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Rock Climber 洋楽レビュー

Rock、HM/HR、Alternative、Jazz、ラーメン

セパルトゥラ「ケイオスA.D.」

2009-06-20 16:11:30 | 90'sヘヴィーメタル/ヘヴィーロック
Chaos A.D. Chaos A.D.
価格:¥ 2,042(税込)
発売日:2008-01-13

Sepultura「Chaos A.D.」1993年US
セパルトゥラ「ケイオスA.D.」

01. Refuse/Resist
02. Territory
03. Slave New World
04. Amen
05. Kaiowas
06. Propaganda
07. Biotech Is Godzilla
08. Nomad
09. We Who Are Not as Others
10. Manifest
11. Hunt
12. Clenched Fist
 
Andreas Kisser(Guitar), Igor Cavalera(Drums), Max Cavalera(Guitar/Vo), Paulo Jr.(B)

REMやメタリカのレビューでも書きましたが、1980年代中盤以降のロック界は、社会世相を反映し、よりダークなもの、よりリアルなもの、より荒々しく破壊的なものを求められるようになりました。

そのひとつの表れが、REMらCMJ勢の台頭であり、ガンズ&ローゼスの登場であり、それまで主流だったNWOBHM(ニューウェイブ・オブ・ブリティッシュ・へヴィ・メタル)つまりアイアンメイデンやデフレパード、もしくはプリースト・プリーストまでの硬派なメタルと、ハードコアが結びついたスラッシュメタルの隆盛でした。
 
ギターソロよりも硬派なギターリフ中心のスラッシュは、アングラな男のロック、そこに時代の目が向いた時期でした。
 
もうスラッシュメタルはあたりまえ、デスメタルやゴシックメタル、ハードコアからグラインドコア、メロディックコアまでがロックの表舞台にあがってきた時期でした。
 
いわゆるスラッシュ四天王と呼ばれたメタリカ、メガデス、スレイヤー、アンスラックスなどがアンダーグラウンドシーンからの代表選手としてメジャーで人気を得るようになりました。
 
また主流のHR/HMも、モトリークルーのDr.feelgood、Skid RowのSlave to the grindをはじめ、へヴィネスに舵を切り始めました。
 
 
そして決定打となったのが、スラッシュ勢である91年メタリカのブラックアルバム、92年パンテラのVULGAR DISPLAY OF POWERであり、93年のセパルトゥラのChaos A.D. でした。
 
このあたりを契機に、今まで本流のメタルだったベテラン勢、デフレパードやジューダスプリーストを初めとするほとんど全てのバンドがヘヴィネスに鍵を切ることにより自らのオリジナリティや良さを見失い、一気にHR/HMはひとつの時代を終えてしまう、という大きなうねりを経験することになりました。
 

時代が求めた暗さ、荒さ、重さ、それらに本質的に応えることが出来たのは、80年代から硬派に、自らの道を貫き続けて日陰の地下世界で生きてきたスラッシュ勢だったこと、命を永らえようと無理に暗さを身にまとおうとした門外漢たちは、自然に去り行かざるを得ませんでした。時代はもう戻りませんでした。
 
91年の「Arise」でスラッシュとしての完成を見たセパルトゥラは、自らのアイデンティティであるブラジリアン、トライバルなルーツへの回帰により、スラッシュメタルからもうひとつステージをあげることに挑戦し、見事にそれを成功させました。それがこのChaos A.D.であり、次作「Roots」でした。
 
特に本作は、時期的にスラッシュメタルが全盛を越え、次のレベルへの生き残り、音楽的に世間が求める次のステージへの待望感の中で産み落とされた傑作であり、それだけにセパルトゥラという存在を名スラッシュメタルバンドの域から、世界的なヘヴィロック界の寵児に押し上げることになりました。 
 
 
彼らの特徴はなんといっても、スラッシュメタルで頂点を極めただけのバランスのよさ、ヴォーカル、演奏テクいずれも一流、というベースの上に、ロック界でも後進のブラジル出身というところを逆手に取った躍動感、筋肉質のパワーが全ての音にみなぎっているところでしょう。
 
リズム隊、ギターリフ、そして超絶ヴォーカルの全てから弾き飛ばされるようなパワーが、張り詰めた弓のような緊張感を曲、アルバムにみなぎらせています。
これは中々一朝一夕にはまねできるものではないはずです。
 
メタリカのブラックアルバム同様、ミドルテンポ以下のゆったりしたブラックサバス的チューンが中心。その中でビョンビョン弾みかえる音を繰り出すテクは自信の裏打ちでしょうか。
 
また彼らの特徴のひとつに、わかりやすいキャッチーなフレージングがあるでしょう。
Refuse/ResistだったりChaos A.Dだったり、TerritoryやRootsといったメッセージを、伝わりやすいフレーズで、シンプルに、ダイレクトに、明快につたえる力は、おおきな才能といえるでしょう。
 
スラッシュというマイナーなジャンルのアルバムでありながら、91年リリース当時、メインストリームのロックファンのハートをがっちりつかんでいましたね。どのくらいのあいだでしょう、本作はかなり長い間、数ヶ月レベルで日本でもロック・メタル系のチャートの頂点に座り続けていましたよね。みんな聴いていたと思います。本質的なものとポピュラリティを両立した凄み、をかんじさせてくれます。
  
時代性ということを抜きにすれば次作Rootsはこの路線を突き詰め、個々のパワーもMaxまで極められた傑作ですから、是非そっちもお勧めです。そしてそれが主メンバーであるマックス・カヴァレラの在籍した最後のアルバムとなりました。 
そして時代はKornの登場を待つことになる訳です。 
 
本作Chaos A.D.は、自らの道を貫き、時代に迎合することなく、自らの本質を突き詰めることで、聞くものを圧倒するクオリティを手に入れ、時代を引き寄せ、時代を変えるひとつのギアにすらなってしまったバンドの、歴史的な名盤だとおもいます。


ヘルメット「ミーンタイム」 HELMET「MEANTIME」 1992年US

2008-08-16 15:51:24 | 90'sヘヴィーメタル/ヘヴィーロック
ミーンタイム ミーンタイム
価格:¥ 1,680(税込)
発売日:2006-05-17

HELMET「Meantime」1992年US
ヘルメット「ミーンタイム」
 
 
1 In The Meantime (03:08)
2 Ironhead (03:22)
3 Give It (04:17)
4 Unsung (03:57)
5 Turned Out (04:14)
6 He Feels Bad (04:03)
7 Better (03:10)
8 You Borrowed (03:45)
9 F. B. L. A. II (03:22)
10 Role Model (03:35)

Henry Bogdan (Bass)
John Stanier (Drums)
Page Hamilton (Vocals, Guitar)
 
 
彼らのメジャーデビュー作となるアルバム。
ミキシングはネヴァーマインドを手がけることになるアンディ・ウォラス。 

ヘルメットの特徴は、一言でいうと切れのよさ。
痛快、爽快って感じです。
 
その他のメタルの流れをくむヘヴィなロックバンドとはテイストが全く違っていました。
それもそのはず、ニューヨークに出てジャズを学んでいたページ・ハミルトンが、ソニックユース、ビッグ・ブラック、キリング・ジョークに刺激され、俺の方がヘヴィな音を出せるぜ、と結成したヘルメットの音の新しさ、ルーツがアメリカン・ガレージロック系で、そこにジャズの要素を加えながら、ヘヴィロックバンドには定番になったDダウンチューニング、クールな感覚と計算された構成美、といった個性は、西海岸はシアトルのサウンドガーデンに対する東海岸の回答、と言われました。
 
始めてコレを聴いたときは、結構淡々としているような印象でしたが、そこがミソ、聞き込むにつれてジワジワと味が出てきて、はまってしまいます。
  
 
パンテラとともにその後のヘヴィロックの方向性に多大な影響を与えたアルバムだと思いますが、パンテラとも違うのは、どこかクールでインテリジェントなテイストがあるところ。
 
なんといっても切れまくっている超硬質のスネアドラム、にサイレンのようなギターが絡み、音のボキャブラリーの豊富さが又ジャズ的なリフの繰り返しが、ジワジワと生み出す歯切れの良いグルーブ感でしょう。さらにヴォーカルスタイルも、どこかラップ的な歯切れの良さがあり、後続のKornやリンプ・ビズキットらに多大な影響を与えたはずです。
 
またインダストリアル的な要素は、ミニストリーと共に、続くNINやSystem of a Downに影響を与えています。
 
しかし、次のアルバムBettyくらいまでの彼らの独特のテイストは、わりと地味ながらも他ではなかなか味わえない個性がありました。
 
 
彼ら自身、ドラムのジョン・ステイナーがバンドを離れ、このアルバムで聴かれたような渋みは聴かれなくなったかな、という感じ。

それだけに、忘れがたい個性として、とても印象にのこる90年代前半の”オルタナ”の金字塔、名作のひとつだと思います。
 
 

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レイジ「ミッシング・リンク」

2007-11-11 21:05:36 | 90'sヘヴィーメタル/ヘヴィーロック
The Missing Link The Missing Link
価格:¥ 1,567(税込)
発売日:2003-02-25

「The Missing Link」Rage 1993 ドイツ

  

1. Firestorm
2. Nevermore
3. Refuge
4. Pit and the Pendulum
5. From the Underworld
6. Certain Days
7. Who Dares?
8. Wake Me When I'm Dead
9. Lost in the Ice
10. Her Diary's Black Pages
11. Missing Link
12. Raw Caress

  

ピーヴィ・ワグナー Peter "Peavy" Wagner - ボーカル、ベース
マンニ・シュミット Manni Schmidt - ギター
クリス・エフティミアディス Christos(Chris) "Efti" Efthimiadis - ドラムス

   

ジャーマンメタルは日本で人気のあるメタルのジャンルで、代表選手は、と聞かれればハロウィンと答える人が多いだろうが、それはメタル全盛の80年代後半の大ヒットのイメージが強いせいで、やはりジャーマンメタルの最大の特徴である叙情性のことを考えると、昔の70年代のスコーピオンズやUFOのもろな叙情性とクラシカルなメロディー、誰もが合唱できそうなわかりやすいフレージング、といった特徴をベースに、様々な味付けや個性が加わってきた、ということになるだろうか。

  

83年に結成されたレイジは”ピーヴィー”・ワーグナー(vo、b)を中心に、イギリスのアイアンメイデンやデフレパードらを中心としたメタルの復興のムーブメントNew Wave of British Heavy Metal 略してNOBHMに影響を受けて活動を開始した。

  

現在までに彼らは15枚のRage名義のアルバムを出しているが、本作は7枚目にしておそらくは最高傑作、と思っている1993年の名盤だ。

   

彼らの音楽性の魅力は、一言で言うと「高揚感」だろうか。「グルーブ」と言っても良いかもしれない。Jazzでもクラシックでも音と音とが曲の中で自然に自律的にうねりのようなものを生み出してゆき、生き物のように熱を帯びてのたくりまわり、竜巻のように上ってゆくような、聞き手もそのまま持って行かれてしまうようなトリップ感に誘われてしまうことがあるし、ある種音楽として最高の瞬間であるともいえるだろう、そんな瞬間が何曲にも渡って詰まっているのが、このアルバムなのだ。

   

はっきり言って神が降りたか、としかいいようがない。
「ジャーマンメタル」とかそれ以前に「ヘビメタ」とかいう先入観をもって聞いてしまうとそれなりにしか聞こえないかもしれないが、それではあまりにもったいない。時代性を超えた至福の恍惚感に気付いたときには、音楽というものからもたらされる最良の部類の何か他では得られないパワーが確かに存在しているのだから。

    

この7枚目ではマンニ・シュミットが、独特の奇妙だが機関銃のような高速ギター・リフで次第に高揚感を形成し始めると、ボーカル兼ベースのピーヴィーがうなるようなベースで答え、たたきつけるようなパワーのドラムが、変拍子を多用しながらバカ・テクを駆使しつつ驚異のコンビネーションをみせ、徐々に盛り上がるハイトーンだが腹の底から唸るようなヴォイスが脳を直撃。絶妙に織り込まれるギターソロ、パンテラばりに激烈でいながらメロディアス、メロディアスでいながら紛れもなくゴリゴリのパワーメタル、それでいながらグルーブを生み出すコンビネーション、そしてふっとした瞬間のすきまに流れる哀愁感、それがまたパワフルなメロディにスパイスとなってエンジンが加速する、全ての圧力のある音の塊が歌心となってグルーブとなってゆく。

    

ほめすぎだろうか。いや私が今まで何度と無くこのアルバムから与えられてきた力のことを思えばほめすぎということはないだろう。

    

ひとつの頂点をみた本作でマンニ・シュミットが脱退し、その3ピースとしては最後のアルバムとなり、NOBHMとジャーマンとパワーの間にいるような独特の世界から次のステップへ移行していった。しかしその孤高の精神は普遍、新旧あまたのヘヴィメタル、ヘヴィロックが目指して得難いグルーブをつかんだ傑作だ。音楽の神に感謝。


エクストリーム

2007-07-12 00:23:31 | 90'sヘヴィーメタル/ヘヴィーロック

III Sides to Every Story III Sides to Every Story
価格:¥ 1,640(税込)
発売日:1992-09-22

「Ⅲsides to every story」/ Extreme 1992年US

1 Warheads (05:18)
2 Rest In Peace (06:02)
3 Politicalamity (05:04)
4 Color Me Blind (05:01)
5 Cupid's Dead (05:56)
6 Peacemaker Die (06:03)

7 Seven Sundays (04:18)
8 Tragic Comic (04:45)
9 Our Father (04:02)
10 Stop The World (05:58)
11 God Isn't Dead? (02:02)

12 Don't Leave Me Alone - (cassette only) (06:23)
13 Everything Under The Sun: Rise 'N Shine / Am I Ever Gonna Change / Who Cares? (06:57)
14 Who Cares? III (08:19)


ヌーノ・ベッテンコート(g.)ゲイリー・シャノン(vo.)、
パット・バジャー(b.)ポール・ギアリー(ds.)

90'sのHR/HMの最重要バンド、エクストリームの3rd「Ⅲ sides to every story」を紹介する。

彼らの代表作はなんと言っても2ndの大ヒット作で出世作の「Pornographity」だろう。
この2ndからはアコースティックバラード「More Than Words」が全米一位になったし、アルバムも完璧なファンクメタルアルバムに仕上がっていて全く隙のない傑作だ。
LAメタルのブームのあとに、それらとは一線を画するボンジョヴィやホワイトスネイクがきて、続けてもっとハードなスキッドロウの「Slave to the grind」やモトリークルーの「Dr.feelgood」などが時代の変化を告げ、ガンズがくるわけだが、そのような80年代後半から90年代にかけてのLAメタル以降のHR/HMアルバムのいくつかの傑作アルバムの中でも、このエクストリームの2ndは5本の指に入る名作だった、とおもっている。
それほど完璧な作品だったし、ファンクメタルといいながらもHMには彼らのようなレベルでファンクなものを出せているバンドはいなかったし、たとえばスティービーサラスなど同時代にいくつかいた同系統の作品とくらべても彼らの完成度、飽きさせない丁寧な曲構成、多彩でメリハリの効いた捨て曲なしの曲のよさ、ボーカルのすばらしさ、そしてなによりヌーノのテクニック、かつそれらをすべての要素をコントロールしたヌーノベッテンコートのプロデュースの才能が遺憾なく発揮された作品だった。

しかし、ここであえて3rdアルバムを取り上げたいのは、リアルタイムで彼らを聴いてきた者としての思い入れもあるが、なによりも3rdはむしろ2ndよりもエクストリームというバンドの本質と魅力を2nd以上に湛えているアルバムだといえるからである。

そもそも彼らはファンクメタルバンド、という枠におさまるバンドではないだろう。バンドの音を決めているのはカリスマ ヌーノだが、彼のギターのすばらしさはソロのテクニックではなく、バッキング(伴奏)ギターテクニックにある。
カッティング奏法、スイープ奏法、またソロで見せるスキッピング・タッピング奏法など、いずれも圧倒的なリズム感に裏打ちされた高速テクニックが炸裂するところが特徴で、幼少からギターより先にドラムやベースを弾いてきたことが大きく影響しているのだろう。ソロ早弾きのギターヒーローとヌーノが違うのはそこで、早さやテクニックがリズム感と結びついたバッキングに活かされることによって生み出される強靱なバネのようなリズム、そのリズム感と技術が曲作りに活かされて生まれるHR/HMの枠を超えてゆくようなノリ、それがファンクという形で非常に有効に発揮されたのが2ndだった、というわけだ。
つまりファンクありきではなく、ヌーノにとってそれは自らの実力と天性を活かすあくまでそれは選択肢のうちの一つなのだ。

そして3rdではそのことが十分に発揮される。まずプログレのような長編3部構成となっているシアトリカルな作りに、2ndの成功で得た自信と信頼がうかがえる。6曲目までの1部「Yours」ではファンク・ハード路線、11曲目までの2部「Mine」ではアコースティックでバラードチックな路線、3部「The truth」ではオーケストラを交えた総決算的大円団をむかえる。クイーンの影響を感じさせるハーモニックでシアトリカルなプログレ
路線と得意のファンキー路線と、1stからみられるヴァンへイレン的な突き抜けた明るいHMあり、壮大なオーケストレーションありと、2ndでファンクにまとめられていた縛りを解き放ったように、縦横無尽にヌーノの才能と嗜好が満載で、完全に従来のHR/HMの枠を超えた独自の領域に達している。

一部「Mine」には粒ぞろいの曲もあり、Rest in peaseやStop the worldなど代表曲もあるのだが、一般受けはせず、今となっては2ndだけ、のような印象があるかもしれないが、そんなことはまったく気にすることはなくて、4thのグランジ的?な路線のアルバムの後に解散してしまった今でも、いまだに根強い待望論があるし、ヌーノのカリスマ性が大復活してくれることを待ち望んでいるHR/HMファンは、ギターファンは多いだろうし、結局ヴァンへイレンのボーカルにまで出世したゲイリーシェロンの声が結局一番エクストリーム的だなと感じることろもある。エクストリーム自体もたまに再結成ライブ的なイベントやってたりして気を持たされていたが、このたびなんとあのペリーファレルのサテライトパーティーなる編成でアルバムが出ることになって驚いた。しかしもともと規格外だし、Funk路線はミクスチュアとだぶる面もなくはないし、4thアルバムはダークなへヴィー路線だったし、ペリーファレルとは、とてもうまいキャリアメイクの一歩になるんじゃないか、という意味でうれしい知らせではあった。JALの機内音楽プログラムでシングルを一曲きいたがニューオーダーっぽい感じで悪くなかった。

66年生まれのヌーノは41歳、かれの才能はまだ完全燃焼したとはファンは誰も思っていないし、もう一花二花咲かせてくれることを皆待っているのだ。


パンテラ

2007-04-04 16:51:51 | 90'sヘヴィーメタル/ヘヴィーロック

Vulgar Display of Power Vulgar Display of Power
価格:¥ 2,128(税込)
発売日:1992-02-01
<90's HM/ヘヴィーロック vol.1>   

 「VALGAR DISPLAY OF POWER」(邦題:俗悪 1992年US)

  1. MOUTH FOR WAR
  2. A NEW LEVEL
  3. WALK
  4. FUCKING HOSTILE
  5. THIS LOVE
  6. RISE
  7. NO GOOD (ATTACK THE RADICAL)
  8. LIVE IN A HOLE
  9. REGULLAR PEOPLE (CONCEIT)
  10. BY DEAMONS BE DRIVEN
  11. HOLLOW

メンバーはフィル・アンセルモ(Vo)、ダイム・バックダレル(G)、ヴィニー・ポール(Dr)、レックスブラウン(B)。

今と過去のへヴィーメタルとへヴィーロックを語る上で、彼らのこのアルバムははずせない。このアルバムは自らが「パワーグルーヴ」と呼んだボーカル、ギター、ベース、バスドラム全ての圧倒的な重さとギターリフを中心とした楽曲性が融合したまさに神がかり的な奇跡的傑作アルバムである。

と同時に、92年本アルバム発表当時、へヴィーメタルそれまで細々と生きながらえていたが、芽生えつつあったグランジ的な暗く見通しのきかない社会的気分を反映し、本作は90年代における新たなヘビーメタル・ハードロックとしての方向性を決定づけてしまうことになった。つまり結果的にグランジに対する新しい時代のへヴィーメタルサイドからの回答となってしまったわけだ。メタリカのブラックアルバムとこのアルバム以降、ヴァンへイレンやデフレパードからエクストリームまでHM/HRの大物達が皆、本作で提示されたへヴィーなサウンドの方向性・影響を反映したアルバムを次々と発表することになり、本来の良さを失ってゆく迷走ぶりを見せてへヴィーメタル勢は自らの時代の幕を完全に引くことになってしまう。当時、HM評論家の伊藤正則が「○○よ、おもえもか!!」とラジオ番組で嘆くコメントはお決まりになるほどの右へ倣えっぷりだったのである。

それほどこの”俗悪”アルバムは圧倒的な力と魅力を持っていたわけだが、まずもって曲とギターリフの重さとキャッチーさの兼合いに酔わされる。ハードコアほどマニアックにならず、スラッシュとへヴィーメタルすれすれのボーカルの鬼の雄叫びとギターリフ、バスドラ音が相まった時の押し寄せるようなエネルギーは腹の底から何かが沸騰して走り出さずにいられなくなるような凶暴性で聴く者をアジテートする。それでいて曲は変則的な変調を繰り返すのだが、各パーツの圧倒的なパワーとテクニックで強引な魅力に変わってしまうのだ。こんな凶暴な音楽なのに癖になり頭の中でリフレインされ、ついに知らないうちにリフを鼻歌でくちずさんでしまうのだ。

音楽的にはGのダイムバックダレルの鋼鉄のように重たいギターリフが特徴的だが、早くトリッキーな曲も遅くブルージーな曲も変幻自在のテクニカルな面も持ち合わせており、この重さは変速チューニング(A音を440Hzから400Hzへ)によりもたらされているということ。

その後のへヴィーロックに相当の影響をもたらしたこのアルバムだが、今主流のヒップホップと融合したへヴィーロックの子供っぽさをみても、本作はテクニックとフィルアンセルモのボーカルと当時の過渡期的な音楽的要素の配分具合がもたらした奇跡的な緊張感と男っぽさ、熱さをもった希有な、記念碑的な作品だったのだろう。その後2003年にVoフィルの個人活動によりメンバー間の溝が深まり解散、2004年にはギターのダイムバックダレルがステージ上で暴徒に殺害され、パンテラは永遠にこの世から姿を消してしまうことになったのである。合掌。