社会保険労務士酒井嘉孝ブログ

東京都武蔵野市で社労士事務所を開業している酒井嘉孝のブログです。
(ブログの内容は書かれた時点のものとご理解ください)

通勤における労働者への安全配慮義務

2019年10月12日 20時57分24秒 | 社会保険・労働保険
特定社会保険労務士の酒井嘉孝です。

今年も多くの台風が日本を直撃し、大きな被害をもたらしました。
私の住む関東では9月に台風15号、10月に台風19号が直撃しました。鉄道は計画運休となり、特に19号の際は百貨店、大手スーパーも臨時休業となるほどでした。
これを書いているのは19号が直撃した日なのでこれから被害の全貌が明らかになると思いますが被害が少ないことを祈るばかりです。

以前は台風でも会社に行くのが当たり前と考える人も多かったように思います。
では、台風が直撃している最中に会社に来ることを強制した場合どういうことが考えられるでしょうか。

労働契約法第5条に「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」という条文があり、いわゆる安全配慮義務が使用者(=会社)にはあることが明文化されています。
この安全配慮義務は、会社の備品や設備の不備により労働者に危害が及ぶことがないかというところから、過度な労働をさせていないか、パワハラやセクハラの防止も安全配慮義務に含まれます。

そこで、通勤に対し会社がこの安全配慮義務を負うかどうかについてです。
労働契約法第5条では「労働契約に伴い、」と言っているので労働契約に当然付随する通勤も安全配慮義務を負うものではないかと考えます。
先の例の台風が直撃している最中に会社に来いと言われ、その通勤の最中に怪我を負ったという場合、通勤災害であることもさることながら、労働者に対し安全配慮がなかったと判断されるものと考えます。
当然ですが、例えば臨時休業している店も多い中、コンビニのバイトのシフトに入っているのだから来いというのと、社会インフラに携わる業務でインフラ維持のために出勤を要請するのとでは意味が異なりますので、個別ごとに判断すべきとは思いますが多くのケースでは出勤せよというのは難しいものと考えます。

なお、帰宅時についての安全配慮義務については一つ判例を見つけました(横浜地裁川崎支部)。
長時間労働の末、バイクで帰宅の途についていた労働者が居眠り状態に陥り単独事故を起こした末に不幸にも亡くなった事案です。
裁判所は「使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務やそのための通勤の方法等の業務内容及び態様を定めてこれを指揮監督するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積したり、極度の睡眠不足に陥るなどして、労働者の心身の健康を損ない、あるいは労働者の生命・身体を害する事故が生じることのないよう注意する義務(安全配慮義務)を負うものと解するのが相当である」と判断しました。

会社は労働者の業務の態様により心身の状態を含め、通勤の方法についても注意する義務を負うというものです。この判例では長時間労働があったことを認識しておきながら深夜にバイクで帰宅させたことについて指摘しています。

主に通勤手当の計算のため、従業員の通勤経路を申告してもらっていることも多いと思いますが、様々の理由で通勤経路が申告通りとは限りません。会社は従業員の方の通勤方法、通勤経路についても把握することが必要と考えます。