社会保険労務士酒井嘉孝ブログ

東京都武蔵野市で社労士事務所を開業している酒井嘉孝のブログです。
(ブログの内容は書かれた時点のものとご理解ください)

台風接近時に会社の休業を決めた際、休業手当を支払う必要があるか

2024年08月18日 22時42分59秒 | 社会保険・労働保険
特定社会保険労務士の酒井嘉孝です。

今年も台風のシーズンとなりました。
以前に比べ、公共交通機関なども事前に計画運休を決めることも多くなったような気がします。
会社やお店でも台風が接近する前日などに従業員の安全確保を理由に臨時休業とするケースが見られるようになってきました。
以前は台風でも会社に行くのが当たり前と考える人も多かったように思いますが、考え方がだいぶ変わってきたようです。

以前、通勤における安全配慮義務について書きました。
台風が接近している際に出勤を強制した場合について、会社が安全配慮義務を負うかについて考えたものです。
安全配慮義務は通勤においても及ぶ場合があると言うことを述べました。

では、会社やお店を臨時休業とした場合、従業員に休業手当を支払う必要はあるのでしょうか。
まず、休業手当を払わなくてはならないのは、使用者の責めに帰すべき理由により休業した場合です。つまり、会社側の責任により労働者が休まざるを得ない場合、会社は労働者へ休業手当(平均賃金の100分の60以上。大雑把に平均賃金はその労働者のほぼ日給分と考えてください)を払わなければならないというものです。
そして、使用者の責めに帰すべき理由というのが不可抗力によるものは含まれないとされています。
不可抗力であるものは休業手当を払わなくて良いということです。
それぞれいくつかのケースについて考えてみます。

1.会社設備の損傷などの直接の被害を受けた。
この場合は不可抗力として会社は休業手当を支払う必要はないでしょう。

2.会社への通勤につかう会社最寄りの交通機関が台風による計画運休で行くことができない。
会社が各従業員宅を廻って送迎するのはおよそ現実的でなく、かえって危険なことになるかもしれません。したがってこの場合不可抗力となると考えます。したがって会社は休業手当を払う必要はないでしょう。

3.交通機関は動いているが念のため休んでもらうことにした。
従業員に対する安全配慮として正しい判断と思います。ただ休業手当を支払うかどうかという観点ですと、会社側の判断で休業となったので休業手当の支払いの必要がありそうです。

4.来ることができる従業員と来ることができない従業員がおり、会社の判断で会社全体を休業した。
会社の近隣に住んでいてすぐ来ることのできる方と、自宅最寄りの交通機関の計画運休で来ることができない方がいる場合です。この場合も会社側の判断で休業となったので休業手当の支払いの必要がありそうです。

5.台風を見越して従業員から会社が判断する前に年次有給休暇(以下、年休という)の取得申請があり、会社も取得を認めた。その後に会社は休業とする判断をしたところ、年休を申請した従業員はその年休を取り下げて休業手当を支払ってほしいと言ってきた。
原則論を言うと、年休取得の権利を行使した従業員はそれを取り下げる根拠がありません。したがって、会社はこの従業員からの年休取得取り消しの申し出を断り、当初の年休取得の申請通り、年休を1日消化することが原則です。しかし、特別に取り下げを認めて休業手当を支払うとすることもできないわけではありません。なお、会社側から年休を消化しなかったことにして、休業手当とすることはできません。

他にもいろいろなケースが考えられますが、不可抗力とされる範囲は限定的であると言う考え方が原則で、どんな場合でも天災だから不可抗力であり、休業手当を払わないということはできないというものです。
広い意味で台風は不可抗力で、会社に責任があるわけではないのですが、労働者保護の考え方が浸透しているということになります。