仙丈亭日乘

あやしうこそ物狂ほしけれ

【追悼】 北杜夫逝く

2011-10-26 11:20:02 | 日々雜感
北杜夫 が逝つてしまつた。
きのふ、丸谷才一が文化勳章を受章するといふニュースに接して、同世代の北杜夫に思ひを馳せてゐたところだつた。
明るいニュースの後だけに、北杜夫逝去のニュースは私にとつてショックが大きかつた。

私が大學で國文學を專攻する直接の契機となつたのは 三島由紀夫 だが、北杜夫はそこに至るまでの道を拓いてくれた。
北杜夫は、私に文學に親しむきつかけを與へてくれた作家だつた。
小學校の5年か6年の頃、家の書棚にあつた「どくとるマンボウ航海記」を見つけて手にとつた。
まだ子供だつた私が、大人の本を讀んだのは、おそらくこれが初めてだつたのではないかと思ふ。
彼獨特のユーモアに溢れた文體に、私は魅了された。

その後、中學から高校にかけて、私はそれまでに發表された彼の作品を讀み漁つた。
なかでも私を惹きつけたのは、 「どくとるマンボウ青春記」 だつた。
中學生の私にとつて、彼の描き出した舊制高校生の世界は憧れとなつた。
弊衣破帽、朴齒の高下駄での闊歩、バンカラな寮生活、青年ならではの純粹な思索、哲學への傾倒・・・
トーマス・マンの 「トニオ・クレーゲル」 や「魔の山」、 西田幾多郎 「善の研究」、 阿部次郎 「三太郎の日記」、あと、あの、ええい思ひ出せない!
この作品の中に登場する舊制高校生の愛讀署を私も眞似して讀み漁つたものだつた。
この作品は、さういふ意味では私の青春時代のバイブルだつたと云つても良いかもしれない。

北杜夫は1960年代から1970年代にかけて、特に「どくとるマンボウ」シリーズで人氣を博した。
しかし、じつは「どくとるマンボウ」シリーズ最初の「航海記」が發表された同じ年に「夜と霧の隅で」で芥川賞を受賞してゐることは、あまり知られてゐなかつた。
私は彼のリリカルで透明感のある文體が好きで、デビュー作「幽靈」や初期の短篇にも惹かれた。
初期の短篇でとりわけ好きだつたのが、「岩尾根にて」。
抒情的かつ幻想的な作品で、北アルプスの稜線上での、滿天の星空の描寫が強く印象に殘つてゐる。

北杜夫は舊制松本高校時代、戰後すぐに北アルプスに登るほど、山に親しんでゐた。
さうした經驗からか、1965年にはカラコルムのディラン峰登山隊にドクターとして參加してゐる。
その經驗をもとに書かれたのが、 「白きたおやかな峰」
中學時代に山登りの魅力にとりつかれた私にとつて、この作品も愛讀書となつた。

ああ、もう、かうして數へ上げてゐたらキリがない。
いま、彼の著作リストをあらためて眺めたら、1980年までの全著作を讀んでゐた。
1981年以降も80年代のものはおほむね讀んでゐる。
といふことは、やはり私の10代は彼の作品とともにあつたと云つて良ささうだ。

私を樂しませ、私に文學への道を拓き、私に思ひ切り背伸びさせて哲學書を讀ませた、北杜夫。
どうもありがたう。
私の中には、あなたが沁み込んでゐる。
どうか、安らかに眠られんことを。
合掌。




<YOMIURI ONLINE>

「どくとるマンボウ」北杜夫さん死去
2011年10月26日(水)03:01
 
ユーモアあふれる“どくとるマンボウ”シリーズや、大河小説「 楡家 ( にれけ ) の人びと」で知られる作家、芸術院会員の北杜夫(きた・もりお、本名・斎藤宗吉=さいとう・そうきち)氏が、24日死去した。

 84歳だった。告別式は親族で行う。

 近代短歌を代表する斎藤茂吉の次男として東京に生まれた。旧制松本高を経て東北大医学部に進学。卒業後の1954年、初の長編「幽霊」を自費出版した。

 60年には、水産庁の調査船に船医として半年間乗った体験をユーモアを交えて描いた「どくとるマンボウ航海記」を発表。「昆虫記」「青春記」などマンボウものを出版して人気を博した。

 同年、ナチスと精神病の問題を扱った「夜と霧の隅で」で芥川賞。64年には斎藤家三代の歴史を描いた「楡家の人びと」を刊行、毎日出版文化賞を受けた。「さびしい王様」など、大人も子供も楽しめる童話でも親しまれた。「青年茂吉」など父の生涯を追った評伝で98年、大仏次郎賞を受けた。




どくとるマンボウ航海記 (中公文庫)
北 杜夫
中央公論新社


どくとるマンボウ青春記 (新潮文庫)
北 杜夫
新潮社


幽霊―或る幼年と青春の物語 (新潮文庫)
北 杜夫
新潮社


岩尾根にて (1975年)
北 杜夫
青娥書房


白きたおやかな峰 (新潮文庫 き 4-22)
北 杜夫
新潮社




トニオ・クレエゲル (岩波文庫)
トオマス・マン
岩波書店


魔の山〈上〉 (岩波文庫)
トーマス マン
岩波書店


善の研究 (岩波文庫)
西田 幾多郎
岩波書店


新版 合本 三太郎の日記 (角川選書)
阿部 次郎
角川学芸出版






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4 コメント

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阪神ファンの方でしたね! (草もち姫)
2011-10-26 22:54:09
初めましてお邪魔します。
どの本だったか忘れましたけど、阪神ファンの北杜夫氏がテレビ観戦をしていて、このポーズをしていた点数が入ったから次も、その次も同じポーズをしてテレビを見ていた、、みたいな文章がとても印象に残っています。合掌
草もち姫さん (仙丈)
2011-10-26 23:00:59
そうなんです。
私もその本読みました。
北杜夫さんは大の阪神ファンで、じつは私が阪神ファンになったのも、その影響があったりします。
なので、私も、背中を掻いている時にホームランが出ると、次の打席でも背中を掻いたりしています。

Unknown (ねむいヤナイ)
2011-10-26 23:02:17
トラックバックありがたう存じます。
高校生の三大愛読書はたしか「善の研究」「三太郎の日記」のほかは、倉田百三の「出家とその弟子」だつたかと思ひます。

…かう書いてくると、寮生が侵入者に親鸞について説教した後、調べるとその侵入者が靴泥棒であつたとか、「青春記」の場面が次々と思ひだされてきます。
ねむいヤナイさん (仙丈)
2011-10-27 00:18:23
ああ、ありがたうございます。
どうしても「出家とその弟子」が出て來ませんでした。
お蔭樣で、これで安らかに眠れます!

燒夷彈に、
「水をかけちやあイカン!」
なんていふ教授の話もありましたね。

「問題を見てピクリン酸、わきの下にはアセチレン、・・・」
なんてのも・・・
なんだか、北さんが亡くなつたのが、まだピンと來ません。

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