しまなみニュース順風

因島のミニコミ「しまなみNews 順風」は、しまなみ海道沿いの生活情報をリリースし、地域コミュニティー構築を目指します。

満開の桜は賑わいを待っている

2005-04-18 15:28:56 | 生活雑感
 因島公園に上がっていくその沿道には桜並木があり、毎年見事に桜の花が咲いている。咲き誇る桜は、冬の寒さを忘れさせ、新しい命の育みを感じさせる春を呼び寄せているようだ。
 今年の因島公園には恒例の桜祭りもなく、比較的静かに花見客が散策を楽しんでいる。ウォーキングする人、職場の仲間を集めて花見を楽しむ人、家族連れで桜の花の織りなすこの季節独特の雰囲気を満喫したい人が笑顔を見せている。
 この日は、二つの桜祭りに注目していた。
 一つは、今年で30周年を迎える三庄町の寺谷公園のさくら祭。もう一つは、鏡浦町で20年以上前から恒例となっている町内桜祭り。どちらもその地区の人たちが大切に残してきた文化的な財産と呼べるもので、運営スタッフの思い入れも深い行事となっている。
 最初に訪れたのは、三庄町の寺谷公園の桜祭りで、この桜祭りを運営しているのは「緑樹会」という地元の人たちで組織するボランティア団体の人たちだ。およそ50人ほどのスタッフが公園の広場に集まってくる花見客を迎え、花見の賑やかさを演出するためにカラオケなどを用意している。
 緑樹会のスタッフのお一人、明徳寺の加藤住職は、事前取材の中で、
「30年も前から瀬戸内ライオンズクラブの人たちにお世話になり、こうしたお祭りが続いているんで、今年はお祭りの前に物故者への追悼法要をしたいと思っているんです。宗教的な意味合いの濃いものではなく、先人達への感謝の意味を込めたもので、これからも大切にこの祭を続けていくためにも必要なものだと思っています」と述べられていた。
 明徳寺の境内へ回ってみると、お茶の席が設けられていて、家族連れが桜満開の寺谷公園を眺めながらのお茶を楽しんでいる。
 一年に一度、地域の人たちが集まり、笑顔を交わす。
 人の交わす笑顔は、年輪のように積み重なり、地域の絆を深めていくものだと思う。テントを張り、雨の心配をし、ケガをする人が出ないように事前のチェックを怠らず、ご案内のチラシを作り、お持てなしの準備を粛々と進める。こうした毎年変わらぬ行事は、人々の積み重ねてきた年輪の中で見事な花を咲かせているように感じられる。
 桜の花は、その心根を知っているからこそ咲くのだと思う。
 次に訪れたのは、鏡浦町民会館で催された鏡浦町内花見会だった。
 会場を訪れてみると、およそ70名ほどの地域の人たちが集まって、賑やかに花見会を開いていた。聞けば地区の3分の2ほどの人が参加して来るそうだ。この花見会を最初に提案した宮地 芳さんは、カラオケマイクを握って総合司会をしている。
「みんなに喜んでもらったらえんですよ」
 若い頃は人前で話すのが苦手だったと言われる宮地さんは、「道化」になって地域の人たちに楽しんでもらえることが大事だと言われる。
 町民会館に一歩足を踏み入れると、楽しそうな会話の花が咲いている。90才を越えてなお元気に歌うお年寄り、脳梗塞のリハビリに励み勇気を振り絞って歌を披露する人、花見の賑やかさを演出しようと踊り出す人。ここには、親戚よりも濃い地域のつながりがある。
 会場の外には、かつてここが鏡浦小学校の敷地だったことを話しかけてくるような満開の桜が咲いている。
「ここがこのまま寂れていくのは寂しい」
 裏方として洗い物をしている女性たちは口を揃える。
 地域の人たちの話を聞き、和やかな雰囲気に浸り、酔いが回れば満開の桜に話しかける。あでやかな衣装を着た人たちはいなくても、贅を尽くした料理やお酒がなくても、ここには人の穏やかな暮らしがある。
 その暮らしぶりは、寂しいものだろうか。
 鏡浦町民会館に咲く桜の花は、ただ賑わいを待っているだけなのかもしれない。
 そのことを裏付けるように、今年、鏡浦の大岩脈が正式に県の天然記念物になる。識者によれば、この大岩脈は国の天然記念物級のものだと評価されているようだ。愛媛県側のグリーンツーリズムでは、宮窪の潮流体験や伯方島の魚の捌き方教室などが人気を呼び、修学旅行客を集めている。ここ鏡浦町には、大岩脈だけでなく、モーガンスチー号救援の美談もある。
 賑わいは、仕掛けなければ実現しない。
 穏やかな暮らしを楽しみつつ、人との交流を図れるこの地域は、贅沢な悩みを抱えいるのかもしれない。

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