goo blog サービス終了のお知らせ 

Rock Climber 洋楽レビュー

Rock、HM/HR、Alternative、Jazz、ラーメン

「水曜日の朝、午前3時」Simon & Garfunkel (1964 US)

2010-06-20 16:06:25 | アメリカンロック
Wednesday Morning, 3 AM Wednesday Morning, 3 AM
価格:¥ 769(税込)
発売日:2008-04-29

Simon & Garfunkel
サイモン&ガーファンクル
 
「Wednesday Monrning,3A.M
/水曜日の朝、午前3時」(1964)

[A] 
1.You Can Tell The World
2.Last Night I Had The Strangest Dream
3.Bleecker Street
4.Sparrow
5.Benedictus
6.The Sounds Of Silence

[B]
7.He Was My Brother
8.Peggy-O
9.Go Tell It On The Mountain
10.The Sun Is Burning
11.The Times They Are A-Changin'
12.Wednesday Morning, 3 A.M.
 
 
Paul Simon
Art Garfunkel

今の人たちはサイモン&ガーファンクルを聴いたりする事はあるだろうか。
 
あまりロックとしての歴史的なインパクトがないような印象があったり、なつかしの、親世代の、ポップス、という印象すらあって、意外と聴かずに敬遠している人もいるかもしれない。
 
しかし、当然ながら、それはあまりにももったいない。
 
壮大な「スカボロ・フェア」や「明日にかける橋」、有名な「サウンド・オブ・サイレンス」「ミセス・ロビンソン」だけじゃありません。
 
 
私は特にデビューアルバムである本作が、数ある彼らの名作の中でも一番好きです。
 
まだフォーク時代の、粗い感じが、今のガレージなインディーロックなフィーリングとしっくりくるのか。
 
まだ彼らも23歳と若く、硬質で青いまっすぐな感じがいい。
 
前編アコースティックだが、ゴスペル風の何曲かが生み出す、とてつもなく静かで、若い硬い、まるで賛美歌のような静謐な感じが、いい。
  
特に私はSparrowが好きです。
 
だれもいない教会の、ひんやりとした冷たい石の柱と、張り詰めた空気のようです。
  
 
  
彼らは、フォークソングをベースとしながら、ロックの要素を加えていったフォークロックを東海岸側ニューヨークから発信し、世界的なアーティストになっていった。
 
また東海岸側の民族音楽要素やボサノヴァ、レゲエからゴスペルまでを幅広く取り入れた、ミクスチャーな音楽性をもっていた。
 
 
ポール・サイモンは、現代最高の詩人の一人、とも評される歌詞のセンスをもっていました。
 
ニューヨークに暮らす現代人の孤独感を基調とした都会的でいながら日常的で、知的で、時にユーモアたっぷりで、リアリティのある歌詞の数々。
 
 
また、彼らは戦うアーティストでもありました。
 
ボブ・ディラン同様アメリカに生きるユダヤ人であることからの呪縛とバックグラウンドは、本作にも歌詞のあちこちで顔を覗かせます。
 
本作にも数曲あるアメリカ公民権運動における自由を求める闘争、ベトナム反戦、など社会の矛盾を、日常的な視点から、あくまでも詩的に、アコースティックに悲しみと憤りを歌う姿は、戦うフォークミュージシャンの姿でもありました。
 
 
それらのとてもとても幅広く豊かな才能を、最大の彼らの特徴である、あまりにも美しいハーモニーと、無尽蔵に生み出されるポップで軽快なメロディでくくってしまう。
 
そのことによって彼らの音楽は、一過性のものではない、永遠の命を得ました。
 
  
時に激しく、時に壮大に、時に静謐に、時に楽しげに。 
 
 
4人だったビートルズに対し、2人でこれだけの音楽を生み出してしまう才能。
 
  
またポールはギターの才能も発揮しました。 
 
彼のマーチンD-18によるパーカッシブなスラッピング奏法はブリティッシュ・フォークに学んだ影響からきています。
 
 
4000枚しか売れなかった本作の後で、彼らは世界的なアーティストになってゆき、「Bookend」をはじめとする名作を残しますが、本デビュー作には、この頃の彼らにしかだせないテイストが刻まれています。
 
時代の流れにも風化されないサイモン&ガーファンクルの、静かで、激しい世界を、まだ実はじっくり聴いてはいなかった方、ようこそ。
 
そこには別世界が広がっていて、あなたにも何かを与えてくれる気がします。
 

<script type="text/javascript"></script>

ザ・ブラッククロウズ「ビフォア・ザ・フロスト/アンティル・ザ・フリーズ」ブラッククロウズ

2010-05-30 16:35:18 | アメリカンロック
Before the Frost/Until the Freeze Before the Frost/Until the Freeze
価格:¥ 1,539(税込)
発売日:2009-08-31

「ビフォア・ザ・フロスト/アンティル・ザ・フリーズ」ブラッククロウズ 2009年US
「Bofore the frost/Until the freeze」The Black Crowes
 
「Before the frost」
1. Good Morning Captain
2. Been a Long Time (Waiting on Love)
3. Appaloosa
4. Train Still Makes a Lonely Sound
5. I Aint Hiding
6. Kept My Soul
7. What Is Home?
8. Houston Don't Dream About Me
9. Make Glad
10. And the Band Played on...
11. Last Place That Love Lives
 
「Until the freeze」
1.Aimless Peacock
2.Shady Grove
3.Garden Gate
4.Greenhorn
5.Shine Along
6.Roll Old Jeremiah
7.Lady Of Avenue A
8.So Many Times
9.Fork In The River

Christopher Robinson ? vocals, harp, guitars
Richard Robinson ? guitars, sitar, vocals
Steve Gorman ? drums, percussion
Sven Pipien ? bass, vocals
Luther Dickinson ? guitars, mandolin
Adam MacDougall ? keyboards, vocals
Paul Stacey ? producer, engineer, mixing

ひさびさにグッときました。
  
鉄板即買いアーティストの彼らですが、ようやく最近聞きました。
 
これはきました。
 
なんか感動しました。
 
復活した前作からルーツ路線にもどす方向性はありましたが、まだどうもリハビリ感を感じてしまいましたが、本作はちがいます。
 
ダウンロードできる2枚めの"Until the freeze"のズブズブのトラディショナル路線でも明白なように、もはやルーツの本質と、彼らなりに向き合うんだ、という腹が据わった感が伝わってきます。
 
 
3枚目以降の彼らはオルタナティブ路線やハードロック路線を織り交ぜながら、新しい時代のブルースとの付き合い方を探し続けてきました。 
 
1枚目2枚目で圧倒的な支持を得ながらも、"何も新しくない”などという批評を浴びせられたことも無縁ではなかったでしょう。
 
迷走とも言われた模索の日々。
 
そして20年。
   
  
辿り着いた心の場所。
 
 
今の時代に息を吸う人間が、真剣にルーツロックに向き合って、その本質的な部分を鳴らすことができたなら。
 
そこにはまぎれもない、今現代の我々のためのブルースが鳴らされるはず。
 
それは、とても価値のあるチャレンジじゃないのか。
 
 
廻りまわって辿り着いた本作では、いい感じに年季の入った彼らの厚みのある、”活きた”演奏が聴かれます。 
 
名作2ndアルバムのテイストが感じられる箇所も随所にありつつも、もっとゆったりした感じが重ねた月日を感じさせます。
 
あるいはザ・バンドのリヴォン・ヘルム所有のスタジオでの録音がケミストリーを起こしたのでしょうか。
  
 
ライブ形式で録音された1枚目は、ライブ感あふれるギターが踊りまくります。
 
2曲目からギターから発するグルーヴにめまいがします。
 
浮遊感のあるオルタナ、ポップでダンサブルな音が巷に溢れかえる中で、このロック感は痺れます。 
 
ああ、当分これで飯が何杯でも食える。
 
何より現代のロック界のオアシス、ブラッククロウズが、本質的に復活した気がして、とてもとても嬉しい。
 
そしてその気概になんだかジーンとしたわけで。
  
傑作です。


<script type="text/javascript"></script>

ミートローフ「地獄のロックライダー」1977年

2010-04-07 17:59:16 | アメリカンロック
Bat Out of Hell Bat Out of Hell
価格:¥ 1,422(税込)
発売日:2001-02-26

Meat Loaf「Bat Out Of Hell」1977 US
ミートローフ「地獄のロックライダー」

A
1.Bat Out Of Hell 
2.You Took The Words Right Out Of My Mouth (Hot Summer Night) 
3.Heaven Can Wait 
4.All Revved Up With No Place To Go 
 
B
5.Two Out Of Three Ain’t Bad 
6.Paradise By The Dashboard Light 
7.For Crying Out Loud 
 
 
Produced , Engineered and Mixed by Todd Rundgren
Arranged by Jim Steinman with Todd Rundgren
Vocals by Meat Loaf
Guitar : Todd Rundgren
Piano: Roy Bittan(The E Street Band)
Drums: Max Weinberg (The E Street Band) , John Wilcox(Utopia)
Bass: Kasim Sultan (Utopia)
Synthesizer: Roger Powell(Utopia)
Keyboards: Roy Bittan, Jim Steinman
Back Ground Vocals: Rory Dodd, Ellen Foley, Todd Rundgren, Marvin Lee
Saxophone: Edger Winter

1977年発売、全世界で約4000万枚以上売り上げ、音楽史上6番目。(5番目?)
ピンクフロイドの狂気より売れてるってすごいね。
 
今から聴くなら入りやすさはⅡのほうかもしれません。こちらも2500万枚。
HR/HM好きはⅡから、それ以外はⅠから、がいいかも。
  
しかしこれだけ歌える声が出るってことが表現力のおおもと、気持ちがいいとしかいいようがない。
 
縦横無尽に歌いわたる声の響き。
緩急自在な表現力。
  
生きてゆく上で出会うあらゆる種類の苦しみや困難も、ハングリーに生きてゆくうえでの立ち向かい甲斐のある障害に過ぎない。
 
むしろそれくらいの方がこのすばらしい人生、おもしろいじゃないか。 
  
それくらいのパワーというか人間力を感じさせてくれます。
曲の作りも徹底的にドラマティックに振り切ることが、すがすがしさや腹の据わった感じがします。
 
おもいっきり振り切って、臆面もなく、人目もはばからず精一杯生きて、何が恥ずかしいことがあろうか。
 
われわれは、これほど精一杯生ききっているのか。体いっぱい、何かを感じて、あらわして、つたえているか。
  
コンプレックスの塊から抜け出したミートローフとソングライター、ジム・スタインマンの野心がそれぞれの実力と見事にかみ合って、とてつもなくロックなマインドのオペラが出来上がり、世界中の人の心を打ち貫いた、ということでしょう。
  
ソングライターはジム・スタインマン。ボニー・タイラーの「ヒーロー」は懐かしいドラマスクールウォーズの主題歌でした。4がシングルでビルボード10入り。
 
 
バックも豪華。スプリングスティーンのEストリート・バンドのロイ・ビタン、マックス・ワインバーグ、Saxにエドガー・ウィンター、バックヴォーカルにクラッシュ一派のエレン・フォーリー。
 
トッド・ラングレンのプロデュース。ギターのほとんどはトッドによるもの。
 
まあ代表曲で真骨頂は1の「Bat Out of Hell」でしょう。
Bat out of hell Ⅱの人をくったような、それでいて豪快な曲達も痛快無比な魅力がありますが、こちらの方はまだ若さがあって、青春賛歌でロックオペラな感じが強いです。
 
Ⅱの濃厚さに比べて、やや爽やかかもしれません。どこかBスプリングスティーンとか青春感や言葉が多いあたりElton Johnを感じる瞬間もあります。 
 
どの曲もいいのですが、1曲目とタメを張るのは最後の⑦「For Crying Out Loud」でしょう。しみじみと歌い上げ、ミートローフの実力も遺憾なく表現されていると思います。
 
   
たまに無性に聴きたくなるときがあります。
そして何かを感じさせてくれる。
 
時代性も音楽性も超え、ロックという音楽の可能性を無限に広げた、不朽の名盤です。
 
 
"Bat out of hell"
会場を睨みつけるミートローフの目が据わっています。 
 

<script type="text/javascript"></script>

フリートフォクシーズ

2009-10-12 01:03:38 | アメリカンロック
Fleet Foxes Fleet Foxes
価格:¥ 1,489(税込)
発売日:2009-04-25

Fleet foxes 「Fleet foxes」2008年US
フリート・フォクシーズ「フリート・フォクシーズ」
 
1. Sun It Rises
2. White Winter Hymnal
3. Ragged Wood
4. Tiger Mountain Peasant Song
5. Quiet House
6. He Doesn't Know Why
7. Heard Them Stirring
8. Your Protector
9. Meadowlarks
10. Blue Ridge Mountains
11. Oliver James
 
 
Robin Pecknold (G,Vo)
Skyler Skjelset (G)
Christian Wargo (B)
Casey Wescott (Key)
Josh Tillman (Dr)

聴きこめば聴きこむほど、味の出るアルバムだ。
 
 
2008年に、かのシアトルはサブポップから出たフリート・フォクシーズのデビューアルバム。
 
冒頭の2曲の明るい光に包まれた壮麗なゴスペルのようなバロック・ポップは、このバンドの代名詞。
 
アコースティックなギターが教会の高い天井にこだまするような透明感。
 
エコーのかかったウェットなボーカルとコーラスワーク。
 
3曲目以降も、以外に多彩な音の陰影で、様々な表情を見せてくれる良い曲が並ぶ。
 
浮遊感と多倖感を漂わせながら、迷いもないその声の強度・精度がその完成度の高さと共に、意思の決然とした様を写しているかのようだ。
 
そして、やはりどこか決然とした意思を感じさせるドラミング。
 
この浮遊感、多倖感にして、この明るさ、決然とした様は、新しい時代の到来を感じさせるものだといえるだろう。 
 
 
最も影響を感じさせるのはバーズだろうか、カントリータッチ、フォークロック、コーラスワーク、優れたメロディセンス、ある時期のビーチボーイズ、ソフトロック。
 
それらの影響を強く感じさせながらも、バロックポップと呼ばれるとおり、中世の教会音楽のような聖なる響きを取り入れた独特の透明感をたたえた音楽性は、ひとつの発明。
 
そして今の時代に、この音を鳴らすことに、どのような価値が与えられるだろうか。 
  
 
すくなくとも私には、単なる偶発的な発明品のひとつ、一過性の珍しいもの、として消費されて終わるには惜しいものを感じさせてくれる。そんな気になるアーティストの作品だ。
 

 
現在進行形のロック界は、ご存知のように多様化・複雑化を極めている。
 
インターネット、YoutubeやMyspaceの登場は、表現者と表現の場の裾野の拡大をもたらした。
 
 
あるいはグランジ以降のアンチロック、ポストロック探求の流れ。
 
人は言葉にならない時代の気分を代弁してくれるロックのあり方を求めて、ロックの表現形態の拡大を求め続けている。
 
 
または9.11を含めた8年におよぶブッシュ政権下において、ロックミュージックにも、暗い時代とアメリカにおける現状日常への違和感と自己批判の重さが間違いなく影響した。
 
そしてその反動、批判としての超パーソナルな世界感の確立と逃避、現社会との隔絶、桃源郷的なサイケデリアやシューゲイザー的な世界の表現、あるいは反現在的なものとしてのルーツミュージックへのアプローチという流れ。そのような批判的な視点からの現実逃避を是とする空気もあっただろうと思う。
 
あるいは意識的なダンス・ミュージックとロックの融合がニューヨークでもイギリスでもひとつの潮流となった。ストーン・ローゼスによってロック界に注入されたといってもいいこのフォーマットは、テクノやミニマルミュージックも巻き込んで引き続きロック界にひとつの山脈を形成してゆく。  
 
あるいは英国におけるここ数年のロックンロール・リヴァイバル、ポストパンク・リヴァイバル、ニューウェイブ・リヴァイバル、ニュー・レイブと呼ばれるイギリスのダンスロック、といった一連のリヴァイバルによる過去のロックの遺産の素材化、復刻。
 
 
これらを全てつなげてみたとき、過去の音楽遺産・世界各地の音楽、それらが等しくデジタルなフォーマットで、様々な意味と価値をもった素材として横並びに陳列されている状況だといえるだろう。
 
この60年代も70年代も80年代も、90年代ですら、等しく新鮮な素材のひとつとして、料理の対象に、ミクスチャーの実験材料になる。
 
それほどに00年代は、ロックがバラバラに解体された時代だった。 
  
表現者はそれらをつなぎ合わせ、色々な音で、新しい時代の音を模索する。
 
主役は、それを選ぶ側の我々に移ったとも言える。
 
選ぶ側の聞き手の数だけ、ロックが存在することになる。
  
2000年代の10年間、つまり00年代にはロック界にレジェンドと呼ばれるほどの巨人は現れることはなかった。
 
巨人は我々、聴き手、という言い方もできるかもしれない。
 
そんな10年間を、ロック界が迎えたことははじめてだろう。
 
 
  
そして、
 
80年代後半以降のこの20年、表現者たちは、どちらかというとネガティブな、暗い気分、自分たちを覆う社会や、前の時代の遺産などに対する批判、それらに影響されてきた自分への嫌悪や逃避、そんな場所から鳴らされている音が多かったのではないだろうか。
 
ニルヴァーナにしてもレディオヘッドにしてもREMもベックもコールドプレイも、グリーンデイにしても、パンクやロックンロールリヴァイバルにしても、快癒と批判の物語であり、出発点にはある意味の暗い想いがあるのだろうとおもう。
 
この20年以上、いやもっと長い間、50-70年代のロックも、私にとってのロックはほとんど、そういうものだった。
 
逆に屈託のない、あかるいロックは、あまり受け付けないほうだ。
屈託からの逆襲こそが、ロックだという気がしているし、それが反骨のエネルギーにもなるのだと。
 
 
しかし、本当に、ついこの1-2年だろうか、何か社会の気分が、若い表現者側の気分が、大きく変わってきている気がしている。 
 
簡単に言えば、暗い想いが、底をうった、とでも言うのだろうか。
 
  
サイケデリアも、アメリカーナいわゆるアメリカン・オルタナカントリーにも、ダンスミュージックとのミクスチャーロックにも、ここ最近、何の屈託もない、暗さの影や、寂しさを感じさせない、新しい感覚のものが出てきている気がする。
 
はじめの頃は、違和感に過ぎない、とおもっていた。
 
次には、何でロックをやっているのか、うわっつらか、と感じた。
 
やがて思うようになったのは、これは新しい気分であって、意識的・確信的な音なんだということだ。
 
彼らは、もはや90年代以降を生きているわけではない。
 
今を生きはじめている。
 
 
フリートフォクシーズは、間違いなく、これからのロックの行く先を示す、重要な作品を生み出した。
 
これは新しい音、そしてこれからどこへ行くのか、どうなるのか、まだわからない、今を生きる青春の音なのだろう。
 
そんなことを考えさせてくれたアルバムだった。 


「ハーベスト」二ール・ヤング

2009-09-23 16:11:33 | アメリカンロック
Harvest Harvest
価格:¥ 1,163(税込)
発売日:2009-07-20

「Harvest」Neil Young 1972年2月
 
「ハーベスト」二ール・ヤング
  
 
1. Out on the Weekend
2. Harvest
3. Man Needs a Maid
4. Heart of Gold
5. Are You Ready for the Country?
6. Old Man
7. There's a World
8. Alabama
9. Needle and the Damage Done [Live]
10. Words (Between the Lines of Age)
 
Ben Keith(Guitar (Steel)), David Crosby(Guitar), Graham Nash(Vocals), Jack Nitzsche(Guitar,Keyboards, Piano), James Taylor(Vocals), John Harris(Piano), Kenneth A. Buttrey(Drums), Linda Ronstadt(Vocals), Neil Young(Guitar,Vocals), Stephen Stills(Vocals), Tim Drummond(Bass,Drums)  

 
ニール・ヤングの魅力とはいったいなんでしょうか。
 
私は、戦い続けている弱者、という言い方ができるかな、と思っています。
 
いかつい風貌と体躯からは違和感すらあるかぼそい歌声、荒くて直情的なギター。
 
力強くて頼りがいのありそうなアメリカンロックの王道ボーカルとは真反対の、よれよれの声。
 
それなのに、内面的な葛藤を赤裸々にさらし、自分と比べて圧倒的な世間を向こうに回して、一人立ち向かおうとする姿。
 
今のグランジ・ロックやオルタナ勢が90年代以降メジャーシーンに躍り出た理由には、メインストリートの健全でパワフルな道から外れた、マイナーで弱くて暗い内面的な叫びを、表舞台に引きずり出したことにあったでしょう。それが痛快であり、それが市民権にすらなったわけです。
 
ヤングはそれを40年近く前から一人でやり続けているわけですから。
 
私はどうしようもなく怒りがこみ上げてくるような時、超ハードで超早くて超ラウドな轟音ロックと並べて、ヤングの曲を聴くことが結構あります。
 
誰よりも戦い続けているヤングが歌う癒しの曲を聴くと、いつも私は何もいえなくなります。 
 
いつのまにか怒りの気持ちも、なだめられてしまいます。
 
ヤング御大がそうおっしゃるなら、という感じですかね。
高校生の頃に出会ってから、もうずいぶん長い間、そんな風におせわになっています。

20代にして老成した爺さんのようなか細い線の細いハイトーンボイスは、はじめは好き嫌いが分かれるかもしれません。これがロック?って。
 
しかし、この声の魅力に取り付かれると、その奥深さに、やられます。
 
戦い終えた戦士の、歴戦を経た年輪と経験が物語るかのような、名曲たち。
 
それは、まるで60年代を共に戦い、幻を追い求めて敗れた同志達を、すこしだけ客観的に見つめていた孤高のロッカー、ヤングの宿命であるかのようです。
 
彼自身、それを自覚しているからこそ、シンプルで美しい生き方、を長年貫いているのでしょうか。
 
かれはカナダ人であり、アメリカ人ではないことを若干は関係しているかもしれません。
 
 
  
特にこのハーベスト、という作品は、ヤング作品の中でも、もっとも穏やかな部類の作品です。しかし歌われている内容は、やはりタフで青いです。
 
戦い続けていること、あいかわらず怒り続けていること、そのことの純粋さ、瑞々しさ、イノセントさが、この方の現役感につながっているのではないかとおもっています。
 
 
この方の曲は、鉈(なた)で粗く削りだしたようなまんまの、素朴だけどダイナミックな曲、それでいて耳になじむ懐かしいようなフォーク・ロック、カントリー・ロック。
 
アコースティックなサウンドで、荒い息遣いまでもろともぶっつけてくるような、生々しさ、ダイレクトさがあります。
 
時代の寵児となりながらも、自分の歌いたいこと、歌うべきことだけを、率直に歌い続けてきた彼。それは奔放なようで、もっともブレない自分という信念に貫かれた活動、ともいえるかもしれません。
  
 
 
このアルバムがでた1972年前後は、ロックという音楽が時代とのかかわりを大きく変えていった時代でした。
  
1969年を境に、ウッドストックをはじめとするヒッピーカルチャー、ユートピア幻想が頂点を迎えると共に、崩壊を始めました。
 
反戦運動、社会に対する反動、ドラッグカルチャー、それらの上に成り立っていた若者たちの桃源郷は、幻だと、皆気づかされてしまいました。
 
ジミ・ヘンドリックスやジム・モリスンらの死も、斜陽を象徴しているかのようでした。
 
一方で、巨大な”世代”にまで膨張したロックのリスナーは、同時に巨大なビジネスがそこに存在しうることを意味してもいました。60年代にロックリスナーのパイを飛躍的に拡大させたビートルズやバーズの功績は、皮肉にもそのまま70年代というロックがビジネス化してゆく過程に、そのまま移行してゆくことになりました。
 
 
そのような70年代前半のシーンの中心となったのは、引き続きアメリカ西海岸でした。
そこからはやがてドゥービーブラザースやイーグルスが現れました。
 
ピッピーカルチャーを牽引していたバーズ、ボブ・ディランが提示した自分たちの足元を見つめよう、というアメリカ土着の音楽とロックの融合、いわゆるカントリーロック、フォーク・ロック、その発展としてのウエストコースト・ロックが70年代を牽引しました。

 
それはCSN&Yや次にくるジェイムス・テイラーやキャロル・キングらをはじめとするシンガーソングライター達の個の時代、においても基調となってゆきました。
 
またイギリスのロックを牽引してきたローリング・ストーンズ、クリームからブラインドフェイスを経てのエリック・クラプトンやトラフィックのスティーブ・ウィンウッド、フリーらは、探求し続けたブルースロックの果てに、アメリカ南部~西部のサザン・ロック、カントリーロックにロックの光明を見出してゆきます。そこではデラニー&ボニー、オールマンブラザース、レイナードスキナードらが登場します。
 
 
ニール・ヤングは、そのような時代に、ロック界に登場します。
 
本blogでも一度レビューしたバッファロースプリングフィールド で名作を残した彼は、ヒッピー世代の代表選手CS&Nに、ツアーに必要なハードなギタリスト、として雇われ、時代の表舞台に姿を現します。
 
彼の孤高なミュージシャンシップが生み出す緊張感と、荒削りなギターは、CSN&Yを稀代のスーパーグループへと押し上げ、彼自身のキャリアも、ある意味ではピークに達します。
 
CSN&Yでの1970年3月の「Deja vu」 の成功、知名度を上げたあとでの同年8月の3rdアルバム「After the gold rush」。最高位8位、初のプラチナレコードとなった同作によりヤングは、名実共にロック界にその名をとどろかせます。

CSN&Y自体は1971年4月の「4way street」以降、分解に拍車がかかり、それぞれ個々の活動にうつってゆきました。
 
翌年2月、本作4thアルバム「Harvest」は発表されました。ヤング26歳の時の作品です。
たちまち200万枚を売り上げ、全米1位年間でも1位、シングル「ハート・オブ・ゴールド」も1位を獲得し、ヤングはビジネスシーンの表舞台に引きずり出されることになります。
 
現地のミュージシャンとニルス・ロフグレン、ジャック・ニッチェとストレイ・ゲイターズとゆう即席バンドを結成して、カントリーの聖地ナッシュビルで録音された本作は、前作までとは異なり、かなりバラエティに富んだ内容、やややったりとした穏やかな音の表情を見せた作品となっています。CSNの3人も参加しています。
 

1曲目、2曲目とのっけからレイドバックした音でスタートしますが、聴かせます。
 
どこか寂しげな曲調の中に、濃厚ななにやらが詰まっていて、単純な寂寥感だけではないものが伝わってきます。アコギとブルースハープだけで、ここまで詰め込まれた充実さと濃厚さが、本作の豊穣さ、まさにハーベストです。 
 
3曲目でドラマティックな構成の曲は、いよいよ寂寥感を飛び越えて、切なさの境地まで、まるで悟りの極地まで飛んでいってしまったかのような一大サウンドがストリングスと共に繰り広げられます。まるでロッキー山脈の尾根を踏破しながら、夕焼けの向こうにこの世の向こう側がみえてしまったかのようです。 
 
かぼそい声が、天空を飛翔してゆくかのように伸びてゆく不思議さは、何なんでしょうか。 
 
代表曲はやはり4曲目のHeart of Gold。青臭くもまっすぐに求め続けるヤング節。ジェイムス・テイラーやリンダ・ロンシュタットが参加し、シンガーソングライターブームの先鞭をつけています。
 
  
5曲目は、その名も「Are you ready for the country ?」徴兵制の歌です。
耳にのこるフレーズとポップながらしっかりスワンプしてる足腰の安定感、うってかわって明るく軽妙な曲調のバラエティさが本作の成功の理由です。

6曲目は、名曲old man。
最近出たLive at Massey haleでの名演は最高です。  
 
7曲目は3曲目同様、かのフィル・スペクターの元で仕込まれたニッチェの壮大なストリングスが響き渡ります。ヤングとはバッファロースプリングフィールド時代からの付き合いですが、かれはリンゴスターの思い出のフォトグラフをはじめ数々の名曲にかかわり、後に「愛と青春の旅立ち」でアカデミー賞に輝くことになります。 
 
8曲めはかの「アラバマ」。いわずとしれた南部の黒人差別を歌ったもの。彼は前作でも「サザン・マン」で同様の内容を取り上げています。南部出身のレイナード・スキナードが「スイート・ホーム・アラバマ」を南部の誇りとして歌い、アンサーソングとして有名になりました。ささくれたギターもヤングの魅力です。
   
 
9曲は麻薬中毒を非難した歌。こんなシンプルな歌が響きます。
 
不器用そうな、それでいてまっすぐな、すれない歌声とでもいうのでしょうか。
 
ナイーブというか。
 
 
で、10曲目、ラストです。
 
歌えない、弾けない、それほど魂がこもり、全てが、伝えられる。
 
つんのめるような言葉。
 
 
「After the gold rush」派の方も結構いると思いますが、私は昔からこっち派かな。
 
どっちかというとですけど。
 
さっきも触れましたが、ヤングはライブもすごい。
 
若い頃のライブでは、この声が伸びまくります。
 
REMのマイケル・スタイプも、全盛期はあんな声が伸びまくりでしたが、当然影響はあるでしょう。
 
この3rdと4thの間という意味では先ほどあげた「Live at Massey hole」は素晴らしい。
 
合わせてお勧めします。
 
 
ソニック・ユースやパール・ジャムらを引き合いに出すまでもなく、グランジ勢をはじめとした今の世代からのRespectは、そのアーティストとしての信念の貫き方と、一線で活躍することを長年両立し続けていることから来ているでしょう。カート・コバーンならずともあこがれる、理想的なロックンローラーのひとつの姿として、素晴らしいお手本です。
  
まあロック史を語る上では欠かせないMustな超名盤でありながら、本人がまだ現役感バリバリというところが唯一無二の存在、ニール・ヤング、いける伝説です。
 
”Out on the weekend” 

<script type="text/javascript"></script>