できるだけごまかさないで考えてみる-try to think as accurately as possible

さまざまなことを「流さずに」考えてみよう。"slow-thinking"から"steady-thinking"へ

ひさびさ 日銀行員 紙幣抜き取り事件から話を引っ張ってみる

2004-11-27 04:33:44 | Weblog
 結局数日空いてしまった…。実は月曜から日中首脳会談で話題になったが議題にはならなかった「靖国問題」について、政教分離について調べたり考えたりしているうちにもう金曜の夜になってしまった。感情を爆発させるだけの文章は書くまいと決めているので、数日空くことはご容赦頂きたい。12月半ばになると、冬期直前講習が始まるから、どのくらい投稿できるか今から不安である…。

 さて、ここ数日考えていたもう一つの事件は、タイトルに書いた「日銀行員(船橋支店)が、ゾロ目番号などの珍しい紙幣をあらかじめ抜いて両替機に入れていた」事件である。読売では詳しく報道されている。

 新札を先に触ることができる立場にあるものが、プレミアがつくであろう紙幣を先に抜き取るという行為は、抜かれた紙幣が額面以上の価値を持つ意味でも立派な経済的犯罪である(コイン屋では、オール7並びの紙幣は、1000円札でも迷わず10万円の値をつけるとテレビで報道されていた。100倍である)。実際に、今は消されたようだが、インターネットオークションでも、ゾロ目などの稀少紙幣がオークションにかけられていた。その金額は知らないが、少なくともオークションが成立する程度の経済的価値があるということである。

 私がここで主張したいのは、こういう行為に及んだ行員(5人程度)を厳罰に処せ、ではなく、こういう行為を実行してしまう雰囲気が、実は現在の日本社会に幅広く存在するのではないかという問題提起である。流行語で言えば「モラルハザード」というやつで、「やってはいけないこと/やってもいいこと」の境界がかなり「やってもいいこと」にシフトする方向で曖昧になっている状態なのである(「モラルハザード」の本来の出所は保険業界のはずなのだが、それはまた機会があれば)。

 『新札を先に手にすることのできる銀行員が、珍しい紙幣を先に抜き取るのも「あり」かなぁと思っている一般人が多い』と彼ら(日銀の犯人たち)も何となく思っていたからこそ、彼らは珍しい紙幣を抜き取る行為に出たのであろう。逆に、『こんなことすると世間は激怒するだろうな』と思っていれば、日銀の銀行員とはいえ、このような軽挙に出ることはできなかったであろう。その差を焦点に当てたいのである。

 『新札を先に手にすることのできる銀行員が、珍しい紙幣を先に抜き取るのも「あり」かなぁ』と思っている人が『多そう』という社会は、分野を変えれば『大学入試でも、きっと裏口入学があるんだろうなあ』と思っている人が『多そう』な社会とも言えるし、『宝くじの高額当選者も、きっと何かの裏技があるんだろうなあ』と思っている人が『多そう』な社会とも言える。このような社会だとすると、いったい誰が、地道な努力の価値を重んじようとするだろうか?つまり、こういう方向のモラルハザードが進むことで、努力の価値が軽んじられ、「なんでも所詮運や権力だから、インチキでも何でも運や権力や金(権力を買うため)を手に入れたものが勝ち」という価値観が支配的な社会になるのだ。私はこの事件で、このような問題提起をしたい。

 実際に、英語を教えているクラスでは、英文法や単語そのものを地道に身につけようという姿勢をもっている生徒は驚くほど少ない。半数以上の生徒が英語そのものの力を身につけなくても、どこかに「気軽に解ける裏技」があると思いこみ、現役生であれば10月以降になってもエンジンがかからない生徒が多いのだ。だからこそ英語でも論文でも、「才能などという言葉にすがるな。努力を信じよ」という点は一貫させて教えているわけだが、相変わらず毎年「いい加減にやっても大丈夫ダヨーン」系の指導法や参考書との正面対決となり、はなはだ疲れる。

 大学入試ほどフェアな競争もめったにないというのは自信を持って言える。言い換えれば、その他の競争の多くは大学入試ほどフェアではない。だからこそ、フェアな制度である大学入試で、正面突破することの重要性を頭ではなく体に身につけてもらうことが、私の講師としての最大の目標なのだが、このような事件があるたびに、「やっぱり現実はどんどんこういう方向に進んでるよな」と思わざるを得ない。すなわち、私にとってはこの仕事は「生徒」や「現実」との「がまん比べ」なのだ。

 最終講前に書いておくにはいい内容だと思ったので暴走してみた(論文の参考にはならないだろう)。この時期に、あえて「愚直に努力することの重要性」について考えてみてもらいたい。

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