へぇ~Bonn便り

ニューヨークからボンへ引っ越してきました。時にはへぇ~と言いたくなるようなドイツの平凡を皆さんにお便りします。

暮らし方6 国境に住む

2000-01-17 06:49:23 | ジュネーブの暮らし方

2000.01.17

ジュネーヴの暮し方と題しながら、今までジュネーヴは一向に出てこないまま、連載を引きずってきましたが、今6回目にしてようやくジュネーヴのことを書ける運びとなりました。

<フランス?>

  フランスに囲まれるように位置するジュネーヴは、中心には美しいレマン湖、周りは高い山々がそびえる自然に調和した穏やかな街でありながら、一方では、国際機関が集中して並び、多国籍の香りが漂う、魅力的なコスモポリスです。しかし、世界一物価の高い都市でもある点が悩みの種で、ジュネーヴで働く国際機関職員は、国境を挟んで、物価のより安いフランス側に住む場所を見つけることが多いようです。私たちもそんな事情を事前に聞いていたので、ニースでの語学研修のあと、フランスのGaillardという所に移りました。ニースに住んでいたときに、そこと同じ系列のアパートホテルが、ジュネーヴの国境近くにもあると知り予約をしておいたのです。そのためジュネーヴでの生活がスムーズに始められましたが、そうでなければ、普通のホテルに長期滞在をするのは、フランスといえども経済的に困難だったでしょう。

  さて、ここ国境の街Gaillardには、ジュネーヴの中心コルナバン駅から、のんびり走るトラム(路面電車)に揺られて30分ほどのところにあります。トラムの終点の駅を降りると、目の前が国境の税関で、その反対側はもうフランスです。時々荷物をチェックされる人もいますが、大抵は単なる通過点なので、国境を意識せずに毎日出入国を繰り返しています。

  とても簡単な国境ですが、通貨ばかりはこの見えない線をまたぐ度に変わるので困惑します。スイスフランとフランスフラン、名前は同じフランでもレートが全く違い、国境のこっち側とあっち側とで頻繁に金銭感覚を切りかえなければなりません。さもないと、スイスのものが安く見えたり、フランスのものが高く見えたり、いちいちビックリする羽目になるのです。おまけに、「5ルピー持ってる?」などと数ヶ月前に親しんだ通貨が、つい口をついて出てきたり!お金を使い分けるややこしさもありますが、値段や品物を比べながら、それぞれの国のお買い得を見つけたり、文化を感じたりするのも結構楽しく、比べることで両方の国の特色がより鮮明になります。それも国境に住む醍醐味でしょうか。

 冷たい風に吹かれながら、洗練されたジュネーヴの街を歩いていると、数ヶ月前にインドで味わった混沌やエネルギーが幻のようですが、その大きなギャップは世界の多様性のほんの一部分でしかなく、更に違う世界を知る必然性を時々夫婦で語り合っています。

 

<お話好きのフランス人>

  日本では、フランス人はプライドが高く態度が冷たいと思われがちですが、むしろお節介なほど暖かい人たちばかりに出会います。お店だろうと郵便局だろうと、どこに行っても挨拶は最低限の会話。いちいちお客さんと世間話をしているので、短い列に並んでいても順番がなかなかまわってこないこともあるし、お客同士も自然に挨拶を交わすので、どの人が店の人だか分らないこともあります。迅速なサービスに慣れている日本人にしてみると、初めは「何をやってるんだろう?」と不思議に思いますが、自分の番になって親切にアレコレ教えてもらうと楽しい気持ちになります。今日はバスで、降りる乗客ひとりひとりにまで、「さようなら」と大きな声で挨拶を投げかける運転手さんに出会っていい気分でした。

  近くにいる人に気軽にものを尋ねる光景をよく目にします。外国人の私たちでさえ、道端ですれ違う人に毎日のように道を聞かれたり、時間を聞かれたりしています。バスの自動券売機の使い方が分らず戸惑っていると、決まって近くの人が説明をしてくれます。自分も使い方が分らないのに教えようとしてくれるおばさんや、券売機のボタンを押そうとした私たちの手を払いのけてまで、説明を続けるおじさんもいて笑ってしまいますが、親切心からしてくれることで憎めません。5年前に新婚旅行でパリに訪れた時には気がつかなかった、フランス人の人情味を今回強く感じるのは、パリとは違った小さな街にいることも理由の一つでしょうが、少しづつでも、フランス語がわかるようになって見えてきた世界もあるからなのでしょう。これから先、言葉がもっとできるようになったら、お節介なおばちゃんたちと楽しくおしゃべりしたいのになぁ。

  

<パン食い競争>

  ジュネーヴはこじんまりとしていますが、時間を持て余すことはありません。買い物するにも便利ですが、市内に点在する博物館や美術館も立派で、内容が充実している上に、無料で入館できるところが多いので、数回に分けて少しずつ見るのにも気軽です。歩くのに疲れたら、レマン湖のほとりで静かな時間を過ごすのもいいでしょう。(旅行ガイドブックみたいになっちゃいました。)

  レマン湖の澄んだ水の上を滑る優雅な白鳥も、行列をつくって泳ぐ姿は愛嬌があります。2羽の白鳥がツーツーと私の方に近づいてきました。水端で私の顔を見上げて、グァグァ言うので「ごめん、何にも持ってないよぉ」と言うと、今度は何やら口の中でブツブツ低い声を出しながら去って行きました。「まったく、紛らわしいなぁ」と文句をいっているようでした。私は彼らにえさをあげる約束をした覚えはないのですが、気品のある白鳥に怒られると、レマン湖の常識を知らなかったよそ者の方が悪いのだと妙に恐縮してしまうものです。

  後日、白鳥にお詫びをしようと、わざと残したパンを鳥用一口サイズにカットしてバッグに偲ばせ、再度レマン湖を訪れました。カモやガチョウも首を羽の中にうずめて寒そうです。「今度は文句ないでしょう。」パンを誇らしげに取りだし、湖畔に立つと、いつのまにかぎつけたのか、次から次へ色々な鳥たちが集合しました。パンを投げるや否や、水上ではガァガァ取り合いが始まり大騒ぎですが、それより先にカモメの大群がやってきて、尖ったクチバシでパンを空中キャッチしてしまい、私もその迫力に負けそうになります。足元を見ると、スズメまで競争に参加しているので、「こんなにちっちゃくてカモメにかなうわけないのに」と不憫に思い、パンをあげました。スズメにとっては、ずいぶん大きな塊をくわえて、カモメの追撃を振り払い勇敢に飛び去って行きました。

 水からあがっていた気弱そうな灰色まじりの白鳥が、よろよろ立っていて気の毒になり、特別に昼に残した大きなケバブの肉をあげました。近くに投げたのでモタモタとくわえていましたが、その口にくわえた肉でさえカモメたちに突っつかれて殆どなくなってしまいました。 

 ジュネーヴに遊びにいらした際には、この過酷な生存競争観戦もツアーに含まれております。スイス旅行は是非、私どもにお申し込みください。  


<一時帰国>
 

 手続きの都合などもあり、年末に急遽日本へ帰国しました。ジュネーヴでの年越しにも興味がありましたが、記念すべき2000年は祖母の家で迎え、長い間離れていた日本食やお正月料理をコタツで温まりながらご馳走になって、くつろいだ日本のお正月を過ごしました。フランスの学校では、日本の食べ物を説明するが難しく、結局お餅や和菓子が何なのか分かってもらえなかったと思います。ヨーロッパからみると日本がまだまだ遠くてエキゾティックな国だと自覚させられます。やっぱり日本食はいいねぇなんてつくづく思ったりして、三十路を過ぎて保守的な体質になってしまったのでしょうか?でも外に出なかったら、気がつかなかったかも知れませんね。日本の良さを見つける度に、日本人であることがもっと面白くなりました。日本は日本らしく、自分は自分らしく、みんながその人らしく、違う魅力を分かち合えたら本当に楽しいでしょう。 

 さて元旦の午後、祖母の家から実家へ戻った時に、郵便配達のアルバイトのお兄ちゃんでしょうか、配達の自転車が丁度家の前に着いたところでした。ポストに入れたばかりの封筒を手にすると、それは私が6年前に自分宛に出した手紙でした。6年前に参加した世界青年の船の事業で、タイムカプセルを企画したメンバーが、2000年の元旦に届くように忘れずに投函してくれたのです。最近2000年を間近にして、そのタイムカプセルのことを思い出していましたが、元旦早々初めて受け取った手紙が6年前からのものだったので、なんだか不思議で、過去の自分の字や文章を見るのは照れくさい気がしました。

  内容は殆ど忘れていましたが、手紙には今の私に対して質問がいろいろ書いてあって、その時の友達と連絡を取るようにありました。手紙の最後に「素敵になったあなたに出会う日を楽しみにしています。」と締めくくられていて、過去にタイムスリップしながら、6年前の私は今の私に会ってどう思っただろう?と、今までの時間をふと思い返しました。6年という時間があったらもっと魅力的に変われたかも知れないとも思うけれど、結婚をしたり、新しい仕事を始めたり、いつも周りの人たちに支えられながら、楽しい毎日を送ることができて幸せだったと思います。友達とのやり取りも続いていて、「ハリちゃんに会いに2回もネパールに行ったよ!」と伝えたら、6年前の私はきっと喜んでくれるでしょう。結婚してからも、「友達とのやり取りに、時間とお金を惜しまないようにしよう」と二人でよく話していますが、ここ数年間でe-mailを使う人が急激に増えたので、やり取りが更に気軽になりとても嬉しく思います。 

 元旦にそんなことがあって、ちょっと過去を振り返ってみましたが、今の私が未来の自分の姿を見てがっかりしないように、これからの時間を重ねていきたいです。

 次回は引越し騒動をお届けします。


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