナデシコ

2012-09-26 10:40:44 | 花草木


磯の小さな入り江に下りると、こんな場所でどうしてと思うほどきれいな花が色とりどりに咲いていた。これは誰かが植えたのだろうか。いや人の手の届かないところにもたくさん咲いている。あちこちの海岸でよく見るハマナデシコに似ているからその色違いか。しかしだいぶ大きいしずっときれいで見栄えがする。後でいくつか図鑑を調べてやっとヒメハマナデシコという名前であることが判った。ヒメの名の通り草丈は低く20cmかそこら、しかし花は一回りは大きく径2cmほどある。



少しギザギザのある5枚の花弁が風車のように互いに端を重ね合わせて並んでいる。雄しべは10個あって葯は紫色、じきに色褪せるので花粉が濃い色をしているということかもしれない。



花弁の上の紅色に濃くなった部分に細い毛がまばらに生えているのに気付いた。この斑点は蜜標だろうが、虫の足場も提供しているということか。



白っぽい花も多い。中を見ると真ん中に雌しべが無限大記号のように伸び出していた。雄しべはすっかり花粉を出し終わって倒れている。これからすると雄性先熟ということのようだ。



雌しべはただ花柱が2本に分かれていて、その曲がり具合から奇妙な形に見えたりするだけのようだ。では種子も2つかと思うとそんなことはなく、細長い果実の中に小さな黒い粒が縦にぎっしり詰まっている。



横から見るとかなり細長い花だ。花弁の外側を緑色のきれいな萼筒が覆っている。その根元を取り巻いている小さな爪のようなものは苞葉だそうだ。1本の花茎の先に2個から5個ほどの花を付ける。近縁のハマナデシコは小ぶりの花をぎっしり付けるのでずいぶん印象が違う。



それでも花茎の数は多く、また横に広がっていくからかえって地面を一面花で覆ってしまったりしてとてもきれいだ。花の色はべったりと赤いものからほとんど真っ白なものまで、また模様が濃かったり薄かったりいろいろある。



岩場に多いが、砂場にも生えている。ここでは高さは10cmもないが砂の中に木質化した茎が長く深く伸びている。葉は厚く光沢があり、そういうところは同じ海浜植物のグンバイヒルガオやハマゴウなどとよく似ている。そしてそれらも近くに一緒に生えていた。

ヒメハマナデシコは日本固有種で和歌山県から南西諸島にかけて分布するそうだ。それなのに今まで見たことがなかったのは各地で絶滅危惧種に指定されているほど数が減っているためのようだ。何しろこんなにきれいだから園芸や商売用に掘り取ってしまう人が多く、また沿岸の土木工事で自然の海岸が激減しているからでもある。ここ本土の南の果てでも見つけたのはまだ1箇所だけだ。

種子がたくさんできていたので少し取ってきた。以前ハマナデシコを庭に蒔いたらいくらでも増えたので海岸でないと駄目ということはないだろう。花期は夏から秋にかけてと長く、また宿根草だから毎年咲く。我が家の庭ではできるだけ野草を楽しみたいと思っているので、この花はお誂え向きということになりそうだ。