さて次は最も避難勧告が遅れたエリアについてである。
・氾濫3時間後に避難勧告 すでにひざ下浸水、千曲川支流 (朝日) : https://archive.fo/3Lsij
上記は飯山市の報告にある
『10 月 13 日(日)
6:40 福寿町・本町・肴町・上町・新町・鉄砲町・奈良沢・栄町・県町・北畑 避難勧告』
について朝日新聞が報じたものである。
(・令和元年台風19号関連災害経過報告【第2報】 :4.勧告等 を参照のこと)
記事によれば『飯山市は「・・・排水機能が失われることは想定外で、その時点では精いっぱいの判断だったと捉えている」としている。』と主張している。
実際に職員が現地で皿川氾濫を把握したのが2時半であるから、実はほぼ4時間後に上記市街地のエリアに避難勧告を発令した、という事になる。それほどにこのエリアに対して避難勧告の発令が遅れた理由として飯山市は
・排水機能が失われることは想定外で、その時点では精いっぱいの判断だった
と正当化しているのである。(注1)
さてそれで、これほどに避難勧告の発令が遅れたもう一つの市長が言った言い訳は「夜は暗くて避難をするのが危険だから、朝になって明るくなるのを待った」という「いかにもあとからこじつけた釈明」もあるが、これについては改めて後程検討するものとしたい。(注2)
それで、このページで検討するべき内容は「城山雨水排水ポンプ場が動いていたら」つまり「ポンプ場が耐水化されていて、ポンプ場外に氾濫水が水位1m程も押し寄せてもポンプ場内に氾濫水が浸入する事はなく、従ってポンプが異常停止する事が無かった」としたら、飯山市の主張は本当に成立していたのか、という事になります。
勿論この場合の飯山市の主張は「避難勧告を出すエリアは有尾区、北町区、そうして田町区で十分であった。」という事ですね。
つまり「それ以外の場所には氾濫水は押し寄せる事はなかった」と飯山市は主張しているのであります。
その主張は「氾濫水は北町区、田町区を浸水するものの、雨水排水下水路に流れ込んで排水ポンプ場に導かれ、そこから千曲川にポンプアップされて排水されたであろう。」という事になります。(注3)
それはまた「排水ポンプ場の能力は飯山市街地に降った雨水を排水する事に加えて、皿川からの氾濫水を千曲川に排出するのに十分な余力があった」という主張でもあります。
さて以上の主張は成立していたのでしょうか?
1、実はポンプ場の排水能力は不足していた
1-1、ポンプ場が動いていても6時40分時点で市役所(福寿町)地点、40センチ浸水 : 福寿町区 https://archive.fo/TWjQy
以下、上記で紹介した「飯山市プレス発表第二報」の最終ページにある時系列表からの引用になります。
『5:40 城山雨水排水ポンプ場のポンプ室内に浸水が始まるが、土嚢等で防止。
城山雨水排水ポンプ場3台フル稼働等しており、市街地の内水対策は、機能していた。
・・・
6:40 福寿町、本町、肴町、上町、新町、鉄砲町、奈良沢、栄町、県町、北畑に避難勧告
・・・
7:00 城山雨水排水ポンプ場が、浸水によりポンプ3台が機能停止に陥った。』
つまり飯山市は「7時まではポンプ場の排水ポンプによって皿川からの氾濫水は千曲川にしっかりと戻されていた」、したがって「上記で示した避難勧告発令エリアには皿川からの氾濫水の浸水は無かった」と主張している事になります。
・・・あれれ、おかしいですよねえ。新聞記事によれば
『ただ、市役所などがある地域に避難勧告を出したのは午前6時37分だった。その時点で市役所付近ではひざ下まで浸水している状態だったという。』(注4)
という事だそうで、この事は後日の飯山市議会での飯山市の答弁でもそうなっていました。
さてそうすると「6時40分、この時はまだポンプ場のポンプは停止しておらず、千曲川に排水を続けていたはず」ですが「市役所ではすでに40センチほどの浸水があった」という事が事実であります。
つまり6時40分時点では「ポンプ場のポンプが正常に稼働していても皿川からの氾濫水を千曲川に排出するだけの余剰能力はポンプ場には無かった」と言うのが事実なのです。
1-2、5時時点でポンプ場貯水池オーバーフロー状態(栄川の城見橋で浸水5センチ)
この事に関連してもう一つの事実を挙げておきましょう。
『市街地で洋品店を営むYさんはこう話しています。
「13日午前5時ごろ家の横を流れる川は、道路から5㎝程まで水位が上がっていた。大急ぎで商品を高いところに上げ始めたが、水が店に入って来た。水が床上20㎝ぐらいまで作業を続けたが、どんどん水が入って来て1時間程で70mになり2階に避難した。
もう少し早く皿川の危険性や、越水の情報が早ければ、商品を濡らさずに済んだのにと思う。』(注5)
https://archive.fo/GkFwJ : 上記で言及している川は栄川であって、この画像はそこにかかっている橋(城見橋)を示しています。
それでこの場所の道路の標高は315.1mであって、従ってこの場所で午前5時には315.15mまでこの周辺の水位が上昇していた事になります。
他方でポンプ場の標高は314.7mであって、従って午前5時の時点でポンプ場外周部では最大で45センチほどの水深であった可能性があります。
という事は少なくとも5時時点でポンプ場貯水池は満水状態をこえて水はそこからあふれ出していた、という事です。
事実、飯山市の報告(上記第2報)では「5:40 城山雨水排水ポンプ場のポンプ室内に浸水が始まるが、土嚢等で防止。」とされており、5時40分時点でポンプ場周辺の水深が20センチ~30センチほどであったとしている。
つまり5時40分時点で市街地に降った雨水と皿川からの氾濫水でポンプ場に到達していた水を加えたものはポンプ場の貯水池には収まりきれずにそこからあふれ出しており、ポンプ場周りの水深は30センチにも達していたのです。(注6)
しかし飯山市は事実がそのようであるにもかかわらず
『5:40 城山雨水排水ポンプ場のポンプ室内に浸水が始まるが、土嚢等で防止。
城山雨水排水ポンプ場3台フル稼働等しており、市街地の内水対策は、機能していた。』
と主張するのでした。
しかし事実は5時時点ですでにポンプ場貯水池はオーバーフローしていたのです。
つまり「ポンプ場の排水ポンプは貯水池に集まってくる雨水+氾濫水を十分に排出できなくなっていた」という事になります。
にもかかわらず、よくもまあ飯山市は「5:40 ・・・市街地の内水対策は、機能していた。」などと言えたものです。
ちなみにYさんは「栄川が増水によって氾濫した」と認識していますが、実はこの時にYさんの店を襲った水は4時15分に皿川右岸堤防が決壊し、濁流となって市内を北から南側に流れだした皿川からの氾濫水なのでした。
さらにもう一つの事実を以下に示します。
1-3、25m道路アンダーパス北側エリア(@福寿町)は2時過ぎには浸水が始まっていた : 福寿町区 https://archive.fo/TWjQy
この場所の標高は314.2mでありポンプ場貯水池のふちの標高314.7mよりも50センチ程低い。(注7)
そうして2時の時点では飯山市の第二報によれば『1:50 城山雨水排水ポンプ場 3基にて稼働開始。』であって、もちろん皿川は越水はしておらず、ポンプ場に流れ込む水は市街地に降った雨水だけでした。
しかし2時の時点でポンプ場貯水池の水位はあふれ出す高さにあと50センチまで上昇しており、従って2時過ぎには「ポンプ場の排水ポンプを3台動かしたにも関わらず」「25m道路アンダーパス北側エリア」では雨水下水路のグレーチングから雨水があふれ出していたのです。(近所にお住いの方の証言から引用)(注8)
勿論アンダーパス南側は北側よりも標高が低い(313.9m)のであれば、2時前にはその場所(上町区 堤防沿い : https://archive.fo/gPk9C )で雨水下水路(中央下水路)のグレーチングから水があふれ出していたのです。(注9)
そうであれば『上町区堤防沿いのAさん・・・「13日4時に起きたら30㎝も浸水していてビックリした。慌てて車をNTTの駐車場に避難し、近所へも知らせた』というような証言が出てくるのです。(注10)
但しこの時にAさんをびっくりさせた水は皿川から越水してきた氾濫水ではなく、ポンプ場が排水できなかった雨水でありました。そうして後ほど時間が経過するにつれて皿川からの氾濫泥水がここまで流れてきて、このあたりを1m以上の水位になるまで満たしたのです。
さて、以上みてきました様に、「飯山市の雨水下水路は2時前には機能不全に落ちいっていた」のであります。(注11)
そうしてその原因はもちろん「ポンプ場の排出能力不足」です。
そうしてそれはまた「飯山市がポンプ場の排水ポンプのメンテナンスを怠ってきたから」というのがその能力不足の根本原因です。
そういうわけで「排水ポンプ場の能力は飯山市街地に降った雨水を排水する事に加えて、皿川からの氾濫水を千曲川に排出するのに十分な余力があった」という飯山市の主張は成立していない事が分かります。
それどころか「市内に降った雨水を千曲川に十分に排出できていなかった」という「本来ポンプ場が果たすべき役割すら十分に行えていない」という状況でありました。
これは「現在、飯山市がもっている内水処理の重大な欠陥」であり、飯山市が公表したがらない事実であります。
注1:この「ポンプ場が動いていれば大丈夫だった」という主張はその後の飯山市議会の答弁の中でも飯山市が再度、公言している釈明でもあります。
注2:・参考資料 補足・市長は何と言ったか :・今回水害に対する飯山市長の弁解、言いのがれ、正当化、謝罪なし、反省なしの「とんでも発言集」参照のこと。
『・・・しかし深夜で真っ暗だったわけです。
それで飯山市街地の人口というのは、避難勧告をしました北町等を除いて、およそなんですが、6,000人ぐらいの方々がいらっしゃるわけなんです。
この中には高齢者の方もいますし、それから子どもさんもいますし、赤ちゃんもいらっしゃるということで、これは安全に避難させることが何よりも重要であるというふうに私は考えたわけでございます。・・・
したがって、そういう中で、明るくなって大勢の方々が安全に避難できるのが私はベストだというふうに判断をしたわけでございます。』
注3:・飯山市HP記載 雨水排水系統図 : https://archive.fo/Mfb18
図中の城北1号および2号下水路が飯山市が想定したであろう「皿川氾濫水をポンプ場まで誘導する下水路」となります。
注4:・氾濫3時間後に避難勧告 すでにひざ下浸水、千曲川支流 (朝日) : https://archive.fo/3Lsij
福寿町 : 田町のさらに南側に隣接するエリアで市役所もこのエリア内にある : https://archive.fo/EY2a8
注5:・もう少し早く皿川の危険性や、越水の情報が早ければ、商品を濡らさずに済んだのにと思う。2020-01-20 : https://archive.fo/07r7c :から引用。ちなみにこの方のお住まいは田町区(避難勧告発令は4時50分)であって道を挟んで向こう側が福寿町となります。
その意味では田町も福寿町も標高には変わりなく、田町に4時50分に避難勧告を出したのに、福寿町への避難勧告が6時40分になった、と言うのはどう考えても説明ができない、「異常な事」であります。
注6:栄川は上記注3の「雨水排水系統図」では「栄川下水路」と表示されているものになります。そうして城北1号および2号下水路と栄川下水路の3つともにポンプ場前の貯水池につながっており、雨水と皿川氾濫水はそこで合流してポンプ場内のポンプでポンプアップされ、千曲川に排出されるであろう、と飯山市は想定していたのでした。
しかしながら、なにぶんともに排水ポンプの能力が不足していた為に、貯水池に集まってきた水はそこですでに貯水池からオーバーフローしていたのです。
・貯水池 : https://archive.fo/87wUx
・ポンプ場と内水ゲート このあたりが5時40分ごろに20~30センチの浸水。写真で示されている線は浸水ピーク時の水位 : https://archive.fo/whxFk
・中央排水区(城山雨水排水ポンプ場)のしくみ : https://archive.fo/db83r
注7:ポンプ場の貯水池と雨水排水下水路(中央下水路、真宗寺下水路)とそれぞれの場所に設置された、本来はそこからその場所近傍に降った雨水を下水路に流し込む為のグレーチングはサイホンを構成しています。・サイホンの絵 : https://archive.fo/04yhA
この絵から分かる様にポンプ場の貯水池と雨水排水下水路でつながっているそれぞれの場所のグレーチングがある入り口部分はポンプ場の貯水池とサイホンを構成しているので、ポンプ場の貯水池の水位とグレーチングのある入り口部分の水位は同じ高さになります。
そうして残念ながら25m道路下のアンダーパスのあたりの標高はポンプ場の貯水池のふちの標高よりも低いのです。・ポンプ場貯水池の写真 : https://archive.fo/fgyIC :この池のふちの高さはアンダーパスのある場所の高さよりも高い。
そうであればポンプ場の貯水池が満水になってしまうと、ポンプ場ではぎりぎりで水は外にはあふれませんが、アンダーパス周辺ではグレーチングから水が噴き出す事になります。
そうして台風19号の折にはまさにそのようにして「市街地に降った雨水だけでポンプ場の貯水池は満水となり、2時の時点でアンダーパス周辺で浸水被害を発生させていた」のでした。
注8: https://archive.fo/0BeoE : アンダーパス北側から南側を見る。手前に2つ、グレーチングが見えるが、ここから水があふれ出した。
アンダーパスの北側入り口から南側を見る : https://archive.fo/8juyB
注9: https://archive.fo/TgPQH : アンダーパスの南側のエリアからアンダーパス方向をみる。黄色の車の左奥がアンダーパスになっている。アンダーパスの上を走っている道が確認できる。
少し遠くからの画像 : https://archive.fo/Ikfu7 : このアンダーパスに通じる道沿いにいくつもの中央下水路のグレーチングが配置されており、そこから雨水が逆流しあふれ出した。: グレーチング : https://archive.fo/Semwd
注10: https://archive.fo/114f5 :この件、左記の記事を参照願います。
注11:飯山市が主張する「市街地の内水対策は、機能していた。」という状態は「市内のどこにも雨水による氾濫、浸水被害がない」という事と同じであり、したがって「上町の堤防沿いで浸水被害が出ていた」ということは「市街地の内水対策は、13日の2時には機能していなかった。」という事になります。
追記:上町地区のアンダーパス北側、堤防沿いの場所は市街地の中ではもっとも標高が低い場所のひとつであり、従って2020年7月豪雨として記録されている飯山水害でもこの場所が浸水被害に遭いました。
・なぜ同じところで浸水被害が出るのか~すぐに検証し対策を急ぐべき~15日夜~市街地の浸水 (2020-07-16 ) : https://archive.fo/753H6
この時のこの場所の状況は台風19号襲来の折の13日の2時前の状況と同じであり、上記で説明した様に「このときもポンプ場の貯水池が満水に近づいたためこの場所で浸水被害が発生した」のでした。
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