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Rock Climber 洋楽レビュー

Rock、HM/HR、Alternative、Jazz、ラーメン

パット・メセニー/チャーリー・へイデン「ミズーリの空高く」

2009-06-20 23:36:27 | jazz
Beyond the Missouri Sky (Short Stories) Beyond the Missouri Sky (Short Stories)
価格:¥ 1,940(税込)
発売日:1997-02-25

Pat Metheny/Charlie Haden「Beyond The Missouri Sky」1996年US
パット・メセニー/チャーリー・へイデン「ミズーリの空高く」
 
1. Waltz For Ruth
2. Our Spanish Love Song
3. Message To A Friend
4. Two For The Road
5. First Song
6. The Moon Is A Harsh Mistress
7. The Precious Jewel
8. He's Gone Away
9. The Moon Song
10. Tears Of Rain
11. Cinema Paradiso(Love Theme)
12. Cinema Paradiso(Main Theme)
13. Spiritual
 
Charlie Haden (bass)
Pat Metheny (acoustic guitars and all other instruments)
 
久々にジャズを紹介します。
春のドライブにぴったりな、さわやかな一枚で、ジャズファンでなくても十分楽しめます。
 
現代のジャズ界のもはや大御所ギタリスト、パット・メセニーと、1950年代から活躍するデュオの名人ベーシスト、チャーリー・へイデンの2人による静かな演奏です。
 
あまりにも心地よくて、空間的な広がりがとっても癒されます。
 
ギターとベースのデュオというのはとても珍しいですが、基本的にパット・メセニーの独特のスペイシーで突き抜けるように爽やかなギターが堪能できます。
 
かたやヘイデンの重いベースが静かに寄り添い、渋みを添えて、メセニーの音楽を引き締め、全体として非常に素敵な世界が展開されています。
 
パットメセニーは80年代からヒット作を連発し、キーズ・ジャレットと並ぶECMレーベルの看板スターになり、レーベルをゲフィンに変わってからもアルバムを出せばグラミー賞という常連になりました。
 
彼はジャズど真ん中というよりは、爽やかで軽やかなギターのフュージョン、というカテゴリで、サックスでいえばデヴィッド・サンボーン的な聴きやすさで、広くファンを獲得し、ジャズのファン層を広げている方です。
 
並み居る聴きやすい系イージーリスニングのアーティストらとメセニーがまったく異なる点は何でしょう。
おそらくそれは作曲、アレンジ能力、バランス感覚でしょうか。そしてそれは60年代初めから始まったフリージャズ、オーネットコールマンの影響を受けているとてもジャズ的なバックグラウンドからくるものでしょう。
 
複雑でフリーなジャズを、彼独特の軽い爽やかな音、ディレイとコーラスを重ねたスペイシーサウンドで、ジャズというカテゴリを飛び越えて、あくまでも心地よく軽やかに、jazzらしくなく、聞かせてしまう。そこが、すごさを感じさせない爽やかな凄みでしょう。
 
チャーリー・へイデンはそのオーネット・コールマンのバンドに60年代初期に在籍し、名盤を生み出してきた生き証人です。ソロでも政治的なメッセージを持ったアグレッシブな作品を残してきた重鎮です。
 
 
本作ではメセニーはソロ作やトリオ作よりももっとシンプルに、伸びやかに、ゆったり静かに演奏している感じがします。
 
まるで同郷の2人のふるさとミズーリの大きな流れのようです。
スピリチュアルで、アコースティックで、ナチュラルです。
湿地帯の茂みの中で、ゆったり堂々とした静かな川の流れを眺めているような、時にはそのまま夕焼けがかった空へ舞い上がった雲のような。
 
およそジャズらしくない聴きやすさで、おそらく万人に心地よく、かついまだジャズ界フュージョン界の重鎮となったパット・メセニーのデュオ作。
 
春らしい爽やかな、こんな作品からジャズに、あるいはパット・メセニーのジャズギターの世界に、入ってみるのもいいかもです。
 
本作は98年スイングジャーナル誌選定ジャズディスク大賞銀賞、グラミー賞ジャズ・インストルメンタル部門賞も獲得しています。
 
 
"Our Spanish Love Song "

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"Two for the road"

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キース・ジャレット

2009-02-11 15:57:45 | jazz
ザ・ケルン・コンサート ザ・ケルン・コンサート
価格:¥ 2,800(税込)
発売日:2008-09-03

「The Koln Concert」Keith Jarrett(1975年ドイツ)
「ケルン・コンサート」キース・ジャレット
 
1. Koln, January 24, 1975 Part 1
2. Koln, January 24, 1975 Part 2a
3. Koln, January 24, 1975 Part 2b
4. Koln, January 24, 1975 2c
 
 
現代の生きる伝説、いわゆる3大ジャズピアニストといえば、チック・コリア、ハービー・ハンコック、キース・ジャレットですね。
 
彼らがすごいのは、まだまだ現役感がバリバリなところですね。
もうほとんど何をしても許される状態。
 
  
しかし、3人とも異端ですね。
王道のジャズピアニストというくくりでははかりきれない。
 
3人ともマイルス・デイビスのもとにいた時期がありました。
マイルスのもとに集う才能と交わりながら、モダンジャズの本質と革新性をたたきこまれたんでしょうか。特にチックとキースは同じ時期にバンドにいて、ツイン・キーボードというときがありました。
 
キースの場合はマイルスの前にチャールス・ロイドのバンドで名声を上げましたが、さらにその前に、アート・ブレイキーのジャズ・メッセンジャーズ出身。 
  
マイルスのもとを巣立ってからの3人が、70年代からのモダンジャズを牽引して来ました。
 
王道を学び、自分の個性を打ち出して、みずから新しいジャンルを形成するほどの世界を作り上げつつ、自由自在に王道との間を行き来きしながら、長年にわたって枯渇することのない才能を開拓し続ける彼ら。
 
 
なかでもキース・ジャレットの個性は際立っています。
 
70年代に入ってからの、「Facing you」「Solo Concert」そして75年の本作が一般的には決定打になり、70年代のソロピアノジャズの人気を確立しました。
 
 
キース・ジャレットを表現するとき、よくクラシックの素養、ということが言われます。
 
じゃあ彼のジャズがクラシックっぽいのかと言われると、そんなことはないでしょう。
 
むしろクラシックピアノの演奏家に言わせると、クラシックの演奏では作曲家の意図を再現することが最重要であって、弾き手の情感や即興は、最も抑制されるべきもの、だといいます。
 
それよりも事前の解釈やそれに基づく繊細なタッチ、音色、表現方法によって、いかに解釈した音楽を表現しきるか、が問われます。
 
昔のクラシックには、即興のパートが存在していました。
さらにジャズは、その制約を解き放ち、テーマになるフレーズのみ決めて、それ以外はジャズ的なフレーズとコード進行の即興の会話によってなりたっていきます。
チャーリー・パーカーやバド・パウエル、ビル・エヴァンスそしてマイルスらによってモダン・ジャズは進化してきました。
  
しかし、キースはそうした王道を踏まえながらも、弾く前に主題すら決まっていない状態で、しかもソロで演奏を開始する、という完全なる即興演奏のコンサートを行っていきます。 
 
そこで聴かれるフレーズは、いわゆるジャズ的なものとは感触が異なります。
 
さらに、一つ一つの音のタッチが、非常に繊細で、緊張感をはらんでいます。
 
ジャズは、ともすればトリオ演奏などでも、その場のノリとグルーヴが優先され、ひとつの音の繊細さ、はクラシック音楽と比べると、あまり重視されないことが多い。
 
その意味では、ビル・エヴァンス的な、音のタッチに対する繊細な感覚、という点が、ジャズ界の中では最もクラシック的、な要素ともいえるでしょう。
 
 
しかし、ではキースの演奏が、繊細イコール ロマンティックなのか叙情的なのか、と言われると、まったくそんな感じではないですね。 
 
むしろ張り詰めた空気が聞き手にも緊張感を与えるほどです。
 
キースのソロでは、テーマは決められていませんが、それは弾きながら探求されます。
 
たいてい冒頭は、探っていくところから始まります。
 
そしてテーマらしきものが発見されると、それがどんどん高められ、独特の熱を帯びたグルーヴを放ち、洪水のようにあふれるところまでいきます。
 
やがていくところまでいくと、急激にそれらはバラされます。
チャラにされてしまうのです。
 
そうしたすべてが、キースが何か神がかったものと対話をしているかのような、自らの中で培われたクラシックや王道の数々のジャズ音楽やそれ以外の民俗音楽などなど、すべてを放り込んだ混沌の中から、まるでガラス細工を取り出すようにつむぎだされます。
 
その音は、とても神秘的です。
 
知的で、とがって聞こえたりもします。
 
いわゆるロマンテックな甘い感じはありません。
 
都会的と表現されることもあります。
 
とても孤独感を感じさせることもあります。
 
まるで暗闇の中で、鳴り響いているように聞こえたりします。
 
静寂よりも静寂を感じさせたりします。
  
それらの対話は、本人もいっている通り、過去のジャズ的なフレーズを、避けることを旨としています。
 
あくまでも即興の中で、自然に降ってくる音をとらえて、鳴らしているといいます。
 
まるで真っ暗な中に、宇宙的な広がりを感じさせる音世界が広がる様は、いわゆる癒しの音楽とは180度違って似て非なるものです。 
 
 
本作「ケルン・コンサート」は、そのような神がかった演奏の最たる作品です。
 
クラシック的な和声から民族的なリズムまで、感傷の手前で、クールに抑制されながら繰り出される音の洪水とすきまの静寂。
 
不思議なのは、だれも聞いたことのないはずのこの即興演奏に、どこかしっくりくるような、なつかしいような、親しみを覚えること。
 
そんなふうに、知性と情熱、神秘と懐かしさ、ジャズらしさとそうでないもの間で、ジャンルの壁を軽く越えつつ、ジャズ的なものの本質をとことん探究する冷たい情熱、それこそがキース・ジャレットの音楽がいつまでもみずみずしくて、魅力的で、色あせない理由でしょう。
 
本作はとっても奥が深くて神秘的でいながら、とても感性に訴える作品なので、これからジャズを聴いてみたいと思う初心者にもうってつけだと思います。
初心者向けでかつ超本格的、という意味ではビル・エヴァンスの「ワルツ・フォー・デビー」と並ぶんでしょう。 
 
実際私も昔、いくつも名盤といわれるレコードを聴いても、なかなかジャズのよさを理解できず、入り込めなかった頃に、この「ケルン・コンサート」とビル・エヴァンスの「ワルツ・フォー・デヴィー」を聴いて、ジャズのよさを理解できるようになり、そこから色々なジャズの面白さに入ってゆくようになりました。
  
 
真っ暗にした夜の部屋で、一人でお酒でも飲みながら流してみてください。
できればカーテンを開けて星空が見えるといいですね。
 
まあ、ロックファンにもアピールするジャンルを越えた名盤中の名盤です。
 

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ヨーロピアン・ジャズ・トリオ「哀愁のヨーロッパ」

2008-04-12 22:22:11 | jazz
哀愁のヨーロッパ 哀愁のヨーロッパ
価格:¥ 2,800(税込)
発売日:2000-11-22
Europian Jazz Trio 「Europa」2000年
ヨーロピアン・ジャズ・トリオ「哀愁のヨーロッパ」

1. Europa
2. Zingaro
3. Maria (West Side Story)
4. Thank You For The Music
5.Concierto De Aranjuez
6. Both Sides Now
7. Phase Dance
8. Tell Him
9. Blackbird
10. Tears In heaven
11. I Say A Little Prayer
12. What A Wonderful World
 
 
Marc Van Roon(P), Frans Van Der Hoeven(B), Roy Dackus(Ds), Guest: Jesse Van Ruller(G)
 
 
今回はジャズを聴き始めの方にも、とても入りやすい、かつ現役のジャズトリオを紹介したい。
 
 
ヨーロピアンジャズトリオのアルバムの最大の特徴は、なんといってもそのレパートリーの多彩さだ。特に、クラシック音楽をジャズ化して聴かせることを得意にしてきた。そして、本アルバムでは、さらにロック、ポップスまでレパートリーを広げて見せた。
本作では同郷オランダの若手ギタリスト、ジェシ・ヴァン・ルーラーが参加し、アルバムの特徴をなしている。
 
  
EJTは結成1984年、結構ベテラン。
1995年ピアニストがカレル・ボエリーから現在のマーク・ヴァン・ローンに交代、2人ともビル・エヴァンスから影響をうけた音楽性をもつことから違和感はなく、むしろマークは本格的にクラシックを学んだピアニストであり、クラシックの本格的なレパートリーも増やしつつ、さらにフュージョンやポップスにも精通しており、さらに柔軟なレパートリーとなった。
 
 
いきなり1曲目でサンタナの「哀愁のヨーロッパ」で、このトリオにしては濃い感じだが、やがていつも通りの安定した上質な料理が始まる。
 
2曲目はアントニオ・カルロス・ジョビンの「白と黒の肖像」、3曲めはウエストサイドストーリーのバラード「マリア」、4曲目はABBA「Thank you for the music」、5曲目はご存知アランフェス協奏曲、6曲目はジョニ・ミッチェル「青春の光と陰」、7曲目は1978年のパットメセニーとラメル・メイズの「フェイズ・ダンス」、8曲目は大プロデューサー、デヴィッド・フォスター、9曲目はビートルズ、10曲目はクラプトン、12曲目はルイ・アームストロング。
 
と、とりわけこのアルバムはおなじみの曲が揃っている。
 
ヨーロピアン・ジャズ・トリオのことを、よく没個性的、ということがある。
特にかなりのジャズマニアにそういう評価がある。
 
しかし私は断然、彼らのファンだ。
特に、「幻惑のアダージョ」を初めとするクラシックを扱った作品を聴けばわかりやすいが、抑制された演奏に込められた誠実で安定した演奏からジワジワとにじみ出す気品と格調が、ジャズという音楽の、ひとつの本質を捉えていると思うからだ。
 
ピアノのマーク・ヴァン・ローンは、クラシックを学び、ジャズに入ってからはビル・エヴァンスに影響を受け、エヴァンスのフォロワーとしての第一人者リッチー・バイラークに指示していたくらいだ。当然そのプレイは抑制されつつ、リリカルなヨーロピアンな格調を湛えている。さらに彼自身の個性として、耽美的な哀愁を感じさせる。
 
 
かれらのジャズは、楽しさに満ちている。ジャズという音楽を、彼ら自身がとても楽しんでいるように感じる。そして丁寧な演奏が、徐々に熱を帯びて、地味かもしれないが、クラシックなり、ポップスなり、そしてジャズのそれぞれのすばらしさを、楽しさの中で、あらためて感じさせてくれる。そして彼ら自身が、そのことをとても意識している、と感じられるところ、それこそが、彼らの誠実さであり、一番の魅力ではないだろうか。
 
とりたてて演奏者自身の個性をアピールしようとはしない。
あくまでも確実に音楽に、ジャズに徹する。
クラシックに徹し、ポップスの良さをジャズの上で楽しむ。
 
彼らの来日公演を、かつしかシンフォニーヒルズでみたことがある。
音のセッティングがよろしくない環境だったが、やはり彼ら自身から楽しさと誠実さが伝わってくる、とても心地の良いコンサートだった。
 
そう、彼らのジャズはとても心地がよい。
良い意味でBGM、それも朝にぴったりのジャズ。
結局、ヘビーローション、家にお客さんを招いたときの定番です。
 
このアルバムに限らず、彼らのアルバムはどれも安定した良さがあるので、他の企画盤もおすすめです。

ブラッド・メルドー「ジ・アート・オブ・トリオ, Vol.3」

2008-02-10 23:40:33 | jazz

The Art Of The Trio, Vol. 3 The Art Of The Trio, Vol. 3
価格:¥ 2,086(税込)
発売日:1998-09-08
Brad Mehldau「Songs/The Art Of The Trio, Vol. 3」1998US
ブラッド・メルドー「ジ・アート・オブ・トリオ, Vol.3」

  
1. Song-Song
2. Unrequited
3. Bewitched, Bothered and Bewildered
4. Exit Music (For a Film)
5. At a Loss
6. Convalescent
7. For All We Know
8. River Man
9. Young at Heart
10. Sehnsucht
 
(Piano)Brad Mehldau(Bass)Larry Grenadier(drum)Jorge Rossy
 

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現在進行形のジャズピアニストとしては、世界の先頭を走るブラッド・メルドーを紹介。
 
ピアニスト、ブラッド・メルドーは1970年8月23日フロリダ生まれ。
1998年5月27・28日ニューヨーク・ライトトラック・スタジオにて録音。
本作はブラッド・メルドー5枚目のアルバム。
  
彼が一躍脚光を浴びたのはメジャー契約のきっかけとなったジョシュア・レッドマンとの競演もさることながら、何と言っても3rdアルバムから始まる「The art of trio」としての連作だ。特にはじめの3作、つまりVol.1から3で世界的な評価を決定的にしてしまったと言えるだろう。
 
はじめは新人ピアニストが、えらくたいそうなトリオ名を付けて大きく出たな、いきがってるのか、位の見方もあったと思うが、そこで集めた注目が全く口先ではなかったことを世界に証明し、注目をそのまま絶賛に変えてしまうどころか、その唯一無二な個性で、あれよあれよという間に今を代表するピアニストとしての地位を確立してしまった。

The art of trioとしての3作目である本作で、一つの頂点まで極めてしまった感さえある内容になっている。
  
  
ブラッド・メルドーの魅力は、その個性的なスタイルにある。まず自身が語るようにクラシックの技術、音の影響と要素が大きく感じられる点である。その点、キース・ジャレットに通じる、ソロとしてクラシックばりに大変手数の多い音を弾きこなす超絶技巧をベースとして持ち合わせている。
  
左右両手で独立したメロディラインを激しく両手を交錯させながら、あくまでも冷静に、音の芸術世界にストイックに奉仕しているかのような姿勢、そこから感じられるのは知性。そのスタイルからは、大きく分ければビル・エバンス、キース・ジャレットあたりに通じるものがあるにはあるが、メルドーはその巨匠2人ともどこか違う味をもっている。
 
やや複雑なメロディがガラスのように繊細で、哀愁というよりも知的な陰鬱さと美しさと時に熱を帯びる旋律、それでいながらクラシカルな格調を感じさせつつ、それだけに留まらない知的な節回しと構成。独自の美学と誰にも似ていない音からにじみ出る信念と自信。それこそがメルドーをメルドーたらしめているものであり、もはや世間もそれを認めざるを得ない域に達してしまったと言うことだろう。チックコリアやパット・メセニー、チャールズ・ロイド、ジョンスコにマイケル・ブレッカーにチャーリー・ヘイデンまで、ビッグネームからの競演依頼も殺到。数年前にソロで来日した際には錦糸町のすみだトリニティホールでその勇姿を拝見したのだが、ほとんどクラシックかケルンコンサートか、キース・ジャレットの他に、あのレベルの即興ソロと世界観を表現できる材が登場しようとは!
   
本アルバムの白眉は3のBewitchedと4のExit Music。
4は言わずとしれたRedioheadのOKコンピューター収録の名曲。この曲を、これ以上ないほどの世界で表現しきっている。まさに、この曲の表現に象徴されるものが、メルドーを現在に生きる、最前線の、ジャンルを超えた音楽家、表現者たらしめているものだと言える。かれの知性とその憂鬱、一筋縄ではいかない複雑な精神性、まさしく今という時代を共に生きるものとしての表現の模索、求道者であり、その音楽と向き合う姿勢と誠実さには、敬意と注目をひかれずにはいられないはずだ。
 メルドーは2002年発表の「Largo」でもRedioheadの「Paranoid Android」を聴かせてくれている。
 他にもビートルズのDear Prudenceやノルウェイの森を始め、たくさんのカバー曲を聴かせてくれるが、それらを見事にメルドーの世界感で聴かせてしまうのだ。もはやここまで来ると、その世界観に浸っている内に、ジャズなのかロックなのかジャンルは全く関係なくなってしまう。
   
彼の中のまさに、この今を生きる作家としての要素が、この後のアルバムや活動の中では、比重として大きくなってゆくのだが、このトリオ3作目では、ある意味初々しく美しいクラシカルで正統なジャズと、メルドーの複雑な個性の芽生えが、ちょうど良いバランスで共存している傑作と言うことが出来るだろう。
 
同時代を生きる若き巨星に注目していきたい。


カサンドラ・ウィルソン「ニュー・ムーン・ドーター1996年US

2007-12-24 19:48:31 | jazz

New Moon Daughter New Moon Daughter
価格:¥ 1,342(税込)
発売日:1996-03-05
「New Moon Daughter」 Cassandra Wilson 1996US
  
1. Strange Fruit
2. Love Is Blindness
3. Solomon Sang
4. Death Letter
5. Skylark
6. Find Him
7. I'm So Lonesame I Could Cry
8. Last Train To Clarksville
9. Until
10. A Little Warm Death
11. Memphis
12. Harvest Moon
13. Moon River

  
Cassandra Wilson(Vo), Brandon Ross(G), Kevin Breit(G), Lonnie Plaxico(B), Dougie Bowne(Per), Gary Breit(Org), Tony Cedras(Accordian), Graham Haynes(Cor), Lawrence "Butch" Morris(Cor), Gib Wharton((Pedal Steel), Chris Whistley(G), etc
  

少し間が開きました。師走は忙しくて。
クリスマスイヴということでジャズを一枚。
  
カサンドラ・ウィルソン、ブルーノートに移籍しての2作目。
  
1955年生まれで今年でもう52歳です。
93年、38歳の時にブルーノートに移籍してからの印象が強いのでそんなに年だとは思わなかった。移籍1枚目もジャズ界の賞を総なめにしましたが、2枚目がやはりグラミー賞最優秀ヴォーカル賞、スイングジャーナル誌ディスク大賞ヴォーカル賞受賞、同誌90年代の最優秀アルバムに選ばれるなど本作で頂点を極めた感があります。
  
ダイアン・リーヴス、ダイアン・シューアと共に女性ジャズ・ヴォーカリストの“新御三家"と言われてた頃もありましたが、今の女性ジャズボーカルではダイアナクラールと人気を二分する感じでしょうか。何かの映画にも出てましたね。ジャケットより結構太めでした!?
  
それだけ評価と人気を集めた本作ですが、内容は全然ポップでもキャッチーでもない。
どころかとてつもなく重くて暗い、けど深い深い慈愛に満ちた母性的なもので包まれています。
  
もともとジャンルを超えてジョニ・ミッチェルやロバータ・フラックなんかをレパートリーにしていただけあって、本作もボーダレスな内容で、ジャズにとらわれず、ロックファンにもアピールする内容になってます。というかそういうレベルを超えてます。はっきりいってここまで黒くて暗くて魂のこもった、それでいて危なく鋭く現代的な音楽にはそうそう巡り会えないです。レディオヘッドとかのファンにも是非聞いてもらいたい。
  
まあ1曲目から「奇妙な果実」。
そして2曲目がアルバム中のベストトラックといっていいU2の「POP」に収録の「Love is blindness」。これで完全にノックアウトされます。完全に彼女の歌になっているし、こんなに深い歌だったかと思い知らされます。またU2のバージョンを聞き直してしまいます。
  
深くブルージーでどっしりしていて、その辺のジャズシンガーもどきが懸命に低い声で凄んでみても何か作り物っぽい感じでどうも、っていうところで彼女の歌を聴けば本物はこれだ、って唸らされます。本物の低音が聞きたいなら、それはここにはあります。
  
彼女のブレイクでボーダレスなジャズボーカルの新時代が始まった感もあるし、どこか都会的な冷たさを含んだ彼女のテイストが、いかにも古典的なジャズボーカルと一線を画し90年代以降の現代人の憂鬱をパーソナルなテイストで映し出している感じがします。その意味ではロック界の流れ、グランジやレディオヘッドなんかの動きとシンクロしているところがあるように思います。どちらかというとR&Bの方に近い感じもしますが、ノラ・ジョーンズのようなパーソナルな感じのボーカリストが出てくる土壌は彼女が作ったといっても言い過ぎじゃないでしょう。もともとジョニ・ミッチェルとかボブ・ディランとかフォークの影響が強いところからも起因しているものがあるのかもしれません。
  
12曲目はニール・ヤングです。13曲目はスタンダードのムーン・リヴァーです。とにかく黒い。ロックファンでまだ聞いてない方、是非おすすめです。