仙丈亭日乘

あやしうこそ物狂ほしけれ

『二つの顔の大王』 小林 惠子

2009-05-29 19:09:07 | 讀書録(歴史)
『二つの顔の大王』 小林 惠子

お薦め度 : ☆
2009年5月29日讀了


第一印象として、本書はかつて一世を風靡した「騎馬民族征服説」の燒き直し版だと思つた。
それもかなり強引な・・・

本書によると、第26代繼體天皇以降、聖徳太子を含み、第38代天智天皇まで殆どの天皇が渡來人だつたといふ。
確かに應神天皇5世の孫とされる繼體天皇は「越」(いまの福井縣あたり)から迎へられたといふから、渡來人の可能性がないわけでもない。
本書では中央アジアのエフタル民族が日本にやつてきて繼體天皇となり、さらに新羅に攻めいつて新羅王・智證麻立干になつたとする。
日本と新羅、二國の王を兼ねたから、タイトルの「二つの顔の大王」といふわけだ。

その根據はたいへんに薄弱で、大伴金村が繼體を迎へに行つた際の繼體の樣子として日本書紀に「胡床にて踞坐す(あぐらにてまします)」とあることをあげる。
「胡」といふのは當時の中國が西アジアのことをさす言葉でり、「胡床」といふのは腰掛のやうなもので、日本の風物ではないといふ。
たつたそれだけのことで、繼體=新羅・智證王=エフタル民族といふ假説を立てるのだから、大膽といふほかにない。

出自の怪しい繼體ですらこの程度の論證なのだが、そのうへに屋上屋を重ねるやうな假説が次から次へと現はれるのだから、讀者はついてゆくのがたいへんだ。
正直云つて、私など、讀み進めるのが困難で、數ページ讀んでは居眠りをしてゐるやうなありさまだつた。

かやうな次第につき、お薦めできる本とはいひ難いが、古代史を或る程度知つてゐる人が「怖いもの見たさ」で讀んでみるのもよいかもしれない。
と云つても、讀後に私に苦情を云はれても困る。
あくまでも自己責任でお願ひする次第である。
參考までに、本書による歴代天皇の正體を掲げておく。
著者は「ダブルイメージ」といふ言葉を使つてゐるが、そんな曖昧な言葉で濟まされるやうなことではないだらう。


繼體天皇:エフタル系=新羅・智證王
安閑天皇:高句麗・安藏王
宣化天皇:新羅・眞興王
欽明天皇:百濟・聖王
敏達天皇:百濟・威徳王
用明天皇:百濟・惠王
崇峻天皇:突厥・阿波可汗
聖徳太子:百濟・法王かつ突厥・達頭可汗
舒明天皇:百濟・武王
天智天皇:百濟王子(武王の子)



二つの顔の大王―倭国・謎の継体王朝と韓三国の英雄たち (文春文庫)
小林 惠子
文藝春秋

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<参考>
聖徳太子の正体―英雄は海を渡ってやってきた (文春文庫)
小林 惠子
文藝春秋

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