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スピリチュアライズド 「宇宙遊泳」 

2007-05-13 13:44:40 | ブリティッシュロック

宇宙遊泳 宇宙遊泳
価格:¥ 2,548(税込)
発売日:1997-07-24
<ブリティッシュロック vol.3>

Spiritualized

「Ladies And Gentlemen We Are Floating In Space」(97年UK)

1.Ladies And Gentlemen We Are Floating Through Space
2.Come Together
3.I Think I'm In Love
4.All Of My Thoughts
5.Stay With Me
6.Electricity
7.Home Of The Brave
8.The Individual
9.Broken Heart
10.No God Only Religion
11.Cool Waves
12.Cop Shoot Cop...

 

スピリチュアライズドの3枚目「宇宙遊泳」である。

スピリチュアライズドは前身のバンド、スペースメン3を解散させたジェイソン・ピアースのワンマンバンド。スペースメン3は”スペース・ロック”をジャンルとして確立させた伝説的バンドで、過剰に強烈なリヴァーブのかかったギターやアナログシンセサイザー、反響と倍音の効果を駆使して聞き手を宇宙的な浮遊感にいざなう音響思考のロックであり、ドラッギーなサイケデリア感覚を音で再現しようとするものといえる。

  

後にシューゲイザー(靴ばかり見て演奏している人、という意味から出たUK90年代初頭に盛り上がった1ジャンル。ディストーションの過剰にかかったノイジーなギター音と呟くようなボーカルが特徴)の金字塔アルバム「ラブレス」を生むマイ・ブラッディ・ヴァレンタインがスペースメン3と対バンしてから音楽性を変えた話は有名だ。いってみればシューゲイザーの始祖的要素をもっていたとも言えるスペースメン3から続くスピリチュアライズドの97年の本作「宇宙遊泳」は、「OKコンピューター」をおさえて英メディアから97年のベストアルバムとされた彼らの金字塔的アルバムである。 

 

このアルバムの意味が持つモノは、今となってみるとより大きくなっている気がしている。

スペースメン3のスぺーシーさの核をなすファズ、ディレイ、トレモロギターの精度がPerfectに高められていることをベースとして、ここではゴスペル、ファンクさらにジャズ、ブルース、さらにはピアースがきいて育ったストゥージス、ダイナソーJr.、ソニックユースらUSガレッジの影響までがバラエティ豊かに取り込まれている。

 

1曲目はタイトル通りの浮遊感ただようイントロ的ナンバー、2曲目はUKサイケの定番類型的アンセム、3曲目はやはりマンチェスター以降という影響は免れないローゼス風ナンバー、以降8曲目までシューゲイザー風、マンチェ風な要素とサイケ要素が入り交じった曲が続き、出色の9曲目Broken Heartへ続く。このナンバーはバンドのキーボードメンバー、ケイト・ラドリー(ヴァーブのリチャード・アシュクロフトと結婚)との破局直後の気分を強く反映した曲。オーケストラを用いて相当やるせなくも美しい曲で、多彩な本アルバムに大きな深みをもたらしている。

  

本アルバムがスペースロック、90年代サイケデリア、シューゲイザーといったジャンルを超えた賞賛をあつめた理由のひとつは、ドラッグ的宇宙への旅の枠を超えて、自己の内的宇宙への旅としての方法論、という感覚が多分に感じられるためであろう。ここで鳴らされ再現されるトリップは、どう考えても逃避行という感じではなく、すくなくとも楽しそう、という感じでもない。むしろやるせなく、どこか切ない、しかし何か求め彷徨い、自己の内面をただよう宇宙旅行なのだ。バラエティ豊かでいながら、アルバムに一貫してピンと張った緊張感がみなぎっているのは、おそらくそのせいかもしれない。

  

おそらくジェイソン・ピアースという人は相当に真剣でまじめな人なのではないか。音響的追求にしても内的探求にしても、ほとんど一人でマネージするにはへヴィーな労作だ。

本作のもつ今日的意味のもうひとつと思われるのは、その音的要素である。スペースメン3でスペースロック、シューゲイザーに影響をあたえた後に、シューゲイザーバンドを尻目にノイズギター一辺倒から大きく進み、オーケストラからゴスペルをとりこみつつ、最も重要な『サイケデリア感覚』の表現を、ロックがいまだかつて持ち得なかった次元で表現しようと試み、そして実現してしまっているのである。

  

ピアースのめざすサイケデリアとは、人間を縛る重力から精神ごと解き放ち、既成概念からも解き放ち、新たな宇宙への旅へ誘おうとする極めて内省的で、現代的な旅路なのだ。

その方法論としての音は、ロックという既成的音世界からも自由であろうとして、模索を続け、ポストロックへと繋がる一つの流れとして、現代の真剣にロックと向き合うロックの担い手として、その試みは重要な意味を持っている、といえるのではないか。

  

どんなに突き詰めて取り組んでも、器用にいろいろな要素を取り入れたり、はたまた変幻してみても、ひとつのアーティストで出来うる歴史的仕事は結果的に限界があり、いくつもの意味を与えることはできない。が、このような取り組みが紡がれて、ロックという歴史の浅い音楽が刻々と進化しつづけている。シューゲイザーというジャンルがこのところ再評価され、サイケという一瞬6-70年代を思わせる言葉が今の時代の重要なファクターのうちのひとつになっているとすれば、そこに今という時代の我々自身を投影させる要因が宿っていると感じられる人々がそれなりにいるからであり、あらたな時代の我々の音、ロックがその周辺でひとつ蠢いていることは確からしい。


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