さらさらきらきら

薩摩半島南端、指宿の自然と生活

カエデドコロ

2012-09-19 09:39:51 | 花草木


夏から秋にかけ、大きな木が一面みかん色に染まっているのをあちこちで見た。まとわりついたカエデドコロが無数に花を咲かせているのだった。この時期、ヤマノイモの仲間はいろいろ咲いているがその中でこの花は抜群に美しい。いや数ある野の花の中でもかなり華やかな部類ではないか。残念ながら径1cmにも満たないから見つめる人もいないだろうが。あちこち見て回ると少しずつ違いがあるので特に濃い色のものを探してみた。

雌雄異株で雌花の方がさらに濃い。中心に白い雌しべが目立つ。三つに別れまたその先が二裂している。6個の雄しべも見えるがこれはもう痕跡化していて花粉はない。花びらは6枚あるがこれは本来萼と花弁が3枚ずつで、区別がつかないからまとめて花被と呼ばれている。



垂れ下がった花序を下から見上げる。きれいでユリの花を思い出す。ヤマノイモの仲間は葉を見ると双子葉類のようだが、この花を見るとなるほどユリと同じ単子葉類だなと思う。



花が終わりかけて子房が膨らんできている。花は斜め下向きに咲くが、果実になると上を向く。



結実率は良いようで果実がずらっと並んでいる。三つの翼が等角度に配置されているのはヤマノイモの仲間共通の形だ。そのうち薄茶色に枯れてかさかさになって割れ、各翼から一つずつ種子が出てきて風に飛ばされていく。



雄花の方は色は薄目だが花数はずっと多い。と言うよりこれほどびっしり咲く花も珍しい。旺盛に茂った蔓のそこらじゅうから無数と言えるほどの花序が垂れ下がっている。



雄花は花被と雄しべしか見えない単純な形だ。雄しべからは白い花粉がたくさん出ている。



カエデドコロの名は葉がカエデに似ているからだという。しかし近い仲間のキクバドコロの方が、葉の切れ込みは深いし各裂片の先は尖っているし、もっとずっとカエデに似ている。それに葉には変異が多く全然切れ込みのない葉もよくあり、花の無い時は他のヤマノイモの仲間と区別しにくい。絶対的な区別は葉の付け根を見ることだという。葉柄の基部に1対のかわいらし突起があるのがカエデドコロの特徴だそうだ。これは托葉の痕跡だろうか。なお真ん中の突起は枝になる側芽で植物全体に共通したものだ。



カエデドコロは南方系だそうで、分布は関東以西とされている。しかし文献によっては中部とか近畿以西になっていたりする。私も東京周辺では見たことがなかった。指宿に来て、その旺盛な繁茂ぶりには驚かされた。かなりの大木のてっぺんにまでよじ登りたくさんの葉を茂らせ、すっかり覆いつくしてしまっていたりする。これでは取り付かれた方は大変だろう。実際、枯れ死する木も多いとのことだ。こんなに可憐な花を咲かせるくせに何とひどい奴だと言いたくなる。これでヤマノイモのようにおいしいイモでもできれば放っておかれることもないだろうが、残念ながらほとんど食用にはならないそうだ。