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Rock Climber 洋楽レビュー

Rock、HM/HR、Alternative、Jazz、ラーメン

ジェフ・バックリィ

2007-05-30 00:22:16 | グランジ・オルタナティブロック

グレース グレース
価格:¥ 2,345(税込)
発売日:1994-09-08
<グランジ・オルタナティブ Vol.3>

「Grace」 (グレース) 1994年US

1.モジョ・ピン

2.グレース

3.ラスト・グッドバイ

4.ライラック・ワイン

5.ソー・リアル

6.ハレルヤ

7.恋人よ、今すぐ彼のもとへ

8.コーパス・クライスティ・キャロル

9.エターナル・ライフ

10.ドリーム・ブラザー

  
ジェフ・バックリィの声は日常に流され麻痺しスポイルされている者に痛々しく突き刺さる。美しい、という形容で聞き流せる類ではない。
   
1966年生まれ。5オクターブの父親のティムからうけついだ3.5オクターブの恵まれた声帯。高校時代はジャズバンドを組み、フュージョンを聴き、LAの音楽短大でバンドを組み、と同時代のアメリカのグランジ・オルタナ系のガレージ・パンク的とは一線を画すバックグラウンドがこの人のユニークネスの素になっているのだろう。
  
精神性は間違いなく、Xジェネレーションのそれだ。CMJでソニックユースやREMがあけた風穴が
見せたものは、80年代までのロックが見せた夢や享楽とは正反対の、極めてパーソナルな、ちいさな、繊細な苦しみと葛藤とストレスの発露であり、そのリアルな戦いこそが圧倒的な共感を呼び、
今に至るまで、殆ど全てのアーティストの音楽性に共通的に影響している時代的気分と言えるだろう。
  
NY系パンクからソニックユースまでガレージパンクの表現の中でそれらは表現され、90年代初め、カートコバーンという突出した個の輝きを得て爆発した。ジェフ・バックリィはカートと並び立つほどのもう一方の突出した個として、同じ気分を発露した人といえるだろう。
    
ジェフ・バックリィの声にはまず諦念のようなものが感じれる。
しかし諦めきるにはなんといっても若すぎるし、あまりに繊細でナイーブだ。
声の先にまで通っている末梢神経が、撫でるような風にも痛みを感じているような繊細さ。
よどみのない澄んだ声がロックの文脈を超えたバランス感覚、センスで自由に空間をさまよう。
まるで飛べない鳥が、声だけ飛翔してゆくような切なさ。
そして何よりその音を痛く、切なくさせているのは、彼の声に希望を見いだそうとする祈りのようなものが感じられるからだ。傷つき諦め痛みながらも祈りの悲鳴をあげているような、そんな声に聞こえるのだ。”美しい”という言葉ではとても形容できるとは思わない。。
   
革命的な音楽は突出した個によってもたらされるというが、ガレージパンク系、グランジの荒々しさとは全く異なる天分という方法で傑出してしまったジェフ・バックリィには、グランジ系のパンク的ムーブメントのようなフォロワーはありえず、その資格を相当選ぶことになり、派手な流れにはなりようもなかったが、それだけに、もし彼自信が生きていたら、どんなことになっていたのかと、どれだけの人が思ったことだろうか。時代の気分を歌い上げる21世紀のNo.1シンガーソングライターになっていただろうか。あるいは彼の才能に張り合えるほどのバンドを得て、新しいグルーブを手に入れたりしただろうか。U2かREMか、それを超える存在にだってなり得たのではないか。90年代で最も将来を嘱望されたアーティストは、その才能を開花させた矢先にいなくなってしまった。
ほとんどの曲がそのような彼の個性をうつしているが、レナード・コーエンのカバー 6. ハレルヤ がほっとするような癒しの空気をもち異色だ。ライブアルバムなどでも、自作以外のカバー曲でみせる違う顔が、彼のもう一つの魅力ともいえるだろう。
  
彼亡き後、そのフォロワーとしての資格を得ているのはレディオヘッドかジャズピアノのブラッド・メルドーくらいだろうか。しかしその真摯な精神性と音楽性は現代のロックの一つの確信として、意識的なロックバンドのバックボーンとして在り、伝説のような、夢のように消えてしまったジェフ・バックリィという鮮烈な記憶として今という時代の墓銘碑としてのこりつづけることだろう。

ダイナソー Jr.

2007-05-02 16:07:00 | グランジ・オルタナティブロック

ビヨンド ビヨンド
価格:¥ 2,490(税込)
発売日:2007-04-18
<グランジ・オルタナティブロック Vol.2>

「Beyond」2007年5月1日

ダイナソー Jr. の新譜のレビュー。昨日HMVで視聴。

1. Almost Ready
2. Crumble
3. Pick Me Up
4. Back To Your Heart
5. This Is All I Came To Do
6. Been There All The Time
7. It's Me
8. We're Not Alone
9. I Got Lost
10. Lightning Bulb
11. What If I Kne

ダイナソーの代表作は1988年の「Bug」から1991年のメジャーデビュー「Green MInd」1993年「Where you been」1994年の「Without a sound」の4作あたりかと思っている。そこではグランジに代表される時代の閉塞感をもっとも旨く描写した音が鳴らされていた。どうにもならないフラストレーションと荒れた気分を代弁するような轟音かつガレージっぽいギターと、だけどどうすりゃいいのかわからないし自信もないしやる気もない、ただ立ちつくすような悩める僕らの日常的気分を等身大のテンションで歌うというか呟くJマスシスの声は、まさに時代とシンクロしていた。こんなにやる気のなさそうなのに、心の兄貴(ダメ兄貴)のような存在感だった。情けない僕らに寄り添ってくれるようなギター、それでいいんだと言っているような無気力ボーカル、これが今の時代のブルースなのかな、と思ったりしたモノだ。そういえば当時、ニールヤングmeetsジャンクだったかガレージ、とか言われてたっけ。

でもすこしずつ時代は変わって、悩める若者は10歳年をとり、今の若者の気分は90年代前半とは少し違ってきている。時代への批判や気分などの相対的なものから、非常に細分化された自主自立の芽がたくさん萌芽する時代になってきた、という気がしている。自分たちで好きに色々やってみる、それぞれの芽はどこからかの借り物の域を出ていないか子供じみたモノが多いと思う。60年代や70年代のような音楽的発明のダイナミズムは今後あるのかどうかはわからない。当然そこにはインターネットの介在が非常に大きい。しかしそれらも含めて、新しい自由な時代の気分が始まっていることが感じられる。

そんな時代にダイナソー兄貴の新譜がどう響くのか。興味はあった。さらにオリジナルメンバーのドラムとベースが復帰するという。はたして、その音は。

一聴して、まず代表作4作と比べて非常に元気がよいサウンドという印象だ。轟音でノイジーというよりは昔よりも少しポップでメロディアスか。2曲目、3曲目と聞いていくが、やはり印象は同じだ。あまりダラダラした雰囲気を感じない。僕の好きなダイナソーはもっとやるせない声がたゆたうような止めどない流れるようなギターにのってダラダラと流される優しい音、という感じだったので、この音は少し違って聞こえる。

ニールヤングやダイナソーJrが射抜いた時代の気分はその後グランジからイギリスへも影響し、様々な異形のフォロワーをたくさん生み出してきた。考える大人のロックにとって90年代前半の気分を通り抜けて、それぞれのやり方で消化された音と、そうでない若者の音が、世の中で大きく2分化されているような気がする。当然混じり合う境界点のようなものもあるが、御大自らの音が今元気に聞こえること、昔のように寝そべっているように聞こえなかったことが印象に残った。変わったのはどちらなのか、何なのか。


パールジャム

2007-03-10 20:52:11 | グランジ・オルタナティブロック

TEN TEN
価格:¥ 2,345(税込)
発売日:1991-10-25
<グランジロック vol.1>

さてアーティスト、Disc、カテゴリ、歴史などの観点でReviewしてゆくことにしてゆきたいがまずはやはりパールジャムからはじめようと思う。

一番好きなアーティストは、と考えると、時期や気分によって変わるし選ぶのは難しいが、ロックの歴史上のインパクトに加えて、自分にとっての思い入れの度合いも加味した総合点でいくと僕のNo.1はこのパールジャム。

1991年のデビューアルバム「ten」、これが大学生1回生当時始めて聞いて以来No.1アルバムの座からはずれたことがない。

Pearl Jam 「ten」1991年 1st Album

1.Once 2.Even Flow 3.Alive 4.Why Go 5.Black 6.Jeremy 7.Oceans 8.Porch 9.Garden 10.Deep 11.Release

高校時代はグランジなど知らず大学生になって田舎から出て新生活を始めたばかりで、たまたま手にした日本語版のCDの帯に「Doorsなどの影響を受け...」という部分だけに惹かれて雑誌などの前知識もなく聞いてうけた衝撃は相当なものだった。その衝撃は始めて自分で買ったカセットのビートルズの「サージェントペパーズ」を聴いたとき、はじめて自分で買ったCDのポリスの「シンクロニシティ」以来。まず特徴的なのは声。多分あえてもったりしたProductionでうまれる底知れない心の闇と混沌そのもののような音世界。全くポップではないのに耳に残って離れなくなる運命のようなメロディーライン。ハードロック的な音の大きさ・作りでカタルシスをかましつつ、溜めに溜め込んだ自己の内面をマグマのように噴火させたような内省的で野暮ったいボーカルと曲の作り。どこがということはないがジムモリソンの世界を現代の分厚い音で再現したような部分もある。洗練とはかけ離れていながらあらゆるロックの滋養を吸収し濃縮した絞り汁のような音はちょうどアルバムジャケットの濃い紫色のイメージ。大学生になりたてだった頃のダサくて自己嫌悪の固まりのようなでもなんだかわからんエネルギーをかかえて叫びだしたいような鬱屈した気分をまさに代弁してくれたような、そんな声だった。

こんな暗いアルバムが1000万枚も売れた91年当時は、相当病んでいたに違いなく、ここから僕はグランジ・オルタナに目覚めていったのだが、一方で当時流れまくっていたNirvanaの「Smells like a teens spirit」のPopっぷりには辟易する気分があり、その後すぐにその偏見ははれるのだが思い入れとしてはやはりPearl Jamの方が全然強いものがある。

その後彼ら自身もこのようなアルバムは作り得ていないし、2007年の今まで、ここまでのアルバムは出現していないと思う。なぜなのか。その考察はまたの機会に。