社会保険労務士酒井嘉孝ブログ

東京都武蔵野市で社労士事務所を開業している酒井嘉孝のブログです。
(ブログの内容は書かれた時点のものとご理解ください)

令和2年9月からの厚生年金保険料の上限が引き上げになります

2020年07月22日 14時49分21秒 | 社会保険・労働保険
特定社会保険労務士の酒井嘉孝です。

日本年金機構のホームページで令和2年9月から厚生年金保険料の上限引き上げが発表されました。
厚生年金保険における標準報酬月額の上限の改定(日本年金機構HP)

現在、厚生年金保険の標準報酬月額の上限は620,000円(31等級)で605,000円以上の報酬月額の場合は、この等級で頭打ちですが、9月から1等級加えられ、650,000円(32等級)、635,000円以上の等級が加えられます。

報酬月額が635,000円以上の場合、厚生年金保険料が本人負担額が月々56,730円から59,475円と2,745円引き上げになります。
事業主負担との総額は118,950円となり、5,490円引き上げになります。

社会保険料の控除を翌月としている場合は10月給与から、当月控除している場合は9月給与から変更になります。ちょうど算定基礎届の反映と重なります。
ちょうど算定基礎届の提出が終わった時期ですが、これに伴う日本年金機構への特別な手続きはないようです。

新型コロナウイルス感染症の広がりによる会社の休業と休業手当の支払いについて

2020年06月13日 09時40分00秒 | 社会保険・労働保険
特定社会保険労務士の酒井嘉孝です。

新型コロナウイルス感染症の広がりにより、緊急事態宣言が発出されました。5月末には全国で解除され街に人が戻ってきていますが、ここで3月4月に話題になった休業手当について考えたいと思います。

労働基準法26条では使用者の責に帰すべき事由による休業を行った場合は労働者に対して休業手当を支払わなくてはならないとされています。
この「使用者の責」は割と広めに扱われます。例えば、円相場の急騰による経営不振など一経営者の責任とは思えないものも使用者の経営努力で乗り切ることができるものとされています(無茶なようですが、円相場の急騰は考えられないわけではないから備えておけということでしょうか)。
休業手当の支払いを要しないものとしては天災地変によるものが挙げられます。最近で休業手当を支払わなくて良いとされた例では東日本大震災において事業所そのものがなくなってしまったケース、計画停電による営業不能のケースがあります。
どこからが天災地変かという基準があるわけではありませんが、一経営者がどう努力を行っても防ぎようがなく、備えようもないもの、かつ広範囲におきているものがそれにあたるとされているように思います。

そもそも休業手当を支払わなくてよいとされるのは、
①その原因が事業の外部より発生した事故であること
②事業主が通常の経営者としての最大の注意を尽くしてもなお避けることができない事故であること
の2つを満たす必要があり、②においては他の仕事がないか、自宅勤務等が可能かどうか検討しているかという事情から判断されます。
ではこの新型コロナウイルス感染症の広がりによる休業の場合、会社は休業手当を支払わなくてはならないでしょうか。
いくつかのケースがありうるのでケース別に考えていきます。

1.労働者本人が新型コロナウイルス感染症にかかったため休業を命じた場合
→休業手当を支払う必要がありません。従業員の生活保障面では健康保険取得者であれば傷病手当金が受けられます。

2.労働者の同居の家族が新型コロナウイルス感染症にかかったという申告があったため、労働者本人に休むよう命じた場合
→この場合は使用者の判断で休業してもらうことと判断され休業手当を支払う必要があるものと考えます。もちろん、「心配だから休みます」など労働者本人から申し出があった際は休業手当を支払う必要はありません。

3.ある労働者が新型コロナウイルス感染症に罹患し、社内を消毒するため他の従業員を休ませた場合
→別の場所で働ける可能性がある場合や、テレワークが可能な業種であれば休業手当を支払う必要があります。1事業場のみでテレワークも全く現実的ではない場合は微妙ですが、消毒が法令上義務とされない場合は休業手当の支払いが必要であるとされると考えます。

4.緊急事態宣言下で都道府県知事からの休業要請に基づいて休業した
→テレワークなどの自宅勤務が可能でないことが明らか、あるいは他の業務が明らかにない場合は休業手当の支払いの必要はないものと考えます。

5.緊急事態宣言下ではあるものの、休業要請の出ている業種ではなかったが客がゼロで仕事になることが全く見込めないため休業した
→この場合は使用者の判断で休んでもらったと扱われ、休業手当の支払いの必要があるとされています。

この考えられるケースは厚生労働省のホームページに掲載されている、「新型コロナウイルスに関するQ &A(企業の方向け)令和2年5月29日版」も参考に書いています(応用しているものもあります)。
4で休業手当を支払わなくて良い可能性が残されていますが、これもQ &Aでずばり払わなくて良いとはいっていません。この場合も労働基準監督署へ相談するように書かれています。

休業手当を支払った場合、いろいろなところで言われていますが雇用調整助成金の対象となります。Q &Aでも雇用調整助成金があるから休業手当をなんとかはらってくれという話が多く盛り込まれています。そうとはいえ、この企業向けQ &Aを読む限り労働者本人が新型コロナウイルス感染症に罹った場合以外、ほとんどのケースで休業手当を支払わなくてはならないというもので率直にいって企業にとってはかなり厳しい内容です。

なお、「新型コロナウイルスに関するQ &A(労働者の方向け)令和2年5月29日版」というのもあります。こちらは労働者に向けては厳しめ(?)なことが書かれています。

雇用調整助成金・・・助成金詐欺にご注意

2020年04月08日 10時13分14秒 | 社会保険労務士について
特定社会保険労務士の酒井嘉孝です。

新型コロナウイルスの感染拡大により、国から緊急事態宣言が出されました。
外出自粛の要請も強くなされているところであり、会社やお店の休業についての報道も連日なされています。

報道でも「雇用調整助成金」の活用について話をする人がいます。
テレビに出ていて割と有名な人も簡単にもらえるような話し方をしている人もいますが助成金の申請はけっこう大変です。
もちろん、助成金制度は大いに活用すべきではありますが少し誤解があって、それにつけ込む人がいるのでご注意願いたいと思います。

そもそも雇用調整助成金とは、雇用保険料が原資になっており、『経済上の理由により、事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が雇用の維持を図るための休業手当に要した費用を助成する制度』です。
要するに売り上げが下がって苦しいが従業員を解雇せずに、休ませて休業手当を従業員に払った会社に対してその費用を助成するものです。
従って下がった売り上げや利益を直接補填する制度ではありません。
かつ、会社が労働者に払った休業手当や給料の満額が助成金として返ってくるものでもありません。
(複雑な計算がなされます。)
・・・要するに思っている金額が助成金として支払われるものではないということをご理解ください。

この雇用調整助成金は以前からある制度ですが、今般の新型コロナウイルス感染症による特例措置がなされていています。
確かにその支給要件を見るとかなり緩和されています。
ただ、整えるべき書類をみると相変わらずかなりたいへんだという印象です。厚生労働省の説明を見ても手続きの簡素化も行うとあり、それに期待する部分もありますがもともと助成金をもらうための書類はかなり厳しく審査されます(国が集めた雇用保険料から払うものなので当然ですが)。

話の前段が長くなりましたが、ご注意いただきたいのが助成金詐欺です。
厚生労働省がからむ助成金申請が会社の代わりに代行できるのは社会保険労務士だけなのでまずこの点にご注意ください。
助成金の広告を送ってきたり電話をかけてくるコンサル会社のようなところもありますが、社労士でなければまず信用できません(社労士でない時点でそもそも入り口から違法なのですから)。
言葉巧みに専門に社労士が在籍しているとか提携しているとか顧問にいるということを言ってきますが本当にそのコンサル会社で社労士が開業しているか確認が必要です。
また、社労士紹介会社のようなところもありますがこれも黒に近いグレーです。
士業とはいえ行政書士や司法書士、税理士、中小企業診断士も社労士とのダブルライセンスでない限り厚生労働省の助成金の業務はできません(弁護士で社労士登録している人はできます)。

助成金が簡単に取れると言ってきたり、支給される金額を多く言ってくる場合も注意です。前段でも書きましたが助成金申請は簡単ではなく、休業手当として支払った金額の満額が返ってくるわけではありません。

助成金詐欺の典型的な手口は着手金を取ってトンズラです。
メールや電話のみのやりとりで実際にその人がいるのかどうか確認しない場合にそうなります。
社労士が助成金業務を単発業務で受ける場合は着手金がかかる場合が多く、着手金=詐欺ということはないのですが騙そうとしている場合、着手金が高額な場合が多いです。
そういう業者は着手金は高いですが成功報酬は安いんですよ〜と誘ってきます。
普通にやっている人で着手金が10万円、というのは聞いたことがありません。高くても5万円程度です。

では、社労士との付き合いのない方が助成金業務を依頼したい場合、助成金申請を代行する社労士をどう探すかです。
一番はおつきあいのある税理士さんや弁護士さんに紹介してもらうことです。あるいは信頼のできる人からの紹介です。
紹介であれば詐欺に遭う確率はかなり低くなると思います。
そういったおつきあいがない場合はネットで社労士を探す形になるのかもですが、最低限その社労士がその場所に本当に実在しているかの確認が必要です。
各都道府県に社会保険労務士会があり、そこで相談会や相談ダイヤルを開設していますので相談しても良いと思います。

たいへんな時期ではありますが、こういう時こそうまい話に飛びつかず、くれぐれも詐欺にはあわないようご注意下さい。

4月9日:助成率に関する記載に間違いがあったので訂正しました。

新型コロナウイルス感染拡大による労災・通勤災害について

2020年03月12日 14時21分49秒 | 社会保険・労働保険
特定社会保険労務士の酒井嘉孝です。

新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大が続いています。報道にもある通りイベントは開催自粛、中止・延期の措置が取られています。また、大手のテーマパークでは休業の延長、航空機の減便、北海道では鉄道路線の減便も行われるとのことで経済活動への影響ははかり知れません。

接客を行う業種ではテレワークというわけにもいかず、通常通り営業している商店や会社もあります。
不特定多数の人と接する接客業では新型コロナウイルスに感染した方と接触することも考えられます。

では、その新型コロナウイルスに感染した方と接触した従業員が、新型コロナウイルスを起因とする感染症に罹患してしまった場合、労災(=業務災害)となるのでしょうか。
業務災害とは業務に起因するケガを負う、疾病に罹患する、という災害に見舞われた場合に給付されるものですので、接客している際に罹患した、同僚からうつされた、という判断となれば労災保険からの給付があるものと考えます。
ただ、実務上は病気をだれからうつされたかという判断は難しいものです。これを書いている3月12日現在ではこの新型コロナウイルスの感染ルートを追いかけているようなので、ほかの可能性がないと判断されれば現段階ではほかの感染症よりは労災と判断される可能性はあるかもしれません。

新型コロナウイルスに関しての通勤災害の判断はもっと難しくなります。
テレワーク、時差通勤が広がっていて混雑は幾分緩和されているとはいえ、通勤電車では人と人が近い距離にあり感染のリスクはあります。
労災保険法上での「通勤による疾病」は通勤による負傷に起因する疾病その他通勤に起因することの明らかな疾病と規定されていますので、だれからうつされたということが明らかで通勤電車以外で接触がなければ通勤災害と判断されることも考えられます。
通勤に起因することの明らかな疾病というのは判断は難しいですが、過去には地下鉄サリン事件やタンクローリー横転事故でガスが発生し、そのガスを吸い込んだ通勤中の人が通勤災害と認定された例があります。

この新型コロナウイルス(COVID-19)の感染症に関しては政府からも新たな施策が日々出ている状況でもあるので柔軟な対応がとられることも考えられます。
しばらくは厚生労働省からの発表等を注視したいと思います。

4月1日より「同一労働同一賃金」が実施に移されます

2020年01月31日 22時44分33秒 | 社会保険・労働保険
特定社会保険労務士の酒井嘉孝です。

パートタイム・有期雇用労働法が令和2年4月1日に施行されます。いよいよ「同一労働同一賃金」が実施に移されます。
中小企業には1年の猶予があり令和3年4月1日から実施になります。この中小企業の範疇は資本金が3億円(サービス業5千万円、卸売業􏰁1億円)以下及び常時使用する労働者􏰀数が300人(小売業􏰁50人、卸売業また􏰁サービス業􏰁100人)以下􏰀事業主をいいます。

同一労働同一賃金とは、いわゆる正規社員と非正規社員の人であらゆる待遇で不合理な差を禁止するというものです。支給する給与はもちろん、福利厚生面でも不合理な差をつけることは禁止されます。
また、正規社員と短時間労働者・有期雇用労働者(非正規社員)から、正規社員と􏰀待遇􏰀違いやそ􏰀理由について説明を求められた場合、説明をしなけれ􏰂ならないともされています。

分かりやすい例で挙げられているのが通勤手当です。しかし、実務上正規社員には通勤手当を支給するが非正規社員の人には支給しないというのはほとんど見られません。

正規社員と非正規社員の方の賃金における「差」で多く見られるのが家族手当、扶養手当、住宅手当です。古くからある会社に多く見られ、手当の額も手厚くなっている例も見られます。正規社員には「長期雇用を想定している」という理由でこの手当を支給し、非正規の方には支給しないというものです。

しかし、「長期雇用を想定している」というのは『不合理な差』とされる可能性が高いです。非正規社員の方でも実際に長く働いている方もいるかもしれませんし、扶養している家族がいるかもしれませんし、ましてや会社の寮に無料で入っていない限り、住宅がない人はいません。

これについて、「差」をつけている理由がないなら非正規の方にもこれらの手当を支給するか、いままで支給されていた正規の方の手当をなくすことを検討しなくてはなりません。いずれにしてもハードルは高いです。

正規社員の方と非正規社員の方で社内においてどのような差があるか検討すると、長期雇用を想定している以外にも理由がある場合が多いです。
例えば、正規社員には転居を伴う転勤がありうるが非正規社員の方には転勤がない、正規社員には緊急時に出社を求めることがある、正規社員には課しているつらい業務がある、などが考えられます。「責任の程度」において差があるのは合理的であるとされます。
もちろん、つらい、とか緊急時の出社など程度と頻度もありますが、この責任の程度の差が非正規社員の方に説明し納得されるものであれば、手当における差をつけることも可能であると考えます。

なお、有期労働契約を繰り返して無期転換された方はいわゆる正社員側となるため、この法律の対象外です。ただ、有期契約の方の待遇を改善して無期転換した方の待遇が相対的に低くなったということは、社員間のバランスを欠くものと考えられますので、調整は必要であると考えます。