さらさらきらきら

薩摩半島南端、指宿の自然と生活

ノダケ

2012-09-02 11:30:42 | 花草木


山里に続く崖道でブドウ色の小さな花の塊を見つけた。その姿からセリ科であることはすぐ判る。しかしセリ科はたいてい白い花ばかりだ。こんな特異な色のものはノダケしかない。



小花のぎっしり集まった複散形花序が鞘の中にぎゅっと詰め込まれている。何やら狂おしいほどの情念が抑え込まれているとでも言おうか。それが今まさに束縛を解き破って爆発しそうになっている。



花序がいっぱいに開いた。一つ一つの花はまだほとんど蕾の状態だ。暗い赤紫一色だが粒々の効果かなかなか深みのある美しさだ。



小さな花が開いた。何がなんだか判らないような混乱振りだ。蕾の時は5枚の花弁が丸まって玉になっていて、また5本の雄しべが同じく内側に巻いてその玉の縛り紐のような感じになっていた。それらがぴんと開いて、伸びきった雄しべの先の白い葯がとても目立つ。中は平らで赤い盤状になっている。これは子房の頭部かと思ったらそうではなく子房の上に鍋蓋のようにかぶせてあるものだった。こういうもので一般的なのは花盤で、それは花の基部の花托が肥大化したものだ。しかしこの花ではそうではなく花柱の下部が膨らんだもので柱下体と呼ばれるのだそうだ。見た目はよく似ていて役割も同じなのだが起源が違うというわけだ。柱下体の中心に白く透明がかった雌しべの先がぽつんと出ている。また表面には蜜がたくさん滲み出て盛り上がっていたりする。その量が多いためか、大きなスズメバチがやってきてしばらく花序の上を歩き回っていた。



やがて花弁と雄しべが萎れ落ちると、2裂した雌しべがぐっと伸びてV字型を作る。つまり花は雄性期から雌性期へと変化したわけだ。ずいぶん明るく華やかな感じになって同じ花とは思えないくらいだ。



もう果実もできてずいぶん大きくなっていた。頭に花柱と柱下体が茶色く萎びて残っている。緑の果実はやがて薄い褐色になり縦に割れて二つの扁平な分果になる。



ノダケは姿が面白い。節々には膨らんだ大きめの鞘があってそれが割れて中から新しい枝が出てくる。赤ん坊を大事に包み込んでいるようでほほえましい。この鞘は葉柄の根元部分が膨らんで袋状になったものだ。これがタケノコの皮に似ているのでノダケという名になったのだそうだ。しかし竹だって野に生えるのだから、タケはともかくなぜノなのかあまり納得できない。



ノダケは湿り気のある林縁などに生える。本州から九州にかけて普通ということだが、今まであまり見たことがなかった。東京近辺ではそれほど数が多いとは思えない。指宿ではたまたま通りかかった道路脇に群生して背丈ほどの高さになっていた。しかしそこ以外ではまだ見つかっていない。一般にセリ科の分果は扁平で両脇は翼状になっているが、ノダケはあまりそうなっていないので風に飛ばされにくいとの記述があった。しばらくしたらその真偽を確かめにまた来なければならないようだ。