前回、余剰次元をキーワードとして考えた場合に、三次元空間の世界の強い力は、四次元(上次元)空間の「重力のホログラム」になっていて、クォーク・グルーオン・プラズマという強い力の示す現象は、上次元世界では重力のブラックホールに対応する、ということを書きました。
今回からは、ブラックホールとホログラムについて書いてみます。
プラトンは、哲学の師であるソクラテスの刑死と同時に、アテナイに失望し、メガラに逃れたのち、キュレネやエジプトを旅し、初期の対話編を書き上げました。
その後、イタリアやシケリア等を旅行した後アテナイに戻り、アカデメイアと呼ばれる学園を設立しました。
イデア論はプラトンの哲学を語るには、欠かすことのできない概念であり、この「イデア」とは、個物、すなわち個々のものが形成される原型となるものです。
イデアは永遠不変であり、またそれらは集合してイデア界を構成します。
プラトンはイデアに関してのみ、知識は可能であると考えます。
ではこの知識は、どのようにして得られるのでしょうか。
それは想起によって可能であると考えられます。
想起は幾何学を考えるとわかりやすいでしょう。
私たちが普段目にする直線や円といった具象図形は、まったく定義通りの純粋図形に比べて、多少なりとも歪んでいます。
この世には存在し得ない純粋図形を私たちが認識できるのは、具象図形を手がかりに、そのようなイデアを想起することができるからです。
このようにイデア界の存在によって、私たちの可視的な世界は構成されているのです。
プラトンは、私たちが目にする世界を、古代の祖先が見たような薄暗い洞窟の壁に映る影になぞらえています。
人間は洞窟の奥に顔を向けて縛りつけられた囚人であり、私たちは背後の灯火によって壁に照らし出された影を眺めることしかできない。
そして我々人類は(哲学者たち)しばしば、その影が実在であると思い込み、この洞窟からの脱出を試みます。
それに成功した者のみが強烈な太陽(善のイデア)を目の当たりにすることができるのです。
最初は目もくらみますが、やがてその本質を理解します。
そこで彼らは仲間にそれを伝えようとするのですが、洞窟内の暗さゆえに今度は中を見分けることができなくなってしまいます。
こうして理解の得られなくなった人間は、しだいに孤立してゆくのです。
ここで重要となるのは太陽の存在です。
太陽、つまり善のイデアは、見るものと見られるものとを同時に成立せしめます。
善のイデアという光によってこそ、個々のものが照らし出されるのであり、私たちはその光に向かうために精神を純化させねばならないのです。
なぜなら、肉体に繋ぎとめられた魂は、もともとイデア界に属していたもので、そこへの回帰を果たすことが、人類の真の目的であるからです。
私たちは、もっと豊かな現実をほのめかすものが手の届かないところで揺らめいているのを、知覚しているにすぎないのです。
それから二〇〇〇年以上たった今、プラトンの洞窟は単なる比喩ではないのかもしれません。
彼の考えを熟考すると、現実と思えることこそが、遠くの境界面で起こっていることであって、私たちが普通の三次元空間で目にするものはすべて、その遠くの出来事を映した影であるかもしれないのです。
つまり現実はホログラムのようなもの、あるいは、本当にホログラフィックな映像なのかもしれません。
ホログラフィック原理は、並行宇宙の仲間のなかでは、ほぼ間違いなくいちばん奇妙な考えであり、私たちが経験するものはすべて、遠くの薄っぺらい面で起こる出来事として、完全に同等に記述できると想定しています。
その遠くの表面の物理現象を支配する法則と、そこでの現象がここでの経験とどうつながるかを理解できれば、宇宙の実像について知るべきことはすべて把握することになる。
プラトンが考えた影の世界の一種が、本当の現実だと認識し得ることになる。
この奇妙な可能性を探る旅は、一般相対性理論、ブラックホール研究、熱力学、量子力学、そしていちばん最近のひも理論など、非常に広範にわたって発展してきた見識を結びつける。
これほど多様な分野をつなげる糸こそ、量子宇宙に存在する情報の本質にはかならない。
ジョン・ホイーラーには、世界屈指の有能な若い科学者を見つけて指導する才覚のほかに、探究すれば自然界の仕組みについての基本パラダイムが変わる可能性のある、重大な問題を特定する鋭い能力もあった。
そして、ホイーラーは、新米物理学者が標準的な大学課程で習うものとはまったく違う物理法則の考えを提唱していた。
従来、物理学はもの(惑星、石、原子、粒子、場)に焦点を合わせ、その振る舞いに影響を与えたり相互作用を支配したりする力を研究してきた。
しかしホイーラーは、もの(物質と放射)を補助的なものと見なし、もっと抽象的で根源的な存在、すなわち情報の担い手と考えるべきだと主張していた。
彼は物質と放射はどうやら幻影だというのではなく、むしろ、もっと基本的なものが形になって現われたものだと論じた。
実在物の中心にあって、それ以上小さくできない核をつくっているのは、情報(粒子がどこにあるか、どういう向きに回っているか、その電荷は正か負か、など)だと考えていた。
そのような情報が実在の粒子に具体的に示されて、その粒子が現実の場所を占め、一定のスピンと電荷をもつ。
この視点から見ると、宇宙は情報処理装置と考えることができる。
ものごとが現在どうあるかについての情報を取り込み、次の現在、その次の現在にはどうなるか詳述する情報を生み出す装置だ。
私たちの感覚は、物理的環境が時間とともにどう変化するかを感知することで、そのような処理を認識する。
しかし物理的環境そのものは創発的であり、基本要素である情報から生まれ、基本ルールである物理法則に従って展開する。
このような情報理論的立場が、ホイーラーの思い描いたように物理学で優勢になるかどうかはわからない。
しかし最近、物理学者のヘーラルト・トホーフトとレナード・サスキンドの研究が主な推進力となって、考え方に大きな変化が起こっている。
そのもととなった不可解な問題の中心は、ある特別にエキゾチックな状況、すなわちブラックホールにおける情報である。
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