「法王様に会いに行く」「法王様に会いに行く途中」の続きです。
ダライ・ラマ法王法話会会場・蓮華院誕生寺奥の院に向かって、バスは九十九折りの山道を進む。
駐車場に着く頃にはそわかんぼも目覚めた。
受付でチケットを渡し、席番札を受け取ると、次は手荷物検査と金属探知器によるボディチェックがあった。現在の法王様のおかれている複雑な状況を、改めて考えさせられる。
法話会会場に入る前に、母が売店でお弁当を買って来るというので、会場入り口でしばし待つ。
色んな人が来てるなぁ。
普通のお寺詣りより、若干年齢層が若い気がする。外国人の姿もちらほらと・・・あれ?大学生くらいのカップルもいるぞ。物好きだな~?? いや、意外と若者が多い。エスニックな格好の人も目立つ。スーツを着たお坊さんとおぼしき集団も。子連れもいるし、車椅子の人もいるし。
お寺に行く、というと堅苦しい・暗い、などのイメージがつきまといがちだが、ここに来ている人たちは、皆明るい。活き活きしている。賑やかだが、うるさくはない。
私たちもそうだけど、ここに来ている皆、喜びに満ちている感じがする。
この不思議な感じは何なのだろう・・・?
そんなことをぼんやり思っているうちに母が戻ってきたので、会場に入ることにする。
今日の会場は、この誕生寺の境内にしつらえられた野外席。五重塔と鐘楼堂の間に3000席ほど用意されているらしい。昨日までは雨が降っていたので、そわかんぼ連れで雨は辛いな~、と思っていたのだがやはり法王様の功徳あってか、雨はすっかりやみ、地面も乾いている。
五重塔前に玉座が設置され、塔の回りに五色の幡が張り巡らされている。法王様は、あそこに座られるのだろうか?
私たちの席は、鐘楼堂の真横のブロック。用意された席は、ほとんど埋まっている。すごい人出だ。通路の途中に、チベット難民支援のための托鉢をしているチベットのお坊さんが座っている。
会場横には、熊本県の特産品や、エスニックバザールの出店もある。
以前、そわかんぼはうちのお寺の間鐘の音を聞いて、大泣きした前科がある。今日は大丈夫だろうか。
席についてお弁当や小籠包を食べ、バザールにそわかんぼの日よけ帽子を探しにうろうろしていると、開演のアナウンス。急いで席に戻る。
世界最大級の梵鐘の音が、空気を震わせる。よかった、そわかんぼ泣かない。
最初はチベット音楽のコンサート。五重塔前に設置された色彩鮮やかな舞台から、天に届かんばかりの声が響く。モンゴルのホーミーともよく似てる感じ。
法王様は、後で知ったのだが大学で講演をされたらしく(羨ましい学生さんたち!)、開演の時間に少し遅れて入っていらした。
五重塔の回廊に姿が見えたとき、聴衆の誰からともなく拍手が鳴り出した。私たちも思わず合掌。一生に一度会えたらいいな~、でもラダックまで行かないと無理かな~、と思っていたダライラマ法王猊下にこんな近くでお会いできるなんて!
法王様は、五重塔前に設えられた玉座前にお立ちになり、聴衆に向かい何度も合掌とお辞儀を繰り返される。
正直、政治的に複雑な状況にある方が、こんな開かれた場所でー言い換えれば命を狙われやすい場所で、法話をされることに驚いた。玉名市の警察も神経を尖らせているかも・・・でも、法王様は自分に与えられた役割を全うすべく、命を懸けてこの場に臨んでおられるのだろう。
玉座に着かれ、今日はチベット語でお話しされる旨をおっしゃられ、法話に先駆けて「皆で般若心経を唱えましょう」と呼びかけられた。
と、じゃりっ、と数珠の鳴る音。すごい、ほとんどの人が数珠を持ってきてる(当然か)。しかも当然の如く般若心経をそらで唱えている。
今日の法話は「智慧と慈悲ー仏教における空(クウ)」について、だった。母が私がゆっくり話を聞けるようにと、そわかんぼをバザールに連れて行ったのだが、なんとなくそわかんぼの泣き声が耳についてしまったようで、結局私もほとんどバザールで過ごしてしまった。
オットは「今日の法話で伝えられたことを、自分でも出来るだけ正確に伝えていきたい」と感慨深げであった。
私は、今回は法王様の姿を拝見できただけでも嬉しかった、ということで。
いつかご縁があれば、ダラムサラに行けるかも知れないし。そわかんぼもリンポチェの生まれ変わりかも知れないし♪ あ、でもそうだったらちょっとフクザツ・・・絶対ないと思うけど
法話が終わり、法王様は境内に植樹されてから、誕生寺を後にされるとのこと。
バザール前を通って行かれる、という情報がどこからともなく流れ、バザール前は大変な人だかり。白い布を両手に持って待っているチベット人とおぼしき男性たちもいる。きっと、法王様の祝福を受けたいのだろう。
もうこちらは通らないのかな、と思い始めたところで黒のリムジンがゆっくりと走ってきた。
いきなり、たくさんの人が車の前を横切って向こう側に走っていく。危ない!
何かと思ったら、法王様が座ってる姿が見える方に走っていったのだ。
気持ちは分かるけどさ~、ここでけが人が出たら、法王様はいたたまれないと思うよ~。ちゃんと法話を聞いてたのか
と、思わず「危ないからやめてください!」と叫んでしまう。一瞬のことだったから、「うるさいこと言うのがいるわね~」くらいに思われたかも知れないけど、法話会中にあれほどマナーの良かった人々が、我欲で法王様が一番悲しむような真似をするなんて・・・と、腹が立ってしまったのだ。
煩悩を捨てきれないのが人間、といってしまえばそれまでだけど。ああ、道は遠い。
と、ちょっとオットにぶつくさ言っていたら「麦さん」と、声をかけられる。
振り向くと、遍路友達の宮崎のお寺の若院さん!彼のお寺も、誕生寺と同じく、九州八十八カ所の札所である。
「あ~、やっぱり来ると思ってたんだ~。今日はお手伝いか何か?」
「いや、3日ほど前に知ったんですよ。」
「よくチケットあったね。私、3月でぎりぎり手に入ったよ。」
「いえ、僕、袈裟パスですから」
・・・出た、袈裟パス!それは、厳しい修行を乗り越えてきた真言宗のお坊さんたちの間でだけ通用する符帳。う~む、やられた!でも、納得。
彼は生そわかんぼに会えるかと、楽しみにしてきてくれたらしいのだが、そわかんぼを抱いた母がどこかに行ってしまい、行方が知れない。
落ち着いたらお詣りに行くよ、と約束して別れる。
人だかりを抜け、お土産屋兼休憩所に行くと、父母とそわかんぼが待っていた。
父は紫色の紙袋を持っており、珍しくお土産をたくさん買っているなあ、と思ったら、今日の記念品で全員に配られたものだという。
中には本と、小さな仏塔。仏塔には写経が納められているらしい。
こんなに色々いただいて、今回の法話会は赤字にならないのかと、人ごとながら心配になる。でも、嬉しい。
今回の法話会を企画されたNPO「れんげ」、誕生寺、JR九州・玉名市・熊本県の皆様、色々、外部の圧力もあったようですが、それでも法話会を開催する意志を貫き通されたと聞きます。素晴らしい法話会でした。またとない機会を作ってくださったことに感謝申し上げます。ありがとうございます。
法話会中も乗り物の中でも、ずっとお利口さんに抱かれ、ほとんど泣かなかったそわかんぼだったが、やはり疲れたらしく、ヂヂババの家に帰り着き布団に寝かせたら「ふあ~」と息をつきながら、にっこり笑った。
普段、ねんねしてるのが嫌いなそわかんぼなのに、よっぽど疲れたのだろう。