関東地方では桜の開花宣言が目の前というのに、新型コロナウイルス感染症の診療でお花見どころではない日々を過ごされている先生方が多いのではないかと思います。色々勉強し、悩み、不安を抱きながら日々診療をしてるかとは思いますが、基本的には感染しないように最大限努力すること(普段から手洗い、うがい、マスク常備、作業したあとのアルコールによる手指消毒など)と体調管理(きちんと栄養を摂ること、睡眠をとること、ストレスをためないことなど)をすることが重要であることはいつ何時でも大事かと思います。是非とも今まで以上に強靱な体力をキープしながら日々の診療をしていただけたらと思います。
ところで、先日新型コロナウイルス感染症に関する教科書が上市されました。このような日々忙しい診療の中スピーディーに編集された日本赤十字社医療センター呼吸器内科の粟野先生、出雲先生に感謝したいと思います。
本教科書は2020年2月末までのエビデンスを集約したポケット版の教科書で、簡潔明瞭にまとまっているとても読みやすいですので、呼吸器内科医、感染症医のみでなく、一般内科医、研修医、看護師はじめコメディカルの方々にも是非手に取って読んでいただけたらと思います。
2020年2月末までのエビデンスのまとめですが、約半月が経過し、新たなエビデンスが増えたかというと実臨床ではそれほど変わりはしていないように思いますので、まずはこの教科書を読んで頭の中を整理していただけたらと思います。
最近は日本感染症学会のホームページにて症例報告が多施設から出されており、症例を通してたくさんの情報を得ることが出来ますし、実際に診療している先生から実診療の講演を聴かせてもらったり、当院で毎週行われている抄読会では新型コロナウイルス感染症に関する文献(NEJM、Lancetなど)が紹介されたりと実際に診療していない自分にとっても何となく診療に対する心構えが出来ているように思います。
色々なところで書かれていますので、ここで今更整理することもないかと思いますが、自分なりに注目していることをまとめてみます。
①急性感染症なので、最初の数日で大体の経過が予想つくのかと思うやいなや、7ないし10日後くらいに悪化している症例が多いというのがすごく印象的でした。通常の感染症でしたら勝負が決まっている後もも厳重に経過観察しなければいけないということと思います。
②胸部CT所見の典型例は両側肺のすりガラス陰影かと思いますが、そうすると今まで細菌性感染症ではないと考えていた間質性肺疾患、肺水腫(心不全、腎不全など)などすりガラス陰影を来す疾患から如何にコロナウイルス感染症を除外出来るかも重要かと思います。そうなると呼吸器内科以外の診療科は相当注意して今まで以上に胸部CTを評価しなければいけないのではないかと思います。院内感染の懸念をするならば、今まで以上に他科の症例に対して呼吸器内科医が手厚く対応してあげなければいけないと考えます。また浸潤影など細菌性肺炎を疑わせる症例に対して本当にコロナを否定してしまっていいのか?コロナウイルス感染症も進行すると浸潤影を呈するようですから決めつけは出来ないですね。つまり急性経過の胸部異常陰影はすべての症例に注意が必要ということでしょうか?大変ですね!
③この教科書にも記載がありますが、ほとんどの症例で血液検査上白血球数は正常範囲または低下すると記載されていますが、それだけをもってコロナ感染症ではないと言っていいのでしょうか?それほど本疾患の診断は甘くはないと思います。(この教科書にはそのような安易な記載はないことはここに記載しておきます)我々臨床医は目の前で患者さんを診察し色々なデータを集約出来るわけですから、是非とも普段の実臨床の経験を総動員して、総合的な診断に努めていってほしいと思います。
④今までの知見のなかで色々な治療薬についての報告があります。今のところエビデンスがないと言われていますが、個々の症例を詳細に検討してみると、やはり手応えのある治療薬があるように思います。(症例毎に薬剤に対する反応が違うことは事実ですが)そうなると可能性のあるどの薬剤をいつ使用するかになってくるかと思いますが、重症化してしまうと、致死率が一気に上昇してしまうこの新型コロナウイルス感染症ですから、厳重なる経過のもと、少しでも悪化傾向のサインを早く見つけ、薬物治療をトライする姿勢が必要ではないかと思います。今まで以上に我々臨床医の腕の見せ所と思います。
⑤現在学校休校、イベント中止など色々生活上の規制がかかって閉塞感の強い生活を強いられていることと思います。今回の政府の声明に対して色々物申す方もいるかと思います。本疾患の重要な点は感染しても相当の割合で無症状の症例がいること、その無症状の症例が有症状の症例と同じくらい、他者への感染リスクがあること(このことについては毎年経験するインフルエンザではあり得ない話かと思います。インフルエンザになった症例は軽くても少しは症状を認めているかと思います)、その感染力(感染基本生産数)がインフルエンザの2倍以上あること、若い症例は重症化しないことが多い中で、高齢者またはリスクを持つ症例に感染してしまったら重症化して、致死的になるということです。つまり今回の政府の声明は無症状または症状の軽い感染者(特に子供、若者など)がもしこの世にたくさんいるならば、その人たちがいつもと同じ行動をとることにより、高齢者または健康的弱者に感染させないように、その結果重症者、死亡者を減らせるようにということが一番の狙いかと思います。そのあたりの認識を日本全体が取り違えているように感じることが多々あります。現在小中学校、高校生など色々我慢して生活をしていると思いますが、では、大学生、若い社会人はどうでしょうか?規制がかからないことをいいことに意外といい加減な行動を取っているのではないですか?是非ともきちんとした理解のもと適切な行動を取っていただけたらと思います。
新型コロナウイルス感染症に関する情報は学会ホームページ、論文のみでなく、新聞、テレビなど色々なメディアを通して発信していますので、是非ともアンテナを高くして情報の内容を自分なりに取捨選択しながら行動を取っていただけたら幸いです。