なに人がきて脱ぎかけし藤袴(ふぢばかま)
来る秋ごとに野辺を匂はす 藤原敏行(三十六歌仙の一人)
藤袴(ふぢばかま) キク科の多年草
芳香を放つことから、秋の七草の中でも人気が高いという。
原産地中国では、洗髪用に使われたそうだが、日本では
出陣の武士が兜にたきこめたといわれる。
この藤袴について高橋治は次のように書いている。
「源氏物語」藤袴の巻で、夕霧が父源氏の使者として玉鬘の
もとに行き持った蘭の花を手渡す。それが藤袴で、この花が
蘭と呼ばれていた傍証とされる。
玉鬘は「源氏物語」中最も印象的な薄倖の美女夕顔の娘で、
父は源氏のライバルだった若き日の頭中将、源氏の妻葵上
の兄である。「夕顔」は大河小説の中にさしはさまれた短編
という説もあるくらいで、見事な出来映えを示す。その伏線が
第二帖「帚木」(ははきぎ)のいわゆる”雨夜の品定め”に出て来る。
その玉鬘(たまかづら)に源氏父子が思いを寄せる。錦織のように
人間関係があやなす王朝絢爛(けんらん)の絵巻を、この花と香り
が彩っている。
この歌の派生歌に源実朝の次の歌がある。
藤袴きて脱ぎかけし主やたれ
問えど答えず野辺の秋風
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