被爆した、おばちゃん

朝方のザ～という雨音で目覚めた。
ア～、今日の原爆式典は炎天下で行われずに済むと思った。
毎年行われると言うのに、テントだけ・・・なぜ？
当時の熱さを知らしめるため？
この原爆死没者名簿の中には、私の母も居ます。
戦後から６２年、風早のおばちゃんの話をしたいと思います。
今は『吉名』という処で、やっと？楽しい余生を暮らしている筈です。

風早アパートの入り口の台所棟前の風景と共に浮かんできます。
顎のウジ虫を指で摘まんで取っている～私、まだ３才？？
赤い鼻緒のゲタをもらって、抱っこされている？から見えたケロイドあと。
顎の皮膚は波打って、熔けたように引っ付いて顎の形が無い。
口も開かない、鼻もトケテ無い、目の周りの皮膚も変色している。
いつも、この光景がフラッシュバックします。
本当に憶えている『こと』なのか？とさえ思うのに、正確に思い出すのです。
人から、母から、耳から聞いた話ではないように思います。
それから毎年風早アパートで過ごした夏休み中に、聞いた話は強烈でした。
もう何年も、夏を過ごす間には色んな事を話してくれました。
身体のこと、人生のこと・・・それはもうムゴイ！凄過ぎる話です。
そうは言っても未だ子供、ショックを受けた事は・・・忘れられません。
被爆して見分けも付かない顔になった伯母を路上で見つけたのは父でした。
「お姉ちゃん！」と呼びかけ「待っとりんさい！直ぐ来るけん」と戸板を引いて
帰って来たそうです。
「死体と一緒だったのにドウシテ分かったのか？信じられんかった」と。
それに乗せられ、安芸津まで引きづられて帰った？
どれくらい時間が掛かったん？と聞く「カッタンコットントボトボよ・・・」と。
信じられない光景でしょう？
驚いて、安芸津まで？って～聞き返しました。
実家のある、安芸津まで～それから、縁側に寝かされて来る日も来る日も・・・
「触ってもイケン、痛いんじゃけぇ～、毎日毎日ウジムシを箸で摘まんで」
取るのが、お母さんの仕事だったそうです。
「母さんはのう、顔がお化けで帰ってきた娘でも～近所から何を言われても
必死で看病してくれたんじゃ」と、言って涙を拭いました。
顔中、ケロイドで汗の出る穴はないのです。
身体もソウですから、夏は身体ごと『サウナ』に入っているようなもの。
「暑うて？熱うて？カナワンのよ！」といつも、水浴びをしていました。
「この、顔の手術に当時のお金で２００万かかっている」と、口癖でした。
このお金をどのようにして工面した事か？！って、怒りながら～、
こんな顔にされても、国は何にもしてくれんかったと言うのが常でした。
旦那様は、蚊帳の中で髪の毛がなびいている伯母を見るのが恐くて～
帰って来なくなったそうです。
幸い？にも子供は居なくて、その後『茶華道』で生計を立てていたようです。
ある年、広島の私の家に遊びに来て『ご主人』にバッタリ出会ったそうです。
偶然にも、近くに住んでいるみたいだった。
私が１０才だったから、アレカラ１２年は経っていました。
その頃では、もうリッパな茶華道の先生になって堂々としていましたので～
道端の立ち話で『ケリ』が付いたとも思えませんが、スッキリしたようでした。
あれから～あれから、６２年。
毎年、伯母の家での色んな話し・・・楽しかった！ことや辛かった事。
「躾けも何もされておらんのじゃヶ恥かしいワイの」って、怒られる日々など。

セミの声の中、今日も式典が行われていました。
行事としての式典？、風化させてはイケナイという想いでしょう。
が、実際にソンナ目に遭った人たちの声は？
とても！生易しい人生を歩いて来たようには思えない気がします。
最後に逢ったのは～５年前、特別老後ホームです。
「今から生徒さんとお食事に・・・」と、大きなツバの帽子にバックで嬉しそう。
ぇ？っと、見ていると「院内の食堂へ行かれます」って。
顔の色も白くなり、ケロイドの痕も目立たなくなっていました。
「どちらさんか存じませんがの、生徒が待っておるんで失礼します」って。
去年、お世話になっている方に聞いたところ「元気で居られますょ」と。
もう、１０５才かしら・・・？
４２・３才で被爆して６２年、伯母の何処を知ってる？とは言えませんが～
私から見た、『華やかだった日』も有った伯母を語りたいと思いました。