社会保険労務士酒井嘉孝ブログ

東京都武蔵野市で社労士事務所を開業している酒井嘉孝のブログです。
(ブログの内容は書かれた時点のものとご理解ください)

労働トラブル解決「あっせん」のデメリットについて

2021年03月25日 10時38分35秒 | 社会保険・労働保険
特定社会保険労務士の酒井嘉孝です。

労働トラブルの解決手段として個別労働関係紛争のあっせんは有効な手段のひとつではありますが、もちろん万能な手段ではありません。
デメリットとして思いつくものを書いてみたいと思います。なお、私の考えであり公的な何かが発表しているものではありません。

デメリットの1つ目は申請者側が十分な用意をしてあっせんを申請したとしても相手側が参加に応じない可能性があるというところでしょうか。
あっせんを申請したとして、それに応じない可能性があるとすれば、あっせん申請自体意味がないと思う方もいらっしゃるかと思います。
確かに早期解決を望んでいるのに相手がそれに応じてこないとすれば、無力感を感じるのも無理はありません。
ただ、相手方が応じてこなかったとしても申請者側の本気度を相手方に示す、早期解決を相手方に望んでいるという意思表示をしたことは意味があると思います。
また、強制力がないというのは言い方を代えれば比較的穏やかな手段といえるものです。
最初から裁判などの強力な手段でなく、申請者側ができるだけ穏やかな手段で解決を望んでいるという意思表示にもなると思います。

デメリットの2つ目は勝ち負けをつけるものではないということでしょうか。
労働トラブルがおきていて解決のため何らかのアクションをとりたいということは、当然ですが申請をしようとする側に相当な不満があるということです。
解決の前提として申請者側の言っている事実があったことを相手方が認めさせ、申請者側の言っていることが正しく、相手方が正しくないということを認定してほしいという希望を持つ方がいらっしゃいます。
あっせんのメリットは和解による早期解決ですので、事実認定をほとんど行なわず、相手方に非を認めさせるということもありません。
申請をされた方にとっての不満の解決としては相手が非を認め、対応する何か(ほとんどの場合金銭)を出すことになるかと思いますが、自分が正しかったことを第三者が認定するまではできないということになります。
この点は、相手が自分の不満を認めたといえないかもしれませんが、早期解決の上「さっさと次にいく」という考え方が必要かもしれません。

デメリットの3つ目は和解となった場合の金額が思い通りとはならないことでしょうか。
あっせん申請書を作成していて、申請者が正当と思う金額を積み上げていったとしても、その金額の満額が和解額となることは多くないと思います。
ほとんどの場合あっせんは金銭解決を目指しますが、相手方が出す現実的な金額というのも考慮しなくては早期解決にはなりません。
もちろん、主張すべきはするべきなので、申請の時点で手加減をする必要はありませんが『絶対満額を認めなければ和解しない』という姿勢では和解には至らないと思います。
この点は裁判をおこしての和解でも同様かもしれません。

以上これは私の考えであり、行政から公的なもので発表されているものではありませんがご参考いただければと思います。

労働トラブルの解決「あっせん」のメリットついて

2020年11月01日 16時38分44秒 | 社会保険・労働保険
特定社会保険労務士酒井嘉孝です。

10月は労働関係の最高裁判決が立て続けに出ました。
いずれも同一労働同一賃金がらみのものですが、提訴から最高裁の判決まで何年の期間を要したでしょうか。

立て続けに出された判決の一つ、「メトロコマース事件」でメトロコマースの元社員の方が訴えを起こしたのは2014年5月だそうです。
地裁判決は2017年3月、高裁判決は2019年2月、そして最高裁の判決が2020年10月です。
勝ち負けを別にして提訴から6年を経てやっと最終的な判決となったわけです。
もちろん、訴えを起こす前に元社員と会社が何も話し合うことなく、元社員がいきなり裁判所に訴えたわけではないでしょうから、
「もめごと」としては2014年よりも前から起きていたことは容易に想像できます。

また、メトロコマースの件で元社員4人の方は合計4560万円の差額賃金を求めたとのことですが、
高裁で認めた金額は221万円で、最高裁では高裁が認めた判決を変更し、退職金部分の訴えを退けています。

この間の裁判費用や弁護士の費用の捻出はどうしたのか、労働組合や支援をする方がバックにいたようですが気になるところではあります。
仮に、訴えを起こした時の求めた金額の満額が認められたとしても「元」は取れなかったではないでしょうか。

このように、裁判となると時間とお金が非常にかかります。
主に訴える側となる労働者も、守る側となる会社も同じです。
おそらくですが、お互い最後はお金よりも名誉のために争っていくのではないかと想像します。

今回の件のように最高裁まで争うケースは滅多にないことだと思いますが、トラブルというのはなるべく早く解決させたいものです。

労働分野におけるトラブルの解決方法はいくつかあります。

訴訟は一番強力な手段ではありますが、特定社会保険労務士が関われる労働トラブルの解決手段として個別労働関係紛争の「あっせん」があります。
この制度は簡単にいうと、裁判外で労働者と会社との間に誰かが入って、『和解』をすすめるものです。
この誰か、というのは厚生労働省の組織である都道府県労働局にある「紛争調整委員会」や、各都道府県が設置する「労働委員会」、都道府県社会保険労務士会が設置する「紛争解決センター」になります。
(都道府県により扱いが異なります。例えば東京都では労働委員会で個別労働関係紛争のあっせんは行っていません。)
そして具体的に間に入るのは「あっせん員」で、公益委員となった弁護士や特定社会保険労務士、大学教授などが任命されています。

この制度の良いところはなにしろ、早期解決を見通せることです。
もちろん、お互い納得しなければ解決とはなりませんが、あっせんの申し立てを行なって、早ければ2ヶ月くらいで『和解』を見通すこともできます。
費用も、申し立ての書面の作成を全部自分で書く、申し立てられた側の答弁も全部自分で書く、あっせんの当日も全部自分で処理するということであれば費用はかからない場合が多いです。

特定社会保険労務士はこの個別労働関係紛争の場面で申し立ての書面を書く、申し立てられた側の答弁を書く、あっせん当日代理人として出席することができる資格を持つ者です。
もちろん、特定社会保険労務士に頼めば全部自前でやる場合に比べた場合よりは費用はかかることになりますが、裁判よりはずっと費用は抑えられることになると思います。

何回かにわけて、この個別労働関係紛争のあっせんについて書いてみたいと思います。

令和2年9月からの厚生年金保険料の上限が引き上げになります

2020年07月22日 14時49分21秒 | 社会保険・労働保険
特定社会保険労務士の酒井嘉孝です。

日本年金機構のホームページで令和2年9月から厚生年金保険料の上限引き上げが発表されました。
厚生年金保険における標準報酬月額の上限の改定(日本年金機構HP)

現在、厚生年金保険の標準報酬月額の上限は620,000円(31等級)で605,000円以上の報酬月額の場合は、この等級で頭打ちですが、9月から1等級加えられ、650,000円(32等級)、635,000円以上の等級が加えられます。

報酬月額が635,000円以上の場合、厚生年金保険料が本人負担額が月々56,730円から59,475円と2,745円引き上げになります。
事業主負担との総額は118,950円となり、5,490円引き上げになります。

社会保険料の控除を翌月としている場合は10月給与から、当月控除している場合は9月給与から変更になります。ちょうど算定基礎届の反映と重なります。
ちょうど算定基礎届の提出が終わった時期ですが、これに伴う日本年金機構への特別な手続きはないようです。

新型コロナウイルス感染症の広がりによる会社の休業と休業手当の支払いについて

2020年06月13日 09時40分00秒 | 社会保険・労働保険
特定社会保険労務士の酒井嘉孝です。

新型コロナウイルス感染症の広がりにより、緊急事態宣言が発出されました。5月末には全国で解除され街に人が戻ってきていますが、ここで3月4月に話題になった休業手当について考えたいと思います。

労働基準法26条では使用者の責に帰すべき事由による休業を行った場合は労働者に対して休業手当を支払わなくてはならないとされています。
この「使用者の責」は割と広めに扱われます。例えば、円相場の急騰による経営不振など一経営者の責任とは思えないものも使用者の経営努力で乗り切ることができるものとされています(無茶なようですが、円相場の急騰は考えられないわけではないから備えておけということでしょうか)。
休業手当の支払いを要しないものとしては天災地変によるものが挙げられます。最近で休業手当を支払わなくて良いとされた例では東日本大震災において事業所そのものがなくなってしまったケース、計画停電による営業不能のケースがあります。
どこからが天災地変かという基準があるわけではありませんが、一経営者がどう努力を行っても防ぎようがなく、備えようもないもの、かつ広範囲におきているものがそれにあたるとされているように思います。

そもそも休業手当を支払わなくてよいとされるのは、
①その原因が事業の外部より発生した事故であること
②事業主が通常の経営者としての最大の注意を尽くしてもなお避けることができない事故であること
の2つを満たす必要があり、②においては他の仕事がないか、自宅勤務等が可能かどうか検討しているかという事情から判断されます。
ではこの新型コロナウイルス感染症の広がりによる休業の場合、会社は休業手当を支払わなくてはならないでしょうか。
いくつかのケースがありうるのでケース別に考えていきます。

1.労働者本人が新型コロナウイルス感染症にかかったため休業を命じた場合
→休業手当を支払う必要がありません。従業員の生活保障面では健康保険取得者であれば傷病手当金が受けられます。

2.労働者の同居の家族が新型コロナウイルス感染症にかかったという申告があったため、労働者本人に休むよう命じた場合
→この場合は使用者の判断で休業してもらうことと判断され休業手当を支払う必要があるものと考えます。もちろん、「心配だから休みます」など労働者本人から申し出があった際は休業手当を支払う必要はありません。

3.ある労働者が新型コロナウイルス感染症に罹患し、社内を消毒するため他の従業員を休ませた場合
→別の場所で働ける可能性がある場合や、テレワークが可能な業種であれば休業手当を支払う必要があります。1事業場のみでテレワークも全く現実的ではない場合は微妙ですが、消毒が法令上義務とされない場合は休業手当の支払いが必要であるとされると考えます。

4.緊急事態宣言下で都道府県知事からの休業要請に基づいて休業した
→テレワークなどの自宅勤務が可能でないことが明らか、あるいは他の業務が明らかにない場合は休業手当の支払いの必要はないものと考えます。

5.緊急事態宣言下ではあるものの、休業要請の出ている業種ではなかったが客がゼロで仕事になることが全く見込めないため休業した
→この場合は使用者の判断で休んでもらったと扱われ、休業手当の支払いの必要があるとされています。

この考えられるケースは厚生労働省のホームページに掲載されている、「新型コロナウイルスに関するQ &A(企業の方向け)令和2年5月29日版」も参考に書いています(応用しているものもあります)。
4で休業手当を支払わなくて良い可能性が残されていますが、これもQ &Aでずばり払わなくて良いとはいっていません。この場合も労働基準監督署へ相談するように書かれています。

休業手当を支払った場合、いろいろなところで言われていますが雇用調整助成金の対象となります。Q &Aでも雇用調整助成金があるから休業手当をなんとかはらってくれという話が多く盛り込まれています。そうとはいえ、この企業向けQ &Aを読む限り労働者本人が新型コロナウイルス感染症に罹った場合以外、ほとんどのケースで休業手当を支払わなくてはならないというもので率直にいって企業にとってはかなり厳しい内容です。

なお、「新型コロナウイルスに関するQ &A(労働者の方向け)令和2年5月29日版」というのもあります。こちらは労働者に向けては厳しめ(?)なことが書かれています。

雇用調整助成金・・・助成金詐欺にご注意

2020年04月08日 10時13分14秒 | 社会保険労務士について
特定社会保険労務士の酒井嘉孝です。

新型コロナウイルスの感染拡大により、国から緊急事態宣言が出されました。
外出自粛の要請も強くなされているところであり、会社やお店の休業についての報道も連日なされています。

報道でも「雇用調整助成金」の活用について話をする人がいます。
テレビに出ていて割と有名な人も簡単にもらえるような話し方をしている人もいますが助成金の申請はけっこう大変です。
もちろん、助成金制度は大いに活用すべきではありますが少し誤解があって、それにつけ込む人がいるのでご注意願いたいと思います。

そもそも雇用調整助成金とは、雇用保険料が原資になっており、『経済上の理由により、事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が雇用の維持を図るための休業手当に要した費用を助成する制度』です。
要するに売り上げが下がって苦しいが従業員を解雇せずに、休ませて休業手当を従業員に払った会社に対してその費用を助成するものです。
従って下がった売り上げや利益を直接補填する制度ではありません。
かつ、会社が労働者に払った休業手当や給料の満額が助成金として返ってくるものでもありません。
(複雑な計算がなされます。)
・・・要するに思っている金額が助成金として支払われるものではないということをご理解ください。

この雇用調整助成金は以前からある制度ですが、今般の新型コロナウイルス感染症による特例措置がなされていています。
確かにその支給要件を見るとかなり緩和されています。
ただ、整えるべき書類をみると相変わらずかなりたいへんだという印象です。厚生労働省の説明を見ても手続きの簡素化も行うとあり、それに期待する部分もありますがもともと助成金をもらうための書類はかなり厳しく審査されます(国が集めた雇用保険料から払うものなので当然ですが)。

話の前段が長くなりましたが、ご注意いただきたいのが助成金詐欺です。
厚生労働省がからむ助成金申請が会社の代わりに代行できるのは社会保険労務士だけなのでまずこの点にご注意ください。
助成金の広告を送ってきたり電話をかけてくるコンサル会社のようなところもありますが、社労士でなければまず信用できません(社労士でない時点でそもそも入り口から違法なのですから)。
言葉巧みに専門に社労士が在籍しているとか提携しているとか顧問にいるということを言ってきますが本当にそのコンサル会社で社労士が開業しているか確認が必要です。
また、社労士紹介会社のようなところもありますがこれも黒に近いグレーです。
士業とはいえ行政書士や司法書士、税理士、中小企業診断士も社労士とのダブルライセンスでない限り厚生労働省の助成金の業務はできません(弁護士で社労士登録している人はできます)。

助成金が簡単に取れると言ってきたり、支給される金額を多く言ってくる場合も注意です。前段でも書きましたが助成金申請は簡単ではなく、休業手当として支払った金額の満額が返ってくるわけではありません。

助成金詐欺の典型的な手口は着手金を取ってトンズラです。
メールや電話のみのやりとりで実際にその人がいるのかどうか確認しない場合にそうなります。
社労士が助成金業務を単発業務で受ける場合は着手金がかかる場合が多く、着手金=詐欺ということはないのですが騙そうとしている場合、着手金が高額な場合が多いです。
そういう業者は着手金は高いですが成功報酬は安いんですよ〜と誘ってきます。
普通にやっている人で着手金が10万円、というのは聞いたことがありません。高くても5万円程度です。

では、社労士との付き合いのない方が助成金業務を依頼したい場合、助成金申請を代行する社労士をどう探すかです。
一番はおつきあいのある税理士さんや弁護士さんに紹介してもらうことです。あるいは信頼のできる人からの紹介です。
紹介であれば詐欺に遭う確率はかなり低くなると思います。
そういったおつきあいがない場合はネットで社労士を探す形になるのかもですが、最低限その社労士がその場所に本当に実在しているかの確認が必要です。
各都道府県に社会保険労務士会があり、そこで相談会や相談ダイヤルを開設していますので相談しても良いと思います。

たいへんな時期ではありますが、こういう時こそうまい話に飛びつかず、くれぐれも詐欺にはあわないようご注意下さい。

4月9日:助成率に関する記載に間違いがあったので訂正しました。