呉服屋さん主催のイベントで、「伝統の継承」をテーマにした中村鷹之資トークショーに行って参りました。
お父さん(故・富十郎丈)譲りの声の良さはトークショーでも冴えわたり、大変素晴らしいお話を伺えた充実の45分間。
司会者が鷹之資君が出演した「4月と5月の歌舞伎座に行かれた方は?」と客に問うと大勢が手を上げて、ご本人は
「わぁ、結構ご覧になってますねぇ」と満面の笑み。
もちろん私も真っ先に手を上げて、心の中で「7月の演舞場も行きますよ~」と叫んでました。
1歳11カ月でお披露目の舞台に立ち(抱かれて?)、公演中に2歳になったそうで、そのときの舞台写真もスクリーンに映し出されました。
可愛い~。
司会者が2歳で舞台に立つ大変さを尋ねると、ただただ泣かないようにと周囲が気を遣ったとのこと。
まだおむつをした赤ちゃんですもの。
私は歌舞伎歴23年目(ミレニアムが初観劇で分かりやすい)で年間必ず30公演以上観てきました。
その間、2~3歳でお披露目という舞台も何度か拝見したし、普段でも本当に幼い子役が出てきますが、一度も彼らが泣いた姿を見たことがなくて
心から感心します(居眠りしていた子は何回か見たけど)。
「さっきまで楽屋であやしてくれていたおじさんたちが舞台に立つと表情もまわりの空気も一変するのが子供心にも分かった」
と鷹之資君は話してくれました。
まさに真剣勝負の場で、ここで自分がぶち壊してはならないと、動物的嗅覚というか歌舞伎役者の本能で感じ取るのかもしれませんね。
11歳でお父さんを亡くされて相当苦労されたそうで切ないエピソードも紹介されましたが、その顔に翳りはなくて好青年そのもの。
世話物の「金がないのは首がないのと同じ」という台詞をもじって、「親がないのは首がないのと同じ」と歌舞伎の世界では言われる
と聞いたことがあって、とりわけ早くに師匠である父親を失った鷹之資君や松也君には親戚のおばさんのような気分で肩入れしてしまう私。
歌舞伎は非日常の世界を描いていて、今現在では消えてしまった習慣や文化も芝居の中では生きています。
そのためにはまさに遊びも全て「芸の肥やし」にするある意味、異様な世界なわけです。
日常をしばし離れて非日常を味わえるのが歌舞伎観劇の楽しみの一つ。
私は板の上の役者の姿だけを見たい、舞台にまつわるエピソードだけを知りたいというスタンスなので、
実際に劇場に足を運んで観劇し、歌舞伎に関する情報は会報や書籍、芝居の筋書きなどから仕入れています。
村上春樹さんがエッセイ(?)で「経験には自腹を切る派」といった類の考えを披露されていて、大いに共感したものです。
以前、友人から「日本人で生の歌舞伎を観たことのある人って3%なんですって」と教わり、少ないなぁ~と思ってきました。
そして、コロナ5類移行の関連ニュースで、過去一年間に伝統芸能(歌舞伎だけでなく、能狂言文楽も含まれるのでしょう)を
見た人は平均3%だったのが、この二年間では2%になったとNHKで報じていたのを聞いて「絶滅危惧種か?!」と危機感を抱きました。
私のような末端の客がそうなんですから、当事者の方々は戦々恐々としているはず。
トークショーの冒頭で「お話し中の撮影はNGですが、終わったら撮影タイムを取りますので、インスタグラムやツィッターでどんどん
発信してくださーい」と司会者から促され、終了後は時間をオーバーしながらあらゆる角度から撮りやすいように向きを変えて応えてくれた鷹之資君。
私はどちらのSNSもやっていないので、撮らずに私服の生鷹之資を見ることに徹していたところ、同行者がたくさん画像を送ってくれました。
どれも素敵な笑顔で、さすがプロ!
撮られ慣れてる。
お召し物はお父様のものだそうです。
若い人が渋いお着物ってのは粋ですよね。
礼儀正しく話上手で、非常にスマートな鷹之資君。
SNSでの宣伝はできずお役に立てないけど、8月5日の特別舞踊公演のチケットは今日から発売だったので、早速買いました。
物心がつく前から修行の世界に投げ込まれ、それを何とかものにしたいと励む全ての歌舞伎役者を今後も応援し続けるぞー
と思わせてくれる素晴らしいひとときを提供してくださって、ありがとうございました。