どうぶつのこころ

動物の心について。サルとか類人猿とかにかたよる。個人的にフサオマキザルびいき。

情報秘匿を3種のサルで比較する

2009-07-26 21:03:09 | 社会的知性
A48 Amici, F., Call, J., & Aureli, F. (2009).
Variation in withholding of information in three monkey species.
Proceedings of the Royal Society of London, Series B: Biological Sciences. (DOI:10.1098/rspb.2009.0759)

サル3種における情報秘匿の変異
これまでの戦術的欺きに関する研究により、情報をもった劣位個体がそれを知らない優位個体から情報を秘匿することは報告されてきたものの、直接に種どうしで遂行を比較するものはなかった。ここでわれわれが比較するのは、2つの情報秘匿課題において示されたサル3種の遂行である。その3種のサルは、どれほど優劣順位制が厳しいのか、また離合集散ダイナミクスがどの程度なのかで異なっている。その3種とは、クモザル、オマキザル、カニクイザルである。食物を、〔劣位個体は見えるが〕優位個体の見えないところで、不透明な箱もしくは透明な箱に隠した。透明な箱は、やり方を知っている劣位個体だけが開けられた。どの種も情報を秘匿でき、被験者は優位個体のいるときには箱と作用しあうことをしなかった。クモザルは、優位個体が箱から離れているときに時宜を得ることで、もっとも能率的に食物を回収した。オマキザルも、箱のところにひとりでいる〔優位個体が箱から離れている〕ときには、じつに能率よくおこなったが、優位個体が近くにいるときにも箱を操作してしまって食物の多くを失った。その結果はわれわれの予測を支持していた。その予測は、優劣順位制の厳しさや離合集散ダイナミクスの程度が種間でどれほど異なっているのかにもとづいている。被験者が箱に近づいていく傾向は、前者〔優劣順位制の厳しさの差異〕があるために、〔種間で〕対照的なものになっているのだろう。被験者が食物を回収するのにふさわしい状況を待つ傾向は、後者〔離合集散ダイナミクスの差異〕から影響を受けているのだろう。
キーワード:戦術的欺き(tactical deception);比較認知(comparative cognition);抑制(inhibition);クモザル(spider monkeys);オマキザル(capuchin monkeys);カニクイザル(long-tailed macaques)


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著者は、フェデリカ・アミーチ(Federica Amici)(リヴァプール・ジョン・ムーアズ大学 Liverpool John Moores University、マックス=プランク進化人類学研究所 Max-Planck-Institut für Evolutionäre Anthropologie、イタリア国立学術会議認知科学技術研究所 Istituto di Scienze e Tecnologie della Cognizione, Consiglio Nazionale delle Ricerche、ユートレヘト大学 Universiteit Utrecht)、ジョゼップ・コール(Josep Call)(マックス=プランク進化人類学研究所)、フィリッポ・アウレーリ(Filippo Aureli)(リヴァプール・ジョン・ムーアズ大学)。

情報秘匿(withholding of information)の研究。自分だけが情報を得ていて、それを優位個体から秘匿した状態で目的を達成できるかどうかというものである。霊長類における情報秘匿の研究は、京都大学でもおこなわれている(この論文でも引用されている)。チンパンジーについては、平田聡と松沢哲郎 [Hirata & Matsuzawa 2001]、フサオマキザルについては、藤田和生と黒島妃香、増田露香 [Fujita, Kuroshima, & Masuda 2002]。

被験者は、9個体のジョフロワクモザル(アカクモザル、チュウベイクモザル、Ateles geoffroyi)、7個体のフサオマキザルCebus apella)、10個体のカニクイザルMacaca fascicularis)。

課題や条件は、上の要旨のとおり。

情報秘匿の実験は、これまでにもおこなわれてきたが、直接的な種比較は初めて。社会の寛容さや群れの仕くみに応じて仮説をたて、そのとおりに結果が得られているのがおもしろい。

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