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Yankee Hotel Foxtrot 価格:¥ 1,940(税込) 発売日:2002-04-22 |
Wilco「Yankee Hotel Foxtrot」2002年US
ウィルコ「ヤンキー・ホテル・フォックストロット」
1. I Am Trying To Break Your Heart
2. Kamera
3. Radio Cure
4. War On War
5. Jesus, etc.
6. Ashes Of The American Flags
7. Heavy Metal Drummer
8. I'm The Man Who Loves You
9. Pot Kettle Black
10. Poor Places
11. Reservations
Glenn Kotche(Drums),
Jeff Tweedy(Vo,G)
John Stirratt(Bass)
Jay Bennett (G)
Jim O'Rourke(Mixing)
このアルバムによって、ウィルコは名実共にアメリカの今を代表するバンドになったといってもいいだろう。
かつてのREMやレディオヘッドがいた場所に、ウィルコが立っている。
いや、それとも少し違う気もする。
ウィルコがこんな風になるとは思っていなかった、というのが正直なところだ。
もともと繊細な精神性を鳴らすオルタナカントリーバンドではあったが、伝統的な音、アメリカンロック、フォークロック、カントリーロック色が強めに出ていたバンドだった。
それだけで十分に愛すべきバンド、優れた現代カントリーロックバンド、ではあったのだが、このアルバムによって現代性を身にまとった、オルタナティブバンドとして実力をもって時代の先頭に踊り出たのだ。
それも、とても静かに、とてもゆっくり穏やかに。
自分の気持ちの届く範囲を丁寧に。
その静けさ、穏やかさは、とても”時代”とか”社会”とか大げさな言葉は似つかわしくない。
それなのに、時代は彼らなのだ。
それは、今までのロックのありかたとはどこか違う風景。
それが今なのか。
少なくとも、それがウィルコだ。
彼らの金字塔、出世作、(どちらも彼らには似合わない言葉だが、世間はそう呼ぶ)である本作。
まず冒頭の1曲目から、本作のインパクトが全開だ。
違和感のある音のコラージュ。
ガラスの破片を拾い集めているような不揃いな音が、ひとつひとつ並べられてゆくうちに、ぼそぼそとしたつぶやきともつかないボーカルのなかから、とんでもなくロックな感覚がたちこめてくる。
ストーンズを感じる瞬間もある。ザ・バンド、ニール・ヤングはじめとするアメリカンロックの先輩たちはもちろん、ひとつひとつの音の破片から、とてつもなく重いロックの断片が感じられる。
静かな、つぶやくような、おだやかな音から、ストーンズのバリバリのロックと同質の激しさが立ち上ってくる不思議。
2曲目のポップさ、優れたソングライティング、それは彼らの元々の魅力であり、本作を名盤たらしめている理由は、そのことが一つ一つの音の実験的ともいえる意図や試みと両立しているところにもあるだろう。
3曲目の重さ、4曲目の明るい曲調、5曲目のカントリーフォークタッチの曲、6曲目の憂鬱と7曲目の軽妙、と交互にバラエティさとバランスをとり聴き手を引き込みながら、丁寧に繊細に、精神的な部分、気持ちをなぞっていく作業が続けられる。
ひとつひとつの音に意味と意図が込められ、全編にわたって、不穏とさえ言える緊張感が張り詰めている。とてもおだやかでゆったりした音なのに。
それにしてもどの曲も素晴らしいソングライティングだ。
本作の成功の要因として、まずジェフ・トゥイーディの作曲側の意図があって、その次に、あくまで意図する音作りの手段として、かの音響派ジム・オルークを迎えたこと、がある。
決してその順序が逆ではないところが大切だ。
特にダークな曲における音の扱いが絶妙で最高にロック。
もちろんソングライティングあってこそだが、既成の概念にとらわれないタメや音の並びに、男の哀愁と曲にこめた精神性のブルースフィーリングが漂いまくる。
音の使い方が、本作の特徴としての通称、いわゆる”ポストロック的”かどうかという次元は、超えている、と思っている。
必要な音を鳴らすために、新旧問わず、必然的な音を鳴らす、その絶対的な確信、ボキャブラリーと手段の豊かさ、その自由さ、そういったことが、本作の繊細で豊かな表現性に結実している。
その手段の豊かさは、たしかにありきたりのロックの常套句を超えているし、ジム・オルークの手柄ではあるだろう。
そして、ありきたりのロックを超えたところに、皮肉にも、伝統的なロックにこめられていた豊かで優れたロックの精神性やブルースフィーリングが、再び宿っている、と感じられるのである。
伝統は革新されてこそ、引き継がれるもの。
ポストロックとよばれるものが、もっともロックらしいのなら、もはやポストロック自体がロックなのだろう。
なお本作制作中に難解すぎるという評価でメジャーレーベル(リプライズ)から彼らは解雇され、インディーズのサンノッチから出した本作が、彼ら史上最高の売り上げ(50万枚)を記録したのは愉快。
今のアメリカを代表するバンド、Wilcoの傑作です。