真実を求めて Go Go

今まで、宇宙についての話題を中心に展開してきましたが、今後は科学全般及び精神世界や歴史についても書き込んでいきます。

強い力と重力、そして「ホログラム」

2013年03月21日 | 宇宙

 強い力は基本的には逆二乗則に従う力である。
したがって、空間を三次元だと認識している。
しかし、その性質は約0.1フェムト(10の-15乗)メートルあたりを境に激変し、距離依存性がなくなってしまう。
距離が遠ざかっても力が弱くならないのだ。


図1:強い力の距離による変化

 これは、距離のゼロ乗に比例することになるため、強い力を感じるクォークにとっては空間があたかも一次元であるかのように見え始めることを意味する。
実際には強い力の力線が、なぜか空間にある程度以上は広がらず絞り込まれて、細い束になってしまうのだ。

 これはクォークとクォークの間に一定の力がはたらくことを意味しており、弦の張力とも呼ばれている。
クォーク二つが結びついた系であるπ中間子などは、この張力を持った弦の両端にクォークがついたものと想像して考えることができるからだ。

 実際、超弦理論の元の発想は、このような、現在ではクォークの複合体として理解されている中間子が弦でできているという考えで生まれた。
結局、強い力の理論の成功の一方で、この弦理論はそのままでは成功しなかった。
しかし、やがてクォークやレプトンなど、それ自身がより小さな弦でできているという、現代の超弦理論を生むきっかけとなった。

 さて、この張力はいくら伸ばしても復元力が強まることはない、ちょっと不思議な性質をもつ。
通常のバネやゴム紐などは、伸ばせば伸ばすほど縮もうとする復元力が強くなるものである。
しかし、逆二乗則に従う力であれば、むしろ逆に距離が離れるほど弱くなるのが普通であるから、いずれにせよおかしな力であることには違いはない。

 そもそも、どうしてこのような不思議なことが起きるのかというと、どうやら強い力の力線は自由に空間を伝播できないようなのである。
どこへでも自由に伝播できる電気力線とは違い、クォークからある程度以上離れると、周りの空間へ入り込むことを阻まれてしまう。
これは、真空偏極の一種とも考えられる効果である。
真空中に電子対の代わりにクォーク・グルーオン対が仮想状態で出現する効果で、力線が遮蔽されてしまうのだ。

 このような効果は、「超伝導体」の内部に磁力線が入り込めない「マイスナー効果」と呼ばれる現象とよく似ている。
超伝導体は電気抵抗がゼロであるとともに、外から磁場をかけるとちょうど逆向きに同じ強さの磁場を発生させる「完全反磁性」という性質を持った特殊な物質である。


図2:上、強い力の力線の閉じ込め
   下、超伝導体のマイスナー効果

 さて、どうやら強い力にとって、真空とは一種の超伝導体として見えるらしい。
量子力学的には仮想状態で粒子対が生成できるので、我々が言葉通りに想像する何もない状態としての真空状態は逆に作ることができず、真空はある種の物質とみなせるようになるのである。
つまり、我々の宇宙は、強い力にとっては超伝導状態の実現するような極低温状態にあって、実際に超伝導状態に入っていると考えるのである。
残念ながら、この強い力の閉じ込めの理論的な理解は、完全にはまだできていないのが現状だ。

 ブルックヘブン研究所のRHICの実験では、超高エネルギーで原子核同士を衝突させることで、摂氏4兆度という超高温状態を生成することで、
「極低温でのみ実現する超伝導状態を壊してやって真空の性質を変えることができれば、マイスナー効果が起こらずクォークを閉じ込めから解放できるのではないか?」
「クォークとグルーオンが自由に飛び回る、クォーク・グルーオン・プラズマという、ビッグバン直後に生成されたと考えられる状態が作り出せるのではないか?」
ということを、最大の目標にして実験が行われてきた。
2000年に始まった実験は、これまでに膨大なデータを積み重ね、クォーク・グルーオン・プラズマの生成を強く示唆する結果を次々と出してきている。

 ところで、弱い力だけは、なぜか力の媒介粒子であるウィークボゾンの質量がゼロでないという際立った特徴がある。
この理由も、強い力ではなくヒッグス場という別のある種の力の場があって、これに対しても真空は極低温で実現する超伝導状態に入っている、とみなすことで理解できると考えられている。

 この場合、弱い力の力線が真空中にある程度以上入り込めず、到達距離が短距離になってしまう。
じつは通常の超伝導体の場合も、磁力線は表面付近にはわずかに侵入できるのだが、この状況と同じことが起きていると考えるのである。
これは力の媒介粒子が質量を持った場合であると理解できる。
質量の獲得は、ヒッグス場が真空期待値を持つことで系の対称性を破り、素粒子はヒッグス場との相互作用を通して質量を獲得することができるとされている。

 本来、逆二乗則に従う力が、超伝導体中に荷量が置かれることで、実質的に媒介粒子が質量を持ったかのように力の法則が変化するのである。
なお、上記のヒッグス場自身は理論的には必要とされているが、実験的には未発見であって、まだまだ質量とは何か、残念ながら物理学は答えを出せる段階にはない。
電子やクォークの質量も同じ起源で理解できると考えられているが、その定量的な根拠ははなはだ心もとないのが現状だ。

 すべての物質と重力以外の力は、三次元ブレーンに閉じ込められていると考えられている。
ブレーン理論で考える高次元宇宙における三次元空間への閉じ込めと、強い力で明らかになっている三次元空間における一次元への閉じ込めは、次元の違いこそあれ、共通のものを感じさせる。
なぜ、重力だけが高次元へ伝播できるのか、というより、なぜその他の力は三次元に閉じ込められてしまうのか、という理由を考える必要がありそうである。

 ところで、強い力と重力の間には超弦理論において意外な関係があることが、1997年に明らかになった。
これは重力/ゲージ対応と呼ばれ、現在、最も集中的に研究が行われている分野のひとつになっている。

 下の図を見ていただければ、解りやすいのだが、ホログラムというのは、たとえば、二次元的な印刷物で、特殊なメガネをつけることなく写っているものが立体的に浮き出て見える、一種の不思議な写真のことである。

 光とは電磁波のことであるが、ホログラムは光の波長、すなわち色と、光の強さの他に、波の位相という情報を記録したものである。
こうすることで、三次元の物体を見た場合の情報が失われずに保存され、二次元物体でありながら立体的な情報を消すことなく記録できるのである。


図3:ホログラフィー原理による四次元重力と三次元力の対応関係

 さて、ここで出てきた重力/ゲージ対応とはいったい何を主張しているのか。
我々の世界である三次元空間の世界は、じつは四次元空間の世界のホログラムになっているというのである。
すべてがそのままホログラム化しているというわけではないが、三次元空間の世界の強い力は、四次元空間の世界の重力のホログラムになっているというのである。

 両者は似ても似つかないまったく違う力のようだが、じつは次元を一つ変えて考えれば両者はまったく同じものになってしまう、ということが理論的に示されたのだ。
面白い例をあげれば、ごく最新の研究結果では、前述のクォーク・グルーオン・プラズマという強い力の示す現象は、四次元世界では重力のブラックホールに対応することがわかってきたのである。
だから、ブラックホールの計算をすれば、複雑で手に負えなかったクォーク・グルーオン・プラズマの性質を導き、実験と比較することができるのである。

 超弦理論は実験検証不能な机上の空論、という汚名をここでついに返上し、現実世界と比較可能なれっきとした自然科学の理論への第一歩を踏み出せたわけだ。
こうして余剰次元をキーワードにすると、強い力と重力との相似性が別の面でも明らかになってくるから興味深い。
逆に、強い力の示す、ある距離での次元の切り替えという現象が、ADD模型で考えたように重力でもやはり起こるように思うのは期待のしすぎだろうか。



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