Mのミステリー研究所

古今東西の面白いミステリーを紹介します。
まだ読んでいないアナタにとっておきの一冊をご紹介。

「イノセント・ガーデン」雰囲気たっぷりのミステリアスな物語

2014-03-22 11:41:07 | 日記
オールド・ポーイのパク・チャヌク監督の作品ですが、ミア・ワシコウスカの魅力と相まって雰囲気たっぷりのミステリアスな物語でした。急死した父の
葬式に不意に現れた叔父。母と娘のあいだに入り込む叔父。危うい雰囲気の三人の関係とミア・ワシコウスカ演じるインディアの繊細な内面。それらをパク・チャヌク監督は丹念な画面作りで
観せます。そしてプロローグにあるインディアのモノローグ。その意味はラストで明らかになる演出の良さ。叔父のなんとなく胡散臭い感じもチラッと見せる偏執的なところも
伏線としてとても上手いと感じます。二コール・キッドマンも確かな演技で魅せますしこのキャスティングはなかなかピタリとはまった良いものでした。
意味深なエピソードを見せながら少しずつ叔父の正体が明らかになり、つれてインディアの隠されていた内面が表層に現れてくるところはゾクッとする怖さを感じます。
もちろん叔父役のマシュー・グードの怪しい雰囲気の演技も光っていますが、いちばんはミア・ワシコウスカの魅力でしょう。あの無言で射るようなまなざしのアップの画面。
主人公と同化したように感じます。観終わった後少し疲れを感じるのはパク・チャヌク監督のあの雰囲気たっぷりの映像に酔ったということなんでしょう。

     

「夏の名残の薔薇」恩田陸の世界

2014-03-22 10:03:39 | ミステリ小説
この作家の本はそう数多く読んでいない。これはタイトルが素敵なのとあらすじを見て面白そうと感じて読んでみた。
この人の作品はキチンと最後に完結する話しではなく曖昧なまま終わらせるやり方が多いようで、この物語もそんな終わり方をする内容だった。
何人かの人物がそれぞれの胸のうちを語る。そんなシチュエーションがよくある様で、「木曜組曲」もそんなスタイルの書き方だった。
一人ひとりの口から語られることも微妙に変化していき、どれが真実でどれがウソなのか分からなくなっていく。事件はあったのか無かったのか、それすらも曖昧に見えてくる。
辺鄙な山奥に建つグランドホテル。毎年招待される企業の関係者たち。創業者の娘たち三人がディナーの席で語る不思議な話。通例となっているその席で
語られるのは記憶の底に沈殿した犯罪を掘り起こす物語。華やいだ人物たちが多く集まるが、いろいろな噂をもった人たちの集まりでもある。
三姉妹それぞれの口から語られる物語も境界が曖昧でどこまでが現実かハッキリしない。そんな内容ではあるが物語の世界に引きずり込まれる。リーダビリティのある
恩田陸独特の語り口のせいでしょう。雰囲気ある世界でミステリアスな物語を読ませてくれるそんな本でした。


               

「さよならドビュッシー」中山七里のミステリ

2014-03-22 09:18:23 | ミステリ小説
ピアニストを目指すひとりの少女を主人公にしたミステリです。一家が火事に会い少女も大怪我をします。しかし、懸命なリハビリに励み
少しずつピアノが弾けるようになり、コンテストに出るまで回復していきます。こういった音楽家を目指す人とか音楽に関係する人を扱うにはどうしても文章で音楽そのものを
上手く表現しなければなりません。それなりの筆力がなければ難しいところでしょう。しかし、この筆者はピアノを弾くところや曲のイメージそのものを的確に表現して
読むものに充分伝わる書き表し方をしています。この辺はたいしたものと素直に感心します。こつこつと努力して最後に栄冠を掴むまでの物語ですが、最後にドンデン返しがあります。
読者の思い込みをひっくり返すトリックですが、このトリックそのものは古いもので目新しくはありません。しかし、全体的によく考えられたストーリーであり読者を引っ張っていく
力と技を感じさせます。しかし、辛口でいえばミステリの初級か中級者向けの内容です。高校生あたりの人が読めば最後に「えっ!」となるでしょう。
トリックそのものよりもストーリーが読ませる内容だったので個人的には楽しめました。

        

「隻眼の少女」摩耶雄嵩のミステリ

2014-03-22 08:08:51 | ミステリ小説
摩耶雄嵩の本はなかなか一筋縄ではいかない複雑さがあります。デビュー作の「夏と冬の奏鳴曲」にしてから凝った作りの内容でした。
映画でいえばミヒャエル・ハネケ監督の作品を想像させます。本格派のなかでもかなり問題作を書く人だと思います。チェスタトンや乱歩のミステリの十戒などを逆に取り込み
う-ん、と唸らせるメタミステリのようなモノを意識して書いています。もちろん周到な伏線を用意しておりフェアであることに少しも揺らぎはありません。
本格ファンには彼の作品は外せないのですべて読むことになります。彼の作品はいつもミステリとは?と根源を意識したストーリーと設定、あるいはトリックであったり
プロットになっています。この「隻眼の少女」も正統派の書くミステリとはちょっとブレたストーリーであり、そこが読者を騙す心理的作用になっています。
ネタバレになるので詳しくは書けませんが、終盤で見事な背負い投げをくらい、さらにその後に捻りがある、そんな作品が多い作家でアンチミステリのような
書き方をしますが、そこが他とは一味違うこの作家の特徴といえます。個人的に好きなのは「夏と冬の奏鳴曲」、「あいにくの雨で」、「鴉」、「螢」、「翼ある闇」、「木製の王子」
といったところです。この本のテーマは探偵です。探偵とは何か?ミステリ小説における探偵とは?そんな問いかけがあります。
すべてを明らかにしない、謎は謎で残したまま読者に預ける、そんな探偵もいるだろう。そう云っている様に思います。
そしてミステリの十戒をあえて逆手に取る手法で、より本格のスタイルを守る。これもそんな作品となっています。


                                     

「眼球堂の殺人」と「双孔堂の殺人」

2014-03-09 10:18:53 | ミステリ小説
メフィスト賞受賞作の「眼球堂の殺人」と二作目の「双孔堂の殺人」を読みました。某国立大建築学科卒の筆者ですがこのミステリの
主人公は放浪の天才数学者です。恐ろしく難解な高等数学の問題あれこれをのべつ間もなく喋ります。ポアンカレ
予想とか単連結な三次元閉多様体は、三次元球面と同相であるとか、さっぱり解かりません。
一作目はオーソドックスな書き方で、不思議な形容の館に招待された主人公の数学者十和田只人と彼にまとわりつくルポライターの陸奥藍子の二人。
他にも各界の天才と評される人々がいた。そして不穏な雰囲気の夕食会が終わり各人割り当てられた部屋に消える。翌朝館の主人が無残な姿で発見される。さらに第二、第三の被害者が・・・。
そんなストーリーです。殺人現場は不思議なあり方でフーとホワイとハウが揃います。しかし、犯人指摘の前にハウダニットです。どの様に犯行をなし得たか証明しなければなりません。
その謎に挑むのが放浪の天才数学者十和田只人という趣向です。メイントリックは壮大な仕掛けとして理解できますが犯意が理解出来ませんでした。しかも、主人公の変人じみた
数学の難しい話ばかりでは付いて行けません。もう少し人間的魅力を加味していかなければと思います。最後にドンデン返しがありますが、登場人物から予想がつく範囲内でした。
でも、デビュー作としてはレベルは高いものです。十和田只人を主人公にしたシリーズになるのでしょうか。

「双孔堂の殺人」は物語の始めに十和田只人が犯人として警察に逮捕されてしまいます。Y湖畔に伝説の建築家が建てた鍵形の館「双孔堂」そこで起きたふたつの密室殺人。館を
訪れた東京の警視がいろいろと調べ、見聞きした事柄を十和田只人に聞かせます。つまり今回彼はアームチェア・デイテクティブの立場になります。警察の取調室にいて
与えられた情報を組み立てて犯人を指摘するという展開になっています。しかし、相変わらず難しい数学の話のオンパレードです。館にいた二人の数学者の議論も長々と
続き、読んでいるこちらにはさっぱり理解出来ないので眠くなってきます。「熱の分布を曲率に置き換えて、その移動を多様体の位相同型を保った可逆的、連続的な変形と捉えれば、
多様体の安定性が証明できるということだよ。つまり、ある種の多様体に対するリッチフローのリアプノフ関数がすべて球面に安定するなら、その種の多様体はすべて球面に
位相同型だと言えるということだ。これは本質的に分類の問題だから、あるいはサーストンの幾何化予想を証明する手がかりになるかもしれん」って何のことか解かります?
いったいこの本は誰に向けて書かれているのかと首を傾げたくなります。この館のトリックもギリギリ成立しているような印象です。もっと独創的なトリックを見せて欲しいと
思います。前作にも出ていた主要な人物が今回も姿を見せます。その人物が最後にある人物に、すべてはオイラーの等式にしたがっているだけと言います。これも
さっぱり解かりません。なんのこっちゃ。