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Rock Climber 洋楽レビュー

Rock、HM/HR、Alternative、Jazz、ラーメン

フランツ・フェルディナンド

2010-03-07 14:21:32 | ブリティッシュロック

Tonight Tonight
価格:¥ 1,437(税込)
発売日:2009-01-27
Franz Ferdinand/フランツ・フェルディナンド

「Tonight/トゥナイト」 2009UK
      
1. Ulysses
2. Turn It On
3. No You Girls
4. Send Him Away
5. Twilight Omens
6. Bite Hard
7. What She Came For
8. Live Alone
9. Can't Stop Feeling
10. Lucid Dreams(New Album Version)
11. Dream Again
12. Katherine Kiss Me
13. Lucid Dreams
14. Ulysses (The Disco Bloodbath effect)
15. Feeling Kind Of Anxious (Ulysses dub mix)

 

アレクサンダー・カプラノス(Vo,G,Key)
ニコラス・マッカーシー(G,Key,Cho)
ロバート・ハーディ(B)
ポール・トムソン(Dr.G)

 
グランジの狂騒の後でレディオヘッドがすべてのロックを葬り去ってしまったアルバム、KID A。おそろしくロックを突き放し、覚めた目でロックを眺め、その目線の冷徹さに真摯でつらい本当のロック的な戦いや葛藤があることを世に知らしめてしまったアルバムでした。そして、それ以降のバンドは皆、何故ロックという音楽で、今その音を鳴らすのか、どんな意味があるというのか、真にそれはロックだと言えるのか、が問われることになりました。
 
2000年に入ってからのポスト・パンク/リヴァイバルでは、過去の遺産と新しいエレクロニカやダンスミュージックを組み合わせながら、どれだけ音を客体視できたか、自らのコンセプトのもとで音を客観的に意図的に扱えたのか、そこに必然的なコンセプトが幸せな結実を見たのか、そんなことが時代を生き残るか否かの音の境目になってゆきました。
 
ホワイトストライプスが魅力的なのは、みんなが好きなクラシックなロックやブルースのパーツをどう料理してくるのか、何をしてくるのか、不敵で大胆なところ、つまり完全に音のパーツを、しかも深い深い歴史の重みと厚みをもった音のパーツを、自らの武器として完全にコントロール下においてしまっている(かのような)ところでしょう。
そこに凡百のリヴァイバルバンドとの天地の差があるのです。
 
で、フランツ・フェルディナンドです。
 
これは私的には完全にホワイトストライプス側だと思います。
しかもUKですからボウイからロキシーミュージックからトーキングヘッズ、ダンスからニューウェーブからエレクトロクラッシュ、ミニマルミュージックまで取り込んだ音になっています。
 
そして何よりも、彼らが音を自在に使いこなしている感が小憎らしい位とても鮮やかです。
 
1stアルバムは最高でした。
何も言うことはありません。
しかし2ndの方向性、あれで世間はすこし彼らを悪い方に誤解した人もいるかもしれません。買いかぶりすぎたか、と。
 
ポップで楽しくて最高なロックだというならあれでいいでしょう。
何も小難しいことを言わなくても。
 
でも彼らにもっと多くのことを望んだ人たちは、思ったはずです。
ちょっと彼らの評価を保留、と。
 
で、この3rd。
正解です。
期待の答えを出してくれました。
私的には圧倒的に支持します。
 
このアルバムを聴くと、2ndすら確信的だったんじゃないかとおもえてきます。
いつでも違うアルバムを作れるから、もう一枚こういうのつくらせてよ、と。
  
3rdでは向き合うべき音と格闘してくれました。
さらに新しい音とまで格闘しています。
期待以上でしょう。
 
これで彼らは、さらに多くの期待を担う、大きな存在になったといえるんじゃないでしょうか。
 
一気に時代を駆け上がった彼らですが、人気に踊らされず、しっかりと自己をみつめ、3rdにして早くも大きな分岐点を作り出した傑作です。さすが下積みが長いだけあります。

 


オアシス

2009-09-13 20:51:43 | ブリティッシュロック
Dig Out Your Soul Dig Out Your Soul
価格:¥ 2,037(税込)
発売日:2008-10-06

Oasis「Dig your own hole」2008年UK
 
オアシス「ディグ・ユア・オウン・ホール」

 
1 Bag It Up (04:40)
2 Turning (05:04)
3 Waiting For The Rapture (03:02)
4 Shock Of The Lightning (04:59)
5 I'm Outta Time (04:10)
6 Get Off Your High Horse Lady (04:06)
7 Falling Down (04:20)
8 To Be Where There's Life (04:35)
9 Ain't Got Nothin' (02:14)
10 Nature Of Reality (03:47)
11 Soldier On (04:50)
  
Liam Gallagher(G,Vo)
Gem Archer(G)
Andy Bell (B)
Chris Sharrock(Dr)
Noel Gallagher(Vo,G) 

結論から言うと、素晴らしい作品だと思います。
 
おそらくかなり多くの人と同じように、はじめの2作に狂喜し、聴いていた私も3rdアルバムを買って「ん?」となってからは、正直、聴かなくなってました。新譜がでれば必ず試聴はしましたが、だめでした。
 
いまだにこれを聴いていない、かつてのファンも多いのではないでしょうか。
 
そういう方に勧めます、これは傑作です。
 
  
 
勝因はプロデュースかと思います。
 
前作あたりからグルーブが感じられるようになってきていました。
 
これは周知の通りノエルがプロデュース、ソングライティングから手を引き、他のメンバーの曲、何よりプロデューサーのデイブ・サーディーへ主導権を渡すことによって、うまれたものでした。
 
しかしまだ前作のシングル、ライラも正直あまり好きではない、退屈に感じられました。
 
しかし本作では、オアシスらしさとグルーブ感がよみがえっている点がまったく違うように感じます。

曲の構成が、抑えたところからの爆発という、単純さ、カタルシスを存分に味合わせてくれるところが、これぞオアシス!です。
 
そこではリアム・ギャラがーのガナリあげるボーカルの良い点がよみがえっていて、まるで初期のオアシスのようです。 
 
 
 
そもそも彼らは、なぜ世界的に大ブレイクしたのでしょうか。
 
90年代前半から中盤という時代は、イギリスにおいては停滞した保守政治がブレアの労働党に変わる時期でした。
 
金融恐慌、つまりバブル崩壊以降、世界的に停滞した経済状況が、新しい時代の日の出を待ちわびているような社会世相でした。
 
 
さらにまったく停滞した80年代の英ロック界は米グランジ勢にのっとられた状態で、ストーンローゼスの残した幻が、カリスマの不在をさらに強めているような時代でした。
 
スウェードのような退廃的で刺激的な劇薬でなければ、効き目がないような、そんな時代でした。
 
そんな暗くよどんだ時代に、どんな新しい音楽が新しい時代を切り開くのか、皆頭を悩ませていました。
 
だれがイギリスの誇りを取り戻させてくれるのか、問題はそれでした。
  
 
そこへ登場したのが、オアシスでした。
 
何も難しいことはない、シンプルな鼻歌のような最高にキャッチーで突き抜けるようなメロディーを、力いっぱい、突き抜けるくらい歌いきって、ぶっちぎって、突き抜けてしまえばいい、誰にも押さえつけられはしない、だれの支配も受けない、新しい時代の王様はオレたちだ、俺たちのルールでガンガン行くだけだ。
 
ギャラガー兄弟の傲慢で不遜な態度と、豪快で痛快で明快なつきぬけたメロディーは、もやもやしていた我々に、停滞していた一般庶民階級、労働階級の我々のヒーローとして登場し、時代を射抜いたものでした。
 
 
そして何よりも、パンク的なマインドでありながら、多分にブリティッシュロックの伝統をそこかしこに感じさせる曲のテイストが、イギリスのプライドをくすぐるには十分でした。まさしくビートルズの再来、世界は再びイギリスにひれ伏す時代がきた、というわけです。
 
   
彼らの1stアルバム、2ndアルバムは世界的な規模で、ロックの歴史に偉大な1ページを刻みました。
 
ちょうどアメリカを1ヶ月くらい旅行中だった頃でしたので、アメリカの街のあちこちからどんなアメリカのバンドよりもオアシスが聞こえてきた事には驚きました。
 
何度も何度も耳にしました。
ああ、アメリカで実際売れたんだな、と実感しました。
 
96年のネブワーズでの野外ライブは、2日で25万人を集め、彼らのキャリアはピークに達しただけでなく、ビートルズ以来といわれたフィーバーは、ロックと社会にその歴史を刻みました。
 
イギリスだけではない、停滞した空気をぶち破るつきぬけた明快なメロディーと豪胆なロックのパワー。
 
グランジやへヴィロックなどのダークで負のパワーが満ち溢れていた時代に、同じ反骨・不遇からでてきながらもプラスの音楽、陽性のロックを感じさせるオアシスのメロディーは世界中の不満分子の共感を得まくりました。
 
あの規模で世界的にブレイクするアルバムには、必然性があるものです。 
 
 
ところが、ハングリーさ、抑圧された状態からの脱出を切望するが故の逆説としての王様、皆を引きずりまわすくらいに強引で単純なメロディーのアンセム、そういった猛烈なパワーみたいなものが、突然失われてしまいました。
 
彼らはとてつもなくビッグになりました。
 
鼻歌のような明快なメロディーは失われました。
 
切実な青春のアンセムは、生まれなくなりました。
 
 
人はそれを、マジックは終わった、と評しました。
 
ある意味では、彼らの役割は、一旦そこで終わったともいえるかもしれない。
 
 
 
しかし、時を経て、ようやく彼らは、こうして再び、傑作を作り出しました。
 
ようやく、といっていいでしょう。
 
もはや彼らが時代の中心で、社会の気分と完全にリンクして、中心になることはないのかもしれません。
 
しかし、あきらかに彼らは成長した姿で快作を作り上げました。
 
 
かつては、圧倒的なメロディーで、がなりつづけ、アルバムを通して聴くのが疲れるほどでした。
 
本作では、腰の低いリズム、後ノリのドラムが、ずっしりしたグルーブを刻みます。
 
はじめは抑えて入りながら、徐々に中盤あたりからトーンを上げてゆき、サビではかつてのオアシス節そのままにぶちかましてくれる、そんな曲が前半立て続けに繰り出されます。 
 
 
 
おお、と感激しつつ、よく考えると、昔よりもずっと考えられて作られている曲たち、であることに気づきます。
 
つまりオアシスとはなんだったのか、よーく考えて、そして作られた曲たちじゃないか、ということです。
 
さらにビートルズのテイストやら、サイケデリックな味付けやら、うまく配合してあります。
 
この辺が、プロデュースの勝利でしょうか。 
 
前作までは、良い曲ではあっても、オアシスじゃない、って感じでした。
 
ようやく新しい方向性とオアシスらしさ、がリンクした、という感じがします。
   
 
 
アルバム単位、曲を続けて聴いても疲れない、かつてよりも進化したとさえいえるのかもしれません。
 
というか音楽的には模索を繰り返し、進化しています。 
 
リアムの敬愛するジョン・レノン的な曲も健在です。 
 
 
6曲目以降は、ややトーンダウンしますが、かつてノエルが、1stの曲を全部アルバムに入れずに、とっておけばよかったんだ、というようなことを言っていましたので、もしかすると、再びオアシスの魅力を発揮する方法論みたいなものを手に入れた今、いい曲は半分にしておこうなんて、もったいぶったのか、と思いたくもなりました。
 
 
しかし、8月末、ついにノエル自身の口から、オアシス脱退表明ですか。。。ほんとうでしょうか。
  
わからないでもないタイミングではあります。
 
3rd以降の巻き返しに取り組んできた彼らが、ひとつの成果を得た作品にたどり着いた、本作「Dig your own hole」は、そういえる作品ですから。
 
第二期?のオアシスにできることは、やった、と思えても仕方がないのかもしれない。
 
 
もともとノエルとリアムは別々のバンドをやっていたくらいで、ノエル無しで、これからのオアシスが曲作りもプロデュースもやってゆくほうがオアシスらしさを取り戻せるなら、ノエルは新しい道を探して、袂をわかっても、仕方がないのかもしれないですね。
  
 
90年代の激動を共にすごした身としては、切ない時代の移り変わりに、しみじみとしてしまいつつ、ブラーも復活するようですし、デーモンもゴリラズでブラーとは違う成功を手にしたりしたわけだし、何があるかわからないわけで。今後の彼らからやっぱり目が離せません。
 
そんな訳で、1stや2ndとはまた違うにしても、ある意味あの2枚に勝るとも劣らない傑作、是非聞かず嫌いで聴いてない方、お勧めします。


マニック・ストリート・プリーチャーズ

2009-04-14 23:42:02 | ブリティッシュロック
ジェネレーション・テロリスト ジェネレーション・テロリスト
価格:¥ 1,785(税込)
発売日:1998-09-09

Manic Street Preachers「GENERATION TERRORISTS」1992年UK
マニック・ストリート・プリーチャーズ「ジェネレーション・テロリスト」
 
1. SLASH N' BURN
2. NAT WEST-BARCLAYS-MIDLANDS-LLOYDS
3. BORN TO END
4. MOTORCYCLE EMPTINESS
5. YOU LOVE US
6. LOVE'S SWEET EXILE
7. LITTLE BABY NOTHING
8. REPEAT (STARS AND STRIPES)
9. TENNESSEE
10. ANOTHER INVENTED DISEASE
11. STAY BEAUTIFUL
12. SO DEAD
13. REPEAT (UK)
14. SPECTATORS OF SUICIDE
15. DAMN DOG
16. CRUCIFIX KISS
17. METHADONE PRETTY
18. CONDEMNED TO ROCK 'N' ROLL
19. MOTOWN JUNK
 
James Dean Bradfield (Vo,G)
Nicky Wire (B)
Sean Moore (Dr) 
Richey James Edwards (G)

マニックスの1stアルバムは、いろんな意味で青春です。
いつ聴いても色あせない、むしろ歳をとるほどグッとくる何かを訴えかけてきます。
 
このアルバムの前のデビューEPには、本作に収録されなかったMotown Junk、収録されたYou love us、Stay beautifulの3曲が、かなりパンクなノリで収録されています。(下のYouTubeはパンク版です) 
今聴くとかなりかっこよく、別のバンドのようです。ギターがかなりかっこいいし目立っていますね。
  
2枚組みアルバムで1位をとって解散するとか、相手にしない記者の前で腕に4realと刻んだ事件とか91-2年というおもいっきりストーンローゼスに象徴されるレイヴ・カルチャーのサイケでドリーミーでダンスなロックが全盛なイギリスロック界において、果敢に時代遅れなパンクでロックな出で立ちで立ち向かおうとしたそのアティチュードがバカみたいで子供じみて青春でロックでした。
 
EPがパンキッシュだったこともあって、結構期待されたのにふたを開けると、当時確立された売れ線のハードロックノリで音が固められていたために、大衆路線できたか、と失望されたのか、イギリスでは13位止まりとまったく振るいませんでしたが、ハードロックが人気のイギリス以外では日本も含めて結構うけました。
  
なんだかんだいって僕もかなりコレ聴いてましたから、いまでもこのアルバムの曲は体にしみこんでいます。
 
ほとんど全ての曲がシングルになりそうなドキャッチーさです。
 
デビューEPの2曲ももちろんいいです。
なぜかパブリック・エネミー絡みのRepeatは異色に映りますが、彼らのパンクでHIPで主張する当時のスタンスをあらわしてます。
 
しかし出色はMotorcycle Emptinessでしょう。
なんともいえない青春の日々がよみがえるような胸にぐっとくる切ないナンバーです。 
 
その後の彼らは3rdの"The Holy Bible"から音楽性をぐっと大人路線にシフトして、ギターのリッチーが失踪した後の4th" everything must go"も、何ともいえない深い大人な名盤だし、5枚目の"This Is My Truth Tell Me Yours" は
さらにクオリティがあがって素晴らしいアルバムです。セールス的にも100万枚近く売るようになって、いまではイギリスの国民的バンドと言われるくらいになってしまいました。
 
しかしそれも、このデビュー当時の、青春の格闘とつっぱしる感じがあったからこそ、であることは間違いないです。
 
彼らの今のクオリティの、大人な深さはこの初期を踏まえているからこその深さに他なりません。
 
それに彼らの最大の魅力のひとつである曲の気持ちよさ、ロマンティックなメロディーとギターのライン、はすでに1stの時点で全開になっています。それは今でもキモの部分は変わっていません。
音のフォーマットやクオリティがあがっただけで、大切なことは変わっていない気がします。
 
ばかな若造め、と鼻で笑い捨てられそうになりながら、じゃあお前にどれだけの覚悟があるんだと問いかけるような大切な何かを持った若造が、大切な戦いの果てに、笑っていた大人よりももっともっと深い大人になった、なんて感動的な話じゃないですか。
ロック以外の何者でもない生き様です。
そんな訳で、4thアルバムや5thアルバムなどの傑作をおいて置いても、このアルバムを名盤としてあげておきたいと思います。
  
  
"Motown Junk"
パンキッシュです。この路線で1stを作っていたらどうなったか。 
 

<script type="text/javascript"></script>

 
ジェームスやせていて別人のようですね。
なぜか日本ロケ。パチンコ屋さんとお台場。
 
"Motorcycle Emptiness"

<script type="text/javascript"></script>

Coldplay

2008-11-10 23:35:05 | ブリティッシュロック
Parachutes Parachutes
価格:¥ 1,994(税込)
発売日:2000-06-29

Coldplay「Parachutes」2000年UK
コールドプレイ「パラシューツ」
 
1.Don't Panic
2.Shiver
3.Spies
4.Sparks
5.Yellow
6.Trouble
7.Parachutes
8.High Speed
9.We Never Change
10.Everything's Not Lost~Life Is For Living(secret track)
11.Careful Where You Stand
12.For You
 
Will Champion(Dr)
Guy Berryman(B)
Chris Martin(Vo,G,Piano)
Jonny Buckland(G)

  TREview  

出したアルバムの4枚全てが1000万枚を超えるような世界規模のメガヒットを連発し、今やモンスターバンドになってしまった彼ら。
 
しかし私がこの1stアルバムを聴いたのは、このデビュー作の日本盤が出て、すこし話題になっていたくらいの頃だ。このときは、正直、全く何て情緒的で弱々しく力無い音なんだろう、と感じ、私の中に留まることはなかった。ちょうどその頃か少し前にはやったアメリカの超叙情派カントリーテイストのカウンティングクロウズとか、その辺りの流れに響いた向きか、とくくってしまった。
 
そんなわけで2ndはパスしてしまった。
 
そして2006年の3rdアルバム、X&Yがでた。街中から流れてきたその歌声を聴いたとき、私は完全にU2の新譜だと思ってしまった。うたいあげる時に伸ばされる声の響きはボノに酷似していた。しかし最近のボノと比べると、やけに丁寧で繊細だな、と。それがあの暗い暗いコールドプレイだとわかって驚いた。そんなバンドだったっけ?!
 
元の印象が相当暗かったせいで、X&Yはかなりポジティブになった印象を受けた。
つまり弱々しくて、後ろ向きで、ネガティヴな連中が、力強さと前向きさをつかみ取ったんだな、知らない間に、色々な葛藤を乗り越えて、勝ち取ったんだな、そんな風に私は受け止めた。
 
1stでは聴かれなかったようなテクノ的ビート感、まるでZooropa~Pop期のU2のような、あるいは後期のピンクフロイドやDepesh mode、最近ではMuseのようなスペイシーで大きな空間の使い方、その方法論自体に、彼らが前向きさとパワーと自信を勝ち得たことを感じた。
 
基本的に、ロックというものは、精神の闇や、挫折や葛藤、弱さや苦しみ、そんなものから始まるし、そこをどれだけ踏まえた音が鳴らされているかどうか、ということはかなり重要な要素になっている、と私は思う。それがどんな類いの苦しみなのか、どんな希望を抱くのか、そこに時代による違いや共通点が宿るものだ。
 
 
そんな意味で、Coldplayのアルバムごとの遍歴には、私には好意的な精神的音楽遍歴が感じられた。X&Yを聴いて、ちょっとあらためて彼らのアルバムを聞き直してみよう、と思ったのだ。
 
そして、あらためて聴いた、この「パラシューツ」。
申し訳ない、というか情けない。
こんなに良いアルバムだったのか。
先入観というか、あやうく見過ごしてしまうところだった。
 
2ndの「A Rush of Blood to the Head(静寂の世界)」も良いが、今の私には1stの方が、断然響く。
 
と言うわけで、Parachutes、やっぱり暗いことは暗い。
しかし、X&Yを通過した耳で聞くと、全く違う表情を見せてくれた。
消え入りそうなファルセットの裏声、9割の悲観と自虐の中に、確かに1割ほどの、希望と願いをこめた、弱々しくも美しい光のようなものが横たわっている。
 
この1stアルバムの魅力のひとつは、その悲観の”率直さ”だろう。
等身大の、生々しい絶望や悲しみが、自分の言葉でつづられていて、とてもパーソナルな感触をあたえる。これだけ個人的な内面的な感情、それも陰の側面をさらけ出すこと、それを伝えられることは、なかなか力量がいることだ。音楽的にも人間力的にも。
 
たいがいは、ありきたりな音楽的プロトタイプ、ありがちな形にあてはめて、自分の本当の感情をそのまんまはすくい取れない、音楽として表現しきれないものだ。 
 
というわけで、彼らの魅力のもうひとつは、細かな感情のひだを、うつくしいメロディーに変えてしまうソングライティングの能力だ。
 
かれらのメロディーの魅力を語るときに、その時代的普遍性を言われることがある。しかし、彼らの音からは、U2やDepeshに代表される英国ニューウェーブ勢の成熟と、REMやレディオヘッドなどのグランジ以降のギターロックからの影響が感じられる。その意味では、きわめて現代的なサウンドなのだ。普遍的に感じさせるほど、ナチュラルにメロディがこなれているということだろう。そして、それだけ広く視野を広げた感受性のキャパシティが、かれらを英国というワクにはまらないスケールの大きな同時代性を勝ち得たのだろう。
 
この点では、アルバムを重ねるごとに、彼らは大いに大英帝国の先輩達の遺産を引き継いでいく。しかし、この1stアルバムでは、まだまだ弱々しく悲愴な、スタートしたばかりの繊細な楽曲に、オリジナリティが感じられる。 
 
9割の悲観と1割の希望、そんな気分が、今の私にはとてもしっくりくる。
 
彼らの歩みは、その逆。
ありのままの自分たちを歌った1st、自分達の姿を突き詰めて、そぎ落としてゆく過程がソリッドな音になった2nd、そして全部かかえて力強く歩み始めた3rd、まるで今までの3作が遠い過去の話であるかのような普遍的なメロディーを奏で始めた最新作。きわめて個人的な歌の昇華が、メロディーの力を借りて普遍性をもつことを、メガヒットを連発することで証明してしまった彼ら。
 
一作ずつ成長してゆく姿を、ありのままみせてくれている彼ら。
一貫してすばらしいソングライティング力ゆえに、豊かな表現力で、雄弁に伝わるメロディーをかける彼ら。ふとした瞬間に、偉大な先輩を彷彿とさせる側面は、我々の耳を引きつける。
 
次はどんな一歩を踏み出してゆくのか、ずっと、その真摯な歩みを、我々に見せて欲しい。
 
もしも最近の彼らのポップな魅力だけをみている方は、ぜひこの1stアルバムを聴いてみて欲しい。彼らの本質は、ここにあるのだと思う。すばらしいメロディーや、アレンジで、逆に見えにくくなってしまっているかもしれない。
 
ひりひりするくらい、ぎりぎりの、繊細な、暗い魂のさまよい、そこから始まる旅路。

名盤です。

 

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by TREview


プライマルスクリーム

2008-09-15 01:56:27 | ブリティッシュロック
XTRMNTR XTRMNTR
価格:¥ 1,361(税込)
発売日:2000-02-02

 
Primal Scream 「Xtrmntr」2000年UK
プライマルスクリーム「エクスターミネーター」
 
 
1 Kill All Hippies (04:57)
2 Accelerator (03:41)
3 Exterminator (05:49)
4 Swastika Eyes (Jagz Kooner Mix) (07:05)
5 Pills (04:17)
6 Blood Money (07:03)
7 Keep Your Dreams (05:24)
8 Insect Royalty (03:35)
9 Mbv Arkestra (If They Move Kill Em) (06:41)
10 Swastika Eyes (Chemical Brothers Mix) (06:33)
11 Shoot Speed/Kill Light (05:19)

 
Bobby Gillespie(Vo)
Robert Young(G)
Andrew Innes(G)
Martin Duffy(Key)
Gary"Mani"Mounfield(b)
+
Kevin Shields(Mixing)


プライマルスクリームというバンドは、同時代を生きる伝説です。
 
もしも仮に自分がバンドをやるとして、かつ才能があったなら、彼らのような音楽性、道をたどりたい、彼らのようでありたい、と妄想したりします。
その面において、僕はどのバンドよりも圧倒的に共感を覚えます。
 
 
ぼくは彼らのことを、こう理解しています。
スコットランドのグラスゴー近郊のスプリングバーン、という街で、労働組合のリーダーをしていた彼の父親の影響からでしょうか、ボビー・ギレスビーには、同時代の社会を生きる者としての、社会的な問題意識が強く働いていると思っています。
 
考え方の根っこに社会主義的な影響はあるかと思われます。社会の現場にある我々と、感覚を共にし、わかちあい、それを同時代の音として、代弁者として鳴らしたい、そう心底願っている、そういう問題意識が、潜在的にある気がします。
 
そしてもう一つ重要なことは、ボビー・ギレスビーという人は超超超偏執的に音楽ジャンキーということです。薬の方のジャンキーでなくなった今でも、音楽に対しては変わらずジャンキーです。この偏執ぶりが、他のどのアーティストよりも図抜けた徹底ぶりだという点で、傑出しているのだと思います。
 
 
1980年後半、DJ達によってファンクを初めとするブラックでハウスなダンスサウンド「アシッドハウス」が英国にもたらされ、それがユースカルチャーとして、ドラッグ”エクスタシー”によるトリップ感覚を伴った「レイヴ」という名のムーブメントになりました。
 
ストーンローゼスの項でも述べましたが、それダンス、ハウス、ドラッグ、と集団的連帯感、がロックとリンクしてゆくことによって、ロックが生き返ってゆく様、いわゆるマッドチェスター現象をまのあたりにしたギレスビーは、ほんの少し時期的にも遅れ、少し離れた地方からそれらを見ることが出来たために、それを過不足なくすくい取って、音に変えることに成功しました。
 
それが91年の「スクリーマデリカ」でした。
それが歴史的な一枚になったのは、彼が本物の音楽ジャンキーだったから、彼自身が音にどっぷりと浸りきる張本人でなければ、あんな音は出せるはずもありません。
 
 
つまり、常に彼の中に、「音楽ジャンキー」であり、つねに音楽に偏執的にこだわりつつおぼれていたい、という想いと、「時代の音を鳴らしたい、時代と共にありたい」という2つの想いが交錯している、のだと思っています。
 
 
正直言って、「スクリーマデリカ」については、個人的には後追いです。
91年当時は反応できていませんでした。
しかも聴いた後でも、ドラッグをやらない身としては、100%リアルに体験した、体感したとは言えないと感じています。
つまり「時代性」という意味では、スクリーマデリカを聴いたときはすでに、その革新的な音は、多くのフォロワーによって踏襲されまくった後でしたので、あまりにも典型的な英国的ロックアンセムの数々は、ここから始まったのか、という感慨だけがありました。
 
しかし音のジャンキーっぷり、には圧倒されました。
英国的アンセムは数あれど、ここまでどっぷりとロックという音の世界に、浸りきっている、その覚悟のようなものは、他では出会ったことのないものだったことは間違いありませんでした。心の底から、一身をなげうって、ロックという音のドラッグに身を投げ出して、私利私欲を捨てて、同時代を生きる者のアイコンになろう、というまるで政治的な闘士にも似たような覚悟、を感じました。
 
まるで70年代か、というほどの長尺のリフレインは、ロックがロックらしかった時代の郷愁と共に、本気で、今の時代にこの音を鳴らそうとしている奴がいる、という感激がありました。
この”覚悟”こそが、彼らを時代の寵児たらしめているものだと、私は考えています。
 
 
彼らは時にカメレオンのように音楽性を変える、といわれることがしばしばあります。しかし、もしも彼らが、後付けで時代の気分を音に変えるだけの、器用で作為的なだけの戦略家だったとしたら、これだけ共感をえることはなかったはずです。
 
かれには、時代を生きる覚悟、と音楽へのあくなき偏執愛がある、それが彼の音楽的変節の後ろにあるので、だまってファンは彼の後をついてくるのだと思います。
 
 
4枚目のGive Out But Don't Give Up(94年)も、9枚目のRiot City Blues(06年)も、ロックにダイナミズムを取り戻させたファンクサウンド、R&B、ストーンズそのものに立ち返ってみよう、ということで理解できます。
 
復活作と言われた97年のVanishing Pointにしても、ダヴという音を通して時代とシンクロしようとしたことの現れとして、とても自然な感情の流れだと受け止めることが出来ると思います。
 
 
そして、この「エクスターミネーター(2000年)」が、今のところ私の中で、最も共感できるアルバムです。
 
今までの彼らの実験的な要素、がすべて自然に詰め込まれている”充実感”をすごく感じることが出来るからです。
ファンクで、ハードコアで、エレクトロで、かつ完全にトリップしています。
さらに、フリージャズまで混ざっています。
 
つまりこれは、”Higher than the sun”であり、”Rocks”であり、”コワルスキー”でありつつ、さらに新たな領域に踏み込んでいる、という完全なる集大成的な内容です。
エレクトロでダヴなサウンドも、前作よりもはるかに自分たちのモノにしてしまっていると思います。ダヴという音に引っ張られている感が完全に消え、支配権が完璧に逆転している感があります。この時点でようやく、現代の音で、スクリーマデリカ級の域に再到達しようとしている、のだと思います。やはり、スクリーマデリカは、彼らの中でも、相対視せざるおえない巨大な存在だとは思います。
 
 
それはさておき1曲目のKill All HippiesからMBV Arkestraまで、まったくイカれています。脳みそが爆発した上に、溶けてしまうようです。運転中には危険かも。
 
そして何よりも、この音の中に、”今”の私自身の鬱屈や心模様が、不思議なほど近いものが鳴らされている、ということです。時代の少し先を行く音の洪水の中に、新しい音の配合による混沌の先の化学反応の中に、見事に今の我々の時代の気分が響き渡っています。
 
この暗く内省的な時代にあって、どうすれば我々のどす黒い内面とロックのダイナミズムが共鳴し合うことができるのか、言い換えれば、こんな時代のロックアンセムは何なのか、どうしようもないこいつらに何を聴かせてやれるのか、俺がお前らと共に生きて、何を共に歌えるのか、ボビーの兄貴はずっとそれを考えているんだと思います。
 
 
Evil Heatの時のインタビューで彼は「俺はパンクロッカーなんだ」という発言をしていました。それは、私には、ここにきて彼が、あくまで自分自身に正直であろうとしているように写りました。
 そしてニューアルバム。まだ現時点で試聴程度ですが、とても楽観的なムードの漂う内容になっている、ときいています。
 
そして、それは"今"の彼のメッセージとして、常に一歩我々の先を歩む彼らの、一貫したメッセージなんだと、そういう感じがしています。

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