Mのミステリー研究所

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まだ読んでいないアナタにとっておきの一冊をご紹介。

『絶叫』葉真中 顕のミステリ

2015-07-11 13:34:09 | ミステリ小説
                         

平凡な夫婦に生まれた一人の女の人生の軌跡を見せます。そして一人の女刑事が登場しますが、この女刑事も
主人公の女と同様性格的に少し欠陥があるように描かれます。

そういえば登場してくる男も女もみんなどこか欠陥のある人物ばかりで、パーフェクトな人間的に優れた人物は一人もいません。
生まれも育ちもハッピーといった人々は物語の外に登場しますが、この物語の軸を織り成す人はそんなお気楽で人の良い人物ではありません。

どこか歪な母親と距離を置くようになった陽子。その陽子が生まれたのは1973年で、育っていく背景のその時代のエピソードがいろいろと描かれて陽子の生活の変換が
時代の波によって変わっていく様が読むものの胸にしっかりと響きます。幼い弟の事故死。借金を残し蒸発した父。実家の兄弟のところに身を寄せる母親。ひとり自活を決めた陽子。

小さい頃から居場所がないと感じていた陽子。地元の短大を卒業し小さな地元の会社で働き始めた陽子。そして少しずつ転落が始ります。
壮絶ともいえるひとりの女の堕ちた人生が続いていきます。

陽子の物語とは別に、現在の時間軸で100番通報によりマンションの一室で発見された死体の確認に所轄署から赴く女刑事が登場します。
非婚率の増加や単身所帯の増加、そして高齢化などの社会構造の変化から現在孤独死が爆発的に増えています。

独り暮らしの者が人知れず死んでいる。病死か事故死か、あるいは自殺か、いずれにせよ事件性は低い。単身向けマンション、
施錠あり、音信不通、オーナーが発見というのは典型的なパターンでもある。女刑事も事件とみるほどの感じは得られなかった。

しかし、キチンとした報告を上げるため戸籍を確認していくと・・・。

こうした二人の女の視点で交互に物語が語られますが、最後には二人の軌跡が交差します。時間のズレがあるわけですが一人の女の転落の人生と、マンションで死体で見つかった女の
身元を戸籍から遡って調べていく女刑事。

どちらの女も問題を抱え居場所を探しているところは同じです。このあたりのエピソードというか内容はとても上手く書かれており、物語として非常に面白く読み進みます。
物語のラストは個人的には予想外な終息を迎えましたが、内容的にこのラストは良い方向なのではと思いました。

主人公の陽子という一人の女の壮絶な生き方はとてもドラマチックで、さらに一人の女刑事がそこに絡んでくるという展開の面白さがとても効果のある演出で読ませてくれます。
初めて読む作家でこれほど面白く読んだ本は久しぶりです。 とても満足のいく一冊でした。
       
    

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