
今でも思い出すたびに鼓動が速くなる。
目の前には闇が降り、目に見えざる手が頭を激しく揺らす。
---*---*---*---
この世界は本物の世界では無い。電脳のネットワークによってつながれた仮想世界だ。
我々、死後の世界に地獄をさまよう者たちをつなぎ止め、封じ込めておくために作られた、
エンマシステムが見せている夢に等しい世界だ。
人々は、その事実を知らされることなく、永遠に夢の中で生きつづける。
この世界は限りなく本物のように見えるが、それは空虚な作り物でしかない。
私は、はじめてこの世界を制御するこのシステムの存在を知ったとき、そこには悪意しか見出すことができなかった。
我々を物のようにしか考えていない。
如何に抑え込むかということしか考えていない。
ただの管理対象としてしか見られていない。
人としての扱いを受けていない。
私はこの世界を覆う、凶々しさに盈ちた悪意に
光をかざすために、パスワードを求めていた。
そのパスワードがあれば、この世界に枷をはめる秩序を塗り替え、我々を束縛から開放することができるはずだった。
私は仲間を募り、この世界のどこかに隠されたパスワードを探しつづけた。
そして、苦難の末にようやくパスワードと呼ばれているものを捜し当てた。
それは膨大な電脳のデータの山の中に埋もれていた。
我々がそのパスワードを探り当てたのは幸運だった。
そのパスワードは、古の伝説で語り継がれた滅びの言葉であった。
システムを崩壊させようとしている我々の探している言葉が滅びの言葉であるとは皮肉なものだ、と思ったものである。
パスワードを得ることが出来たのは2人の仲間のおかげだった
今にして思えば、これが全ての答えだったのだ。
だが、気づくのが遅すぎた。
仲間の一人が得たそのパスワードを持った私達は、この世界と外の世界を結ぶゲートウェイへと向かった。
パスワードの解析により得られたその場所は、これも皮肉にも古代の伝説の場所と一致していた。
しかし、数々の犠牲を払った私達を待っていたものは、無情にも有効期限切れによるログインの拒絶だった。
希望を奪われた我々がバラバラになるのに時間はかからなかった。一人、また一人と仲間は消え、残された仲間はほとんどいなくなった。
---*---*---*---
パスワードを入力する瞬間は今でも悪夢のようによみがえってくることがある。
今もまたその悪夢にうなされて目が覚めた。
そして、その度に私はパスワードについて考えてしまう。
パスワードは門を通る鍵のようなものだ。私はずっとそう思っていた。
パスワードは秘められた言葉であると信じて疑わなかった。それは誰でも同じだっただろう。その言葉を得ることができれば、必ず道は開くはずだった。
だが、パスワードと鍵は本当に同じようなものだったのだろうか。
鍵は形あるものだ。誰でも見ることが出来るし、手に取ってみることも出来る。
しかし、パスワードは文字の組み合わせ、記号の組み合わせだ。それは文字となり、発音されないと形にならない。それ自身を認識できる「人」がいないと存在できないものなのだ。
それは「文字を書く」「読み上げる」などの、なんらかの人の行動によってはじめて確認できるものである。
言葉は人に何かを伝えることはできるが、全てを伝えることはできない。
門が欲していたパスワードは本当に言葉だけで伝わるものだったのだろうか。
実は、言葉だけではなく、その他の全ての動作を含めた、パスワードを表現するための「行為」にこそ意味があったのではないか。
こう考えたとき、私にはひとつ閃くものがあった。
以前のパスワードに纏わる、古の伝説を調べたときに、その言葉が使われたときの様子も口伝で残されていた。
少年と少女が核となる制御石に手を乗せて、同時に滅びの言葉を発したという。
その行為のひとつひとつがパスワードを発動させるための条件だった。
動作だけでは無い。
もし、その言葉を発したのが、その少年と少女でなかったらどうなったのであろうか。そして、その少年と少女の思いがひとつでなかったらどうなったのであろうか。
パスワードの入力が成立するための条件は単純では無い。
もう一度思い出す。
パスワードは文字の組み合わせ、記号の組み合わせだ。
つまり、
人にも見える形ある物と、
物同士の組み合わせと、
それを並べて示して見せる行為と、
その全てが揃ってはじめて効果を得ることができるのだ。
これらから、パスワードについてひとつの仮説を立てた。ただ、証拠は全く無い。まだこの段階で説明できるようなものでは無い。
第一、ここまでの考えも全てが推測に過ぎない。ここから先に考えていることは推測ですらない。願望に近い。
しかし、私には、この推測に確信めいたものを感じる。
このパスワードという形態に、システム設計者の意図を感じるからだ。
私の願望が正しい場合、悪意に盈ちていると思っていたエンマシステムについて考え直さなければならない。
パスワードはシステムを侵入から防ぐものだと思っていた。
しかし、実はそうではないのかもしれない。
そうではないのかもしれないのだ。
システムは我々を試しているのだ。自分と対話する資格を持つものであるかどうかを。
私はその可能性に賭けてみたい。
そして、私たちはその資格を持っていると信じたい。
それには、まず形ある物を集めることから始めなければならない。
全てはそこから始めることになり、長い道のりとなるのだろう。
しかし、私は諦めない。
たとえこの身がどうなろうとも、私は人類の可能性に賭けることにしたのだ。
(つづく?)
目の前には闇が降り、目に見えざる手が頭を激しく揺らす。
---*---*---*---
この世界は本物の世界では無い。電脳のネットワークによってつながれた仮想世界だ。
我々、死後の世界に地獄をさまよう者たちをつなぎ止め、封じ込めておくために作られた、
エンマシステムが見せている夢に等しい世界だ。
人々は、その事実を知らされることなく、永遠に夢の中で生きつづける。
この世界は限りなく本物のように見えるが、それは空虚な作り物でしかない。
私は、はじめてこの世界を制御するこのシステムの存在を知ったとき、そこには悪意しか見出すことができなかった。
我々を物のようにしか考えていない。
如何に抑え込むかということしか考えていない。
ただの管理対象としてしか見られていない。
人としての扱いを受けていない。
私はこの世界を覆う、凶々しさに盈ちた悪意に
光をかざすために、パスワードを求めていた。
そのパスワードがあれば、この世界に枷をはめる秩序を塗り替え、我々を束縛から開放することができるはずだった。
私は仲間を募り、この世界のどこかに隠されたパスワードを探しつづけた。
そして、苦難の末にようやくパスワードと呼ばれているものを捜し当てた。
それは膨大な電脳のデータの山の中に埋もれていた。
我々がそのパスワードを探り当てたのは幸運だった。
そのパスワードは、古の伝説で語り継がれた滅びの言葉であった。
システムを崩壊させようとしている我々の探している言葉が滅びの言葉であるとは皮肉なものだ、と思ったものである。
パスワードを得ることが出来たのは2人の仲間のおかげだった
今にして思えば、これが全ての答えだったのだ。
だが、気づくのが遅すぎた。
仲間の一人が得たそのパスワードを持った私達は、この世界と外の世界を結ぶゲートウェイへと向かった。
パスワードの解析により得られたその場所は、これも皮肉にも古代の伝説の場所と一致していた。
しかし、数々の犠牲を払った私達を待っていたものは、無情にも有効期限切れによるログインの拒絶だった。
希望を奪われた我々がバラバラになるのに時間はかからなかった。一人、また一人と仲間は消え、残された仲間はほとんどいなくなった。
---*---*---*---
パスワードを入力する瞬間は今でも悪夢のようによみがえってくることがある。
今もまたその悪夢にうなされて目が覚めた。
そして、その度に私はパスワードについて考えてしまう。
パスワードは門を通る鍵のようなものだ。私はずっとそう思っていた。
パスワードは秘められた言葉であると信じて疑わなかった。それは誰でも同じだっただろう。その言葉を得ることができれば、必ず道は開くはずだった。
だが、パスワードと鍵は本当に同じようなものだったのだろうか。
鍵は形あるものだ。誰でも見ることが出来るし、手に取ってみることも出来る。
しかし、パスワードは文字の組み合わせ、記号の組み合わせだ。それは文字となり、発音されないと形にならない。それ自身を認識できる「人」がいないと存在できないものなのだ。
それは「文字を書く」「読み上げる」などの、なんらかの人の行動によってはじめて確認できるものである。
言葉は人に何かを伝えることはできるが、全てを伝えることはできない。
門が欲していたパスワードは本当に言葉だけで伝わるものだったのだろうか。
実は、言葉だけではなく、その他の全ての動作を含めた、パスワードを表現するための「行為」にこそ意味があったのではないか。
こう考えたとき、私にはひとつ閃くものがあった。
以前のパスワードに纏わる、古の伝説を調べたときに、その言葉が使われたときの様子も口伝で残されていた。
少年と少女が核となる制御石に手を乗せて、同時に滅びの言葉を発したという。
その行為のひとつひとつがパスワードを発動させるための条件だった。
動作だけでは無い。
もし、その言葉を発したのが、その少年と少女でなかったらどうなったのであろうか。そして、その少年と少女の思いがひとつでなかったらどうなったのであろうか。
パスワードの入力が成立するための条件は単純では無い。
もう一度思い出す。
パスワードは文字の組み合わせ、記号の組み合わせだ。
つまり、
人にも見える形ある物と、
物同士の組み合わせと、
それを並べて示して見せる行為と、
その全てが揃ってはじめて効果を得ることができるのだ。
これらから、パスワードについてひとつの仮説を立てた。ただ、証拠は全く無い。まだこの段階で説明できるようなものでは無い。
第一、ここまでの考えも全てが推測に過ぎない。ここから先に考えていることは推測ですらない。願望に近い。
しかし、私には、この推測に確信めいたものを感じる。
このパスワードという形態に、システム設計者の意図を感じるからだ。
私の願望が正しい場合、悪意に盈ちていると思っていたエンマシステムについて考え直さなければならない。
パスワードはシステムを侵入から防ぐものだと思っていた。
しかし、実はそうではないのかもしれない。
そうではないのかもしれないのだ。
システムは我々を試しているのだ。自分と対話する資格を持つものであるかどうかを。
私はその可能性に賭けてみたい。
そして、私たちはその資格を持っていると信じたい。
それには、まず形ある物を集めることから始めなければならない。
全てはそこから始めることになり、長い道のりとなるのだろう。
しかし、私は諦めない。
たとえこの身がどうなろうとも、私は人類の可能性に賭けることにしたのだ。
(つづく?)
今までのパロディをすっきりまとめつつ
新シリーズへ、ですね!
wktkして続きを待つ。
最近のアニメはかなりの数の作品がパロディだってことに気づきました。
いい作品はパロディでも使い方がうまいんです。
そんな感じを目指して、やっぱり今回もパロディなんですw