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仙丈亭日乘

あやしうこそ物狂ほしけれ

「太平洋の薔薇 (上・下)」 笹本稜平

2006-07-02 17:31:53 | 仙丈亭特選本(5つ星)
「太平洋の薔薇 (上・下)」 笹本稜平

お薦め度:特選 ☆☆☆☆☆
2006年6月18日読了


笹本稜平の作品を初めて讀んだのは、 「天空への囘廊」 だつた。
エベレストを舞臺にした國際謀略小説であり、かつ第一級の山岳小説といふ稀有な小説で、一氣に惹きこまれてしまつた。

しかし、その次に讀んだ 「時の渚」 には正直云つて少々失望した。
偶然の重なりが、私にはそのままご都合主義に思へてしまひ、素直に樂しめなかつたのだ。
先に「天空の囘廊」を讀んでをらずにこの作品だけを讀んでゐたなら、その後笹本作品を讀んでゐたかどうかわからない。

「太平洋の薔薇」を手にとつた時、私は「天空の囘廊」のやうな感動を與へてくれるか不安を感じた。
もし「時の渚」のやうな作品だつたら、これから先、笹本作品を手にすることはあるまいと思つた。

で、讀了したいま、私はこの「太平洋の薔薇」を手にする機會があつたことを感謝してゐる。
讀んでよかつたと、心から云へる作品だ。

主人公の柚木靜一郎は、貨物船「パシフィックローズ」の船長。
傳説の名船長と云はれてゐるが、今囘の航海を最後に引退するつもりでゐる。
その「パシフィックローズ」が海賊に襲はれ、乘つ取られてしまふ。
そして、この乘つ取り事件の背後にはテロリストの邪惡な野望が隱されてゐた。

柚木靜一郎の娘・夏海は父親の薫陶よろしきを得て、海上保安監になつてをり、IMB(國際海事局)の海賊情報センターに出向してゐる。
父の「パシフィックローズ」が海賊に乘つ取られたらしいことを知り、彼女は公私混同をいましめつつも父を救はうと努力する。
彼女の同僚や部下に相當する海上保安廳の海上保安監たちも、傳説の船長・柚木靜一郎を救はうと協力してくれる。

テロリストに屈伏したやうに見せかけながらも、チャンスを狙ふ柚木靜一郎。
荒れ狂ふ嵐の海を見事な操船技術で乘り切る柚木靜一郎。
最惡の窮地に立たされながらも、テロリストと鬪ふ姿勢を失はず、最後まで諦めない柚木靜一郎の姿に讀者は感動を覺えることだらう。
また、命令に違反してでも柚木靜一郎を救はうとする海上保安監たちの熱き思ひにも、心を動かされること請合ひである。

ラストシーン。
日本の海上保安廳の巡視船、アメリカの驅逐艦、ロシアの原子力潛水艦がみせるセレモニーには感動してしまつた。
いつの間にか涙を流してゐる自分に氣が附いた。


2006年6月18日讀了



太平洋の薔薇 (上)

光文社

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2006年6月14日読了
太平洋の薔薇 (下)

光文社

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2006年6月18日読了


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