Mのミステリー研究所

古今東西の面白いミステリーを紹介します。
まだ読んでいないアナタにとっておきの一冊をご紹介。

『暗闇・キッス・それだけで』森博嗣のミステリ

2015-05-31 06:24:28 | ミステリ小説
                          

ちょっとハードボイルド風の味付けをした作品です。ミステリとしては例えば三津田信三や
小島正樹のようなコテコテの本格ミステリといった感はありません。さらりと読めます。起きる事件はひとつで、そのなかでの謎めいた部分もそう複雑ではなくシンプルといえます。

でも中身の無い軽い作品とは思いません。前作の『ゾラ・一撃・さようなら』に続く探偵の頸城悦夫を主人公にした物語です。若いころ海外にいて愛する人の死に遭遇するという
心の傷を負い失意のうちに日本に帰ってきたという過去を持っています。若い時は何でも出来る、すべては自分の手の中にある、そのような思いで海外を放浪していた時に
知り合った女性でした。内戦が起きた国でその暴力で彼女は亡くなりました。日本に帰ってからも不眠症に悩まされ立ち直るために探偵になったのかもしれません。

氏の作品の特徴はなんといっても登場する人物のキャラクターの造形の上手さです。犀川助教授、西之園萌絵シリーズや保呂草潤平、瀬在丸紅子シリーズのように楽しい連中が
活躍する物語がなんといっても読んでいて面白いのです。そして理系ミステリと評された主要人物の会話や思考がこれまでにない新鮮さで、謎解きのプロセスも理系的な思考の元
に真相に至るといった様子でとても面白く感じました。

この本も会話や主人公を取り巻く人物たちとの設定が面白く、事件に係わることになるのも自然で、最後には彼の力で解決に至るわけですが、そうアクセクと動き回る事もしないで
時間とともに事態が動きその出来事を繋ぎ合わせて真相に気付くという内容になっています。探偵と云う割には華々しい活躍はしませんが、彼の人間性が周りの人を惹きつけ信頼されて
係わっているうちに事件に遭遇し、自然の流れのなかで真相に辿り着くという事になっています。キャラクターの魅力と会話の楽しさ、そして作中で見られる著者の価値観。
個人的にはとても好きな作家の一人です。



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