史書から読み解く日本史

歴史に謎なんてない。全て史書に書いてある。

記紀神話:神々の系譜

2020-02-24 | 記紀神話
神々の再構築
そこで試みにニニギがスサノオの孫であり、オオクニヌシがスサノオの娘婿または子孫であるという設定を外してみると、次のような系譜が残ることになります。
それは即ち、出雲大社の御客座五神は別天つ神の五柱であること、
オオクニヌシはとある神の六世の孫であること、
オオクニヌシは戦争を避けるために無血で自国を高天原に明け渡したこと、
その見返りにオオクニヌシは神として祀られたこと、
戦場とならなかった出雲はその後も大国として繁栄したこと、
天孫ニニギはタカミムスビの孫であること、
国譲りの地と天孫降臨の地は別であること、
皇室はニニギの子孫であること、
出雲国造家はオシホミミの弟のホヒの子孫であること、
ホヒの子孫が出雲国造に任ぜられたのは第十代崇神帝の世であること、
その崇神帝は初代神武帝と並んでハツクニシラススメラミコトと呼ばれていること等です。

そして以上の続柄が全て合致する系譜を図解してみると、次のような形が浮かび上がります。
まず『古事記』に従ってタカミムスビを別天つ神とすると、カミムスビから神世七代へ続く高天原の系統と、天孫ニニギから神武帝へ続く系統は、その次代で枝分れしたことになります。
そしてアマテラスはタカミムスビの十一世の孫であり、崇神帝は同じく十四世の孫になるので、そのまま読むと両者の間には三世の開きがあります。
但しアマテラスがイザナギの最晩年の子だったことや、神武帝から崇神帝までの十世の間に兄弟相続が行われた可能性を考慮した場合、その世代差はもっと縮まるかも知れません。
皇家の歴史上で初めて兄弟相続が行われたのは、公式には仁徳帝の子の代となっていますが、現実的には二十世以上も親子相続を保つのは難しいでしょう。
また記紀ではニニギをタカミムスビの外孫としていますが、異母兄妹の結婚が当然だった時代のことなので、ニニギの父親もタカミムスビの子だった可能性は否定できません。
そして恐らくニニギの実父が病弱または早世したため、本来彼に与えられる筈だった領国が、その子のニニギに受け継がれたものと思われます。

次いで出雲の系図を見てみると、別天つ神が出雲大社で祀られていることや、オオクニヌシが某大神の六世の孫とされている(書によっては五世または七世の孫とする)ことから、高天原と出雲は別天つ神の次代で枝分れしたのではないかと考えられます。
するとアマテラスとオオクニヌシはほぼ同世代ということになり、かつて分家した両者が国譲りによって再び統合された流れを見ることができます。
ここでは天常立尊の次代で両系を分けてみましたが、時として単独神が男女の複合神とされたり、現世と霊界の別神とされることも珍しくないので、或いは天常立尊と国常立尊という二柱に関しては同一神の可能性もあります。
また新たな土地へ入植しようとする者が、現地のオオヤマツミの娘を娶るという設定は、天孫降臨の際にも見られるものであり、案外これは新参の農耕民と在地の山麓民との関係を表しているのかも知れません。


下図のニニギをオシホミミの下に持ってくれば記紀の系図になる


平氏の系図から読み解く神々
実は後世のこれとよく似た例に桓武平氏の系図があります。
桓武平氏は、その呼び名の示す通り桓武帝を始祖とする氏族で、帝の第三皇子の葛原親王が我が子の賜姓降下を上奏し、これが許されて子等の代に平朝臣を称したのが始まりです。
長男高棟の子孫はその後も京に留まって公家平氏となり、次男善棟は子孫を残せなかったので、後に武家平氏として繁栄したのは高見王の系統です。
但し高見王自身には平姓を名乗った記録がなく、一般にはその子の高望が平姓を賜ったとされることから、記紀の中のオシホミミとニニギの場合と同じく、何らかの理由で高見王ではなく高望への賜姓となったようです。そしてその高望を受領として上総へ赴任させたところ、任期満了後も帰京せずにそのまま土着してしまったのが坂東平氏の起源となっています。

高望は子供達を関東各地へ配置して行きましたが、後に太政大臣清盛や北条氏を輩出したのは長男国香の家系で、国香の嫡男が平将軍と呼ばれた貞盛、その貞盛の子の代に両者は分かれ、次男維将の子孫の一派は相模に移住して北条氏となり、四男維衡の子孫が伊勢平氏となりました。
ここで二つの系図を見比べてみると、平氏の歴史に天御中主尊を探すとすれば、当然桓武帝がこれに当たり、さしずめ氏族の始祖である高皇産霊尊は葛原親王、天孫瓊瓊杵尊は高望王ということになるでしょうか。
因みに北条時政と平重盛は同年齢ですが、時政が葛原親王の十二世の孫であるのに対して、重盛は十一世の孫になります。
無論二つの系図は似ていない箇所も多いのですが、例えば平家が宗盛の代で滅びた後、別系統の北条氏が再び天下を取り、国史として一族の家系を一本化した際に、(自家の祖先を顕すために)家祖の維将を清盛の子孫の中に組み入れてしまい、それを否定する異伝がこの世に一つもなければ、史実など永久に分かりません。


維将を宗盛の下に持ってくれば記紀神話とよく似た系図になる


素戔嗚尊とは何なのか
では史書の中で天孫系の始祖とされ、出雲系の始祖ともされるスサノオとは、一体何者だったのか。
一つだけ言えることは、後の皇室はスサノオの子孫などではないでしょうし、それは出雲のオオクニヌシもまた同じだということです。
ではなぜスサノオなのか。
まず高天原に関して言えば、アマテラスには実子がなかったので、恐らくスサノオの子が高天原を継承する筈だったのが、現実にはそうならなかったものと思われます。
それ故に正史上は彼の子孫がこの国を治めたということにして、その霊魂を鎮めたのであり、この辺の事情については神功皇后から仁徳帝の項で後述します。
ただスサノオの子が高天原の後継者になれなかったのは、アマテラスとの約束そのものが反故にされたのか、それとも一度は彼の子が国主となったものの後が続かなかったのか、元より今となっては事実など知る由もないのですが。

次に出雲に関して言えば、高天原を去ったスサノオがまず出雲へ下り、その後に根の国へ向かったとされていることから、この国とスサノオとの間に何らかの接点があることは間違いないものと思われます。
もしかするとオオクニヌシとスサノオの因果というのも実は時間軸が逆の話で、オオクニヌシが退いて国主不在となった出雲へスサノオが赴いたという流れだったのかも知れません。
そしてその後に根の国へ移ったということは、当然スサノオは出雲の地で生涯を終えたということであり、にも関らず彼の子孫は同地に根を張ることができなかった訳です。
そこに一体どんな力が働いていたのかは分かりませんが、出雲神話の殆どが『古事記』にしか集録されていないという事実も示す通り、高天原と出雲の真の関係というのは今なお浪漫の域を出ないのが現状です。

また史書ではスサノオの子でニニギの父とされるオシホミミも不思議な存在で、アマテラスの御統(みすまる:玉を緒に通して環状にした装飾品)から生まれたというこの神の名について、『古事記』では正勝吾勝勝速日天之忍穂耳命とし、同じく『日本書紀』本文でも正哉吾勝勝速日天忍穂耳尊とします。
前述の通り「正勝吾勝(正哉吾勝)勝速日」という言葉は、スサノオがアマテラスとの神明裁判に勝ったことを表すもので、これはオシホミミがスサノオの系統であることを示しています。
また『日本書紀』一書(第一・第二)では、同神の名を天忍穂骨尊に作って「アメノオシホネノミコト」と読みますが、彼には「根」という神名を持つ兄弟が多いことも示す通り、「骨」は「根」と変えても意味は同じです。
そして「ミミ」という単語は出雲系に多くみられるもので、同じく「ネ」もまた出雲を表すことから、やはりオシホミミは高千穂ではなく出雲に関りの深い神の一人と見ていいでしょう。


2 コメント

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Unknown (katumoku10)
2020-02-26 16:03:32
いい話題をありがとうございます。
日本の古代が謎なのは現存する最古の正史や歴史書が何のために書かれたのかを追求すると分かります。ハッキリ言って真相を隠ぺいするためです。
誰がやったのかは「日本書紀」完成当時の権力者の藤原不比等です。かれが権力の正統性を主張しながら天皇家も貶めて、藤原氏にとって都合の悪い真相をを消すためです。古事記も権力者の顔をうかがいながら真相を少しだけ入れて、「日本書紀」などで消された自分の出自を復活させるためです。だから、記紀をもとにストーリーを作り上げてもダメで、「日本書紀」の歴史改ざんの目的を推理し、史実や実在人物はシナの歴史書をベースに、考古学や民俗学などを援用し、「記紀」に登場する人物とのアナロジーなどを使って推理することによって真相を表す仮説が生まれます。その仮説は、様々な考古学発見などの事象を用いて検証され、仮説の詳細化を行って理論化、つまり歴史の真相を表すストーリーにすることができますよ。
このような科学的なアプローチによってはじめて古代妄想の弊害から私たちが救出されます。今のところ私の仮説は実証的な検証の途上ですが、今の私たちの知見では歴史真相の復元はこの辺りが限界かなという印象です。よろしければ、拙論への批判を頂けると検証作業が進みますので、どうぞよろしくお願い致します(^_-)-☆
【検証11】定説の根拠を疑え(^_-)-https://blog.goo.ne.jp/katumoku10/d/20200201
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Unknown (通りすがり)
2020-02-27 20:38:04
日本の古代の謎等は、
かぐや姫や童謡のなかにもあるとおもいます。
アプローチは違っても、同じようなことをいってたりするかなぁと。

https://etblupmotion.tumblr.com/post/190715288594/monogatari
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