Mのミステリー研究所

古今東西の面白いミステリーを紹介します。
まだ読んでいないアナタにとっておきの一冊をご紹介。

「眼球堂の殺人」と「双孔堂の殺人」

2014-03-09 10:18:53 | ミステリ小説
メフィスト賞受賞作の「眼球堂の殺人」と二作目の「双孔堂の殺人」を読みました。某国立大建築学科卒の筆者ですがこのミステリの
主人公は放浪の天才数学者です。恐ろしく難解な高等数学の問題あれこれをのべつ間もなく喋ります。ポアンカレ
予想とか単連結な三次元閉多様体は、三次元球面と同相であるとか、さっぱり解かりません。
一作目はオーソドックスな書き方で、不思議な形容の館に招待された主人公の数学者十和田只人と彼にまとわりつくルポライターの陸奥藍子の二人。
他にも各界の天才と評される人々がいた。そして不穏な雰囲気の夕食会が終わり各人割り当てられた部屋に消える。翌朝館の主人が無残な姿で発見される。さらに第二、第三の被害者が・・・。
そんなストーリーです。殺人現場は不思議なあり方でフーとホワイとハウが揃います。しかし、犯人指摘の前にハウダニットです。どの様に犯行をなし得たか証明しなければなりません。
その謎に挑むのが放浪の天才数学者十和田只人という趣向です。メイントリックは壮大な仕掛けとして理解できますが犯意が理解出来ませんでした。しかも、主人公の変人じみた
数学の難しい話ばかりでは付いて行けません。もう少し人間的魅力を加味していかなければと思います。最後にドンデン返しがありますが、登場人物から予想がつく範囲内でした。
でも、デビュー作としてはレベルは高いものです。十和田只人を主人公にしたシリーズになるのでしょうか。

「双孔堂の殺人」は物語の始めに十和田只人が犯人として警察に逮捕されてしまいます。Y湖畔に伝説の建築家が建てた鍵形の館「双孔堂」そこで起きたふたつの密室殺人。館を
訪れた東京の警視がいろいろと調べ、見聞きした事柄を十和田只人に聞かせます。つまり今回彼はアームチェア・デイテクティブの立場になります。警察の取調室にいて
与えられた情報を組み立てて犯人を指摘するという展開になっています。しかし、相変わらず難しい数学の話のオンパレードです。館にいた二人の数学者の議論も長々と
続き、読んでいるこちらにはさっぱり理解出来ないので眠くなってきます。「熱の分布を曲率に置き換えて、その移動を多様体の位相同型を保った可逆的、連続的な変形と捉えれば、
多様体の安定性が証明できるということだよ。つまり、ある種の多様体に対するリッチフローのリアプノフ関数がすべて球面に安定するなら、その種の多様体はすべて球面に
位相同型だと言えるということだ。これは本質的に分類の問題だから、あるいはサーストンの幾何化予想を証明する手がかりになるかもしれん」って何のことか解かります?
いったいこの本は誰に向けて書かれているのかと首を傾げたくなります。この館のトリックもギリギリ成立しているような印象です。もっと独創的なトリックを見せて欲しいと
思います。前作にも出ていた主要な人物が今回も姿を見せます。その人物が最後にある人物に、すべてはオイラーの等式にしたがっているだけと言います。これも
さっぱり解かりません。なんのこっちゃ。

                                            

絵画とミステリーの組み合わせ「殉教カテリナ車輪」

2014-03-09 08:45:27 | ミステリ小説
市立の美術館に勤める学芸員が、ふとしたきっかけで一人の無名画家に興味を惹かれる。画家の名前は東条寺桂。その画家の経歴を見ると三十八歳で亡くなっていた。
三十三歳から制作を始め三十八歳で死亡している。自殺だった。わずか五年の製作期間。休みを利用して遺族を訪ねた。妻に話を聞くうち自殺した同じ年にたった一度個展を開いていた。
その時買われた二枚の絵を見たくて買った親族を訪ねる。イコノグラフィー<図像学>とイコノロジー<図像解釈学>をもって遺されていた二枚の100号の絵に意味を見出そうとする。
不思議な絵は何を表わしているのか。そして一枚の絵に手記が隠されているのを発見する。クリスマス・イブの夜に起きた二つの密室殺人。一階の風呂場と二階の部屋に被害者が、そして凶器はひとつ。
風呂場で叫びがあり、その数分後二階で悲鳴が上がる。風呂場も二階の部屋も施錠されていた。誰がどの様に犯行を。
前半の学芸員が絵の作家を調べて家族のもとへと訪ね歩くところが、独特の雰囲気ある文章で読ませます。イコノグラフィーとかイコノロジーとか初めて知ったので新鮮で、そういった手法で絵を
読み解くとは中々面白いと思いました。後半は一転して果然ミステリ小説になってきます。見つけた手記。それを読み進む形で彼、東条寺桂の人柄や人間性。そして一人の少女との出会いなどが
語られます。この主人公の画家東条寺桂の心情はとても良く理解出来ます。絵を描きだしたきっかけとその少女への想い。五年の製作期間での自殺はその時点が彼の完結だったということに。
ミステリ部分よりも前半と画家の心情などを表わしたところが良く描かれていて面白い読み物と感じました。
東京創元社から刊行されている本ですが、装丁が恐ろしく地味で何故こんなにも地味な装丁にしたのかと首を傾げるばかりです。
作家さんもこのような装丁でよくOKを出したものと思います。

第九回 鮎川哲也賞受賞作 飛鳥部克則 著「殉教カテリナ車輪」