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Rock Climber 洋楽レビュー

Rock、HM/HR、Alternative、Jazz、ラーメン

アーケイドファイヤ「フューネラル」2004US

2010-01-31 18:58:46 | グランジ・オルタナティブロック
Funeral Funeral
価格:¥ 1,437(税込)
発売日:2004-09-14

Arcade Fire「Funeral」2004年US
アーケイド・ファイヤ「フューネラル」
 
1 Neighbourhood (Part 1/Tunnels)
2 Neighbourhood (Part 2/Laika)
3 Une Annee Sans Lumiere
4 Neighbourhood (part 3/Power Out)
5 Neighbourhood (part 4/7 Kettles)
6 Crown Of Love
7 Wake Up
8 Haiti
9 Rebellion (Lies)
10 In The Backseat  
 
ウィン・バトラー (Win Butler) ボーカル、ギター、ベース、キーボード他
レジーヌ・シャサーニュ (Régine Chassagne) ボーカル、アコーディオン、ハーディ・ガーディ他
ウィル・バトラー (William Butler) シンセサイザー、ギター、ベース、パーカッション他
リチャード・パリー (Richard Reed Parry) アップライト・ベース、ギター、アコーディオン他
ティム・キングズベリー (Tim Kingsbury) ギター、ベース、キーボード他
サラ・ニューフェルド (Sarah Neufeld) ヴァイオリン他
ハワード・ビラーマン (Haward Bilerman) ドラム他
 
 
2作目である本作と3作目の「ネオン・バイブル」だけで全世界が注目するバンドになったアーケイドファイヤ。
 
2004年に出された本作は、当時の大統領であったブッシュのお膝元であるテキサス出身であるバンドの主人物ウィンが、大学進学を契機にカナダへ移住し、弟以外はカナダ人と作ったバンド。
 
故に懐かしさを感じさせる強烈な個性、アメリカの古い時代を連想させる衣装、コミュニティへの憧憬、ここではない世界への渇望を歌うその個性は、違和感を感じさせるアメリカ、世界への反発がこめられています。
 
その意味では、ほかの多くのグランジ以降のバンド同様、負の時代のアメリカ、社会への違和感や反発を歌う世代のバンドと同じメンタリティを抱えているといえるでしょう。
 
しかし、どこかほかのバンドと違うのは、直情的に自分の感情をぶちまけるのではなく、いったん物語的なアプローチをとること、フォークロアな多種多彩な古い楽器を使いまくることによって現代的な分厚い音を出してしまおうという取り組みの意思性があります。
 
かつ、どこかパンク以降のエキセントリックなニューウェーブの香りを醸し出す音。
 
オーケストレーションを効かせた壮大な曲、お葬式というタイトルやコンセプトアルバムという形式。
 
それらすべてが、時代全体と向き合おうとする視点の高さ、スケールの大きさをかんじさせます。 
 
 
そしてなにより6-70年代のロックを思い起こさせるボーカルスタイル。
 
声質はどこかデヴィッド・ボウイを彷彿とさせるところがあります。
 
ちょっと頼りなさげに、しかし切々と謳い上げる情感的な歌いまわし、これはこのバンドの肝ともいえる要素でしょう。
 
 
1曲目は幻想的な音の中で、ピアノがパンチを効かせた立ち上がり。
徐々にボーカルの熱が上がるに沿って、楽器隊の音も熱くなってゆきます。
 
2曲目、まさにこのバンドの真骨頂。
今度はドラムでオープニングと思ったらすぐに、ギターが絡んできて、そこへ懐かしいフォークロアな感じのアコーディオンが昔感を醸し出したと思ったら、ニューウェーブっぽいエキセントリックなボーカルがかぶさってくるという。そしてそれらの音の層がそろったところでキャッチーなサビへ突入。
 
3曲目は女性ボーカルと絡む静かで幻想的な一曲。と思いきや最後に転調しアップテンポに。
  
4曲目は、圧巻。強烈かつ切実感を伴った音とボーカルが胸に迫ってくる。鉄琴の音が効いてる。古いアメリカを感じさせるフォークロアな音で、とても厚い音を作り上げている。とても勢いのあるアップテンポな曲でもあるのでライブでハイライトのひとつになりそう。
 
5曲目は主にバイオリンとボーカルのアコースティックな一曲。メロディとボーカルのよさが際立つ曲だが、曲の隅々までピリッとパンチが効いてる。ぼやっとならない所がすばらしい。
 
6曲目は低音から始まる叙情的なバラード。ここでもバイオリンがボーカルに寄り添う。
パンクな精神とオーケストラが出会った、という感じ。
 
7曲目はアンセムソング。
こういう曲が書けてしまうことから感じるのは、その人(達)には始めから世界観とか出したい音の像がしっかりとあるんだろうな、ということ。
 
その確固たるイメージ像の要素やパーツは、80年代ロックや80年代ニューウェーブ、パンク、90年代インディーロックを経由し、かつ社会に対する人とてのポリシーみたいなものがしっかり存在することを感じさせます。
 
それらを音にする時のこの人たちの武器、個性が、ウィンの声であり、フォークロア的な楽器隊であり、厚いメロディーだということです。
 
8曲目も怪しげでレトロなメロディが軽くてポップでいい感じです。
 
サイケに音を揺らめかせながらノンストップで9曲目へ展開。
 
分厚い王道のパワーポップという感じです。
 
ラストはウィンの奥さんレジーヌの絶唱が聴ける名曲。
 
そんな訳で非常にすばらしいアルバムが突然変異のように登場したわけです。
次のアルバム「Neon Bible」もいいんですが、ポップになった分ボーカルの個性がかき消されるつくりになってしまった気がします。かつ謳い上げる系の曲はどこか大仰で、かのミートローフを思い出したりするくらいでした。悪くは無いですが。
この「Funeral」は叙情的であるぶん、コンセプトがしっかりと音の輪郭、メリハリを際立たせていて、曲やバンドの個性が明確に打ち出せていると思います。 
 
今後も楽しみな集団が2004年に残した名盤です。
 
”Neighborhood #3 (Power Out) ”

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”Neighbourhood (Part 2/Laika) ”

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モデストマウス Modest Mouse

2009-12-15 23:58:06 | グランジ・オルタナティブロック
We Were Dead Before the Ship Even Sank We Were Dead Before the Ship Even Sank
価格:¥ 839(税込)
発売日:2007-03-20

Modest Mouse 「We Were Dead Before the Ship Even Sank」2007年US
 
モデストマウス「生命の大航海」
 
1. March Into The Sea
2. Dashboard
3. Fire It Up
4. Florida
5. Parting Of The Sensory
6. Missed The Boat
7. We've Got Everything
8. Fly Trapped In A Jar
9. Education
10. Little Motel
11. Steam Engenius
12. Spitting Venom
13. People As Places As People
14. Invisible
 
アイザック・ブロック(ヴォーカル/ギター)
エリック・ジュディ(ベース)
ジェレイア・グリーン(ドラムス)
ジョニー・マー(ギター)
トム・ペローソ(ウッドベース)
ジョー・プラマー(パーカッション)

1993年にシアトル近郊の町で結成されてから6枚目のアルバムになる本作まで地元のSUBPOPなどのインディーズを中心に活動を続けてきたアンダーグラウンドのベテランがメジャーシーンでついにUSビルボード初登場1位を獲得してしまった作品。
 
なんといっても話題は元スミスのジョニー・マーの参加。
しかし彼の持ち味として発揮されているのは、クリアで小気味の良い躍動感のあるギター。つまり元の曲のよさを最大限に浮き立たせるふちどりのような役目であって、このバンドの魅力の本質はバンドの中心人物アイザック・ブロックにあるといっていい。
 
音がとにかく個性的。
 
すぐに連想するのは、80年代のニューウェーブ系。
まあ繰り出すセンスがやたら80年代。
 
個性的なボーカルスタイルはXTCかトーキングヘッズか。
まさに英国パンクが類型的な産業ロックのスタイルを駆逐した後に花開いたニューウェーブ。
個性的なセンスと斬新かつ先進的な音。パンキッシュな意識。
 
それまでロックが持ち得なかった感情の領域。
 
グラムロックやアートロックなども取り込みながら、多様な個性も新しい時代の到来を感じさせるセンスとしてロックの中に取り込み、一面的なロックのボキャブラリーを大幅に広げた功績がありました。
 
このバンドにはその時代の影響が濃厚に感じられます。
 
 
そこへ長年インディーで培ったオルタナティブ精神が加わり、迷いのない音の強さ、が備わっているといえる。
 
  
静かでアコースティックな導入部から、徐々にジャムロック的でサイケデリックな盛り上がりに突入してゆくあたりの感覚が現代的だ。
 

2曲目のDashboardに代表されるポップで洗練されたメロディーセンスが、人間くさいクセのあるボーカルと混ざり合って、段々はまってくる。
 
どこかかつてのオーストラリアのミッドナイトオイル(古い?!)を連想させるたたきつけるような強いメッセージを感じさせるボーカルスタイル。
 
よくあるオルタナティブとは一線を画している。
 
 
なぜ今、この音なのか。 
 
90年代初めのオルタナ、グランジの時代から、2001年9月11日を経由し、2007年にいたるまで、ずっと彼らは病んだアメリカと並走してきたことになる。
 
カート・コバーンが死んでゆくさまも、ブッシュの戦争も、テロも。
 
思えば、ニューウェーブが描いてきた音は、不毛な政治的停滞間の元において、パンクが焼き尽くした荒野に、新しい可能性が芽吹いた個性の時代だったが、その背景はやはり病んだ社会であり、その中で人間性を見つめたものであり、ある意味では従来的な人間性を超越しようとした価値観の提示や構築であったとも言える。
 
時代はめぐり、ところはアメリカに移り、グランジというアメリカにおけるパンクの嵐が世界を焼き尽くした。ブッシュの8年、世界は暗い影に覆われた。
 
人の心はめぐり、繰り返す。
 
世相に対する違和感と戦う分子は、同じように現れる。
 
新しい可能性を感じさせる音、違和感を訴える音、まったく異なる価値観と新鮮さを感じさせるアフリカン・サウンド、自分たちの出発点を見つめなおし価値観を問い直すことを意識させる古いアメリカン・サウンド、それらを取り込むことは、まさに時代の気分と言えるだろう。
 
ひとはその様にして、それぞれの想いの中で、時代と戦っていて、それが潜在的に共感を呼ぶ時代の音になる。
 
 
2007年、いわばオバマ前夜、夜明け前。
 
最も闇が暗くなるといわれる夜明け前。
 
そんな時代に希望の可能性、ニューウェーブという音を引っ張り出し、たたきつけるように歌ったモデストマウス。
  
闇に戦う闘士。
 
時代をまたいで、ジョニー・マーは再び廻って来た季節に、まったく若い世代に、何を思うのか。
 
停滞した時代のアメリカを生きてきたインディーズの重鎮、モデストマウスの快作にして時代の名盤です。


ペインツ・オブ・ビーイング・ピュア・アット・ハート

2009-11-15 22:32:37 | グランジ・オルタナティブロック
The Pains of Being Pure at Heart The Pains of Being Pure at Heart
価格:¥ 1,442(税込)
発売日:2009-02-03

Paints of being pure at heart「Paints of being pure at heart」2009年US

ペインツ・オブ・ビーイング・ピュア・アット・ハート
「ペインツ・オブ・ビーイング・ピュア・アット・ハート」
  
1 Contender
2 Come Saturday
3 Young Adult Friction
4 This Love Is Fucking Right!
5 Tenure Itch
6 Stay Alive
7 Everything with You
8 Teenager in Love
9 Hey Paul
10 Gentle Sons
 
 
ある年齢の一時期にしか、だせない音ってあるんだとおもいます。
 
過去の数ある名盤の中にも、そのようなタイプのアルバムはあるとおもいますが、そのようなアルバムは、いつまでもまぶしい輝きを放ち、しかし人生のうちにもう二度と手に入れられないものであるが故の切なさをたたえてもいるものです。セピア色の思い出。
 
過去に数多くのアーティストが、数枚だけ、そのような輝きを放っては、そのような時期を通り過ぎてゆきました。 
 
彼らのこのアルバムは、間違いなくまぶしい青春の色々をたたえています。
 
  
シューゲイザー、特にUKのマイ・ブラッディ・バレンタインから大きな影響を受けているというとおり、ノイズの波と乾いたギターの音が波のようにおしよせてきます。
 
その音の壁の中から、甘く激ポップなメロディーと、とつとつとしたボーカルが、立ち上がってきます。
 
2曲めなどは、パンキッシュでスピード感のあるナンバーで、マイブラというよりはスミスやクラッシュといった感じ。このあたりに、このバンドのポテンシャルを感じます。
 
1曲目の2曲目もそうですが、マイブラのような陰性な感じがないあたりがUSのバンド、今のバンドってところでしょうか。このバンドの大きな特徴でしょう。暗さがありません。
 
3曲目はノイズの壁も和らいだ80'sポップスのようなナンバー。
典型的ともいえるパターンの曲が、逆にレトロ感やおしゃれ感を醸し出しているようです。もうひとつの彼らの特徴、ハーモニーがここでも効いています。2枚目のシングルとしてカットされましたが、しゃれっ気の効いた必殺のポップナンバーといった感じです。
 
4曲目はコーラスで入ってくる女性ボーカルが60年代の雰囲気を醸し出します。
どこかレモンヘッズっぽい感じです。アルペジオのギターはREMみたいです。
 
そうですね、彼らはシューゲイザーのようでいて、パンキッシュで、しっかりUSインディーズの系譜を継いでいて、USオルタナ感を醸し出しています。
 
5曲めは入りのギターもボーカルも、初期のU2みたいです。
U2だと言われれば信じそうなくらい。スミスっぽくもあり。
 
6曲目も、典型的ともいえる80'sというかネオアコ的ですが、そこにシューゲイザーな音がかぶさってゆくところが彼ら風。それで爽やかで暗くならない。後半はスケール感のあるギターがちょっと違う顔をのぞかせて、潜在力のかけらを感じさせます。
 
まあシューゲイザーといいながら、引き出しが多い、やろうとしていることはバリエーション豊かです。それでいて完成度も高く、昔のスミス的なバンドたちと比べても、ぜんぜんうまい、器用と思われます。
 
7曲目のEverything with you。これがファーストシングル。キラーチューンです。
あまり奇をてらわない、ストレートな、彼らを象徴するようなナンバーです。
途中の間奏で入るギターが超かっこいいです。
ティーンエイジファンクラブやレモンヘッズが好きだった方なら、きっと気に入るでしょう。
 
8曲めは東欧の90年代ポップスを思い出すような青春ナンバー。
しかし駄曲がない。
あまりに衒いのないメロディーは、時に80年代の日本のアイドルの曲のようで。
 
9曲目は一転して、ノイズギターが割れまくりです。
しかしあくまでも甘いハーモニーは崩れません。
 
ラストは、おもいっきりフィル・スペクター、ウォール・オブ・サウンドかビーチボーイズじゃないですか。だいたいスピーディーでパンキッシュな色のアルバム曲の中で、唯一違う雰囲気のゆったりしたナンバーですが、料理しきっています。 
 
やろうとしていることは多彩で、意外に器用。
ですが、全体に曲ごとのメリハリがあまりなく、結構同じ感じの曲が続いているような印象をうけるかも。
 
しかしそんなことよりも、それらのあらを埋めてしまうほどの魅力をもった作品です。
 
冒頭で言ったように、若さと堅さと青春の色々がつまっています。彼らの器用さが、この瑞々しい音を永らえさせることになるのか、殺してしまうのか。
 
インディーズらしい、傑作です。
 
 
PVもまた青春

"Everything with you"

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Pixies ピクシーズ

2009-07-27 18:17:08 | グランジ・オルタナティブロック
Doolittle Doolittle
価格:¥ 1,224(税込)
発売日:2003-05-20

Pixies「Doolittle」1989年US
ピクシーズ「ドリトル」
 
1. Debaser
2. Tame
3. Wave of Mutilation
4. I Bleed
5. Here Comes Your Man
6. Dead
7. Monkey Gone to Heaven
8. Mr. Grieves
9. Crackity Jones
10. La La Love You
11. No. 13 Baby
12. There Goes My Gun
13. Hey
14. Silver
15. Gouge Away
 
Black Francis(Vo.G)
Kim Deal(B,Vo)
Joey Santiago(G)
David Lovering(Dr)
 
 
ヴェルヴェッツやストゥージズらNYのリアルパンクのながれを組みつつ、ハスカー・ドゥからニルヴァーナら90年代のグランジへのながれの真ん中にいて、アメリカン・オルタナティブロックのシーンの成立に大きな影響をあたえたピクシーズの名盤を紹介。
 
 
出世作となった1stは後にニルヴァーナのイン・ユーテロで名をあげるスティーブ・アルビニのプロデュースで尖ったサウンドを聞かせた傑作だったが、こちらはどちらかというとポップサイドで、ローファイ感がただよっています。
 
 
よく言われる乾いたギター音、かわいい声のキム・ディールとのコーラスはまるでレモンヘッズ、ニルヴァーナがパクったと公言した轟音ギターの静と動のパターン、など後のオルタナロックの音の手本となったいわゆる典型の名曲群がずらりと並んでいます。ハゲデブのボーカル、というものはしり?ですかね。それでもいいんだ、と。
 
 
また所属のインディーレーベル、4ADはイギリスのレーベルであり、アメリカよりも英国でまず評価されたこと、同レーベルのスローイング・ミュージズと共に、ボストンの学生バンドだった彼らは、大学のラジオ局を結んだ米CMJチャートで一位を獲るなど評価を高めたこと、などもその後のオルタナバンドの典型となりました。
 
 
彼らのサウンドは、それまでのパンクとも違う、ハードコアでメタルな音とも違う、独特のギターサウンドでした。それでいて屈折した内面をぶつけた歌詞、ローファイでダルな雰囲気の中でポップなメロディーセンスが聴いていてあきさせない楽曲群。
 
激しいギター曲とポップで穏やかでユーモア漂う曲、ドリーミングな変則ポップは、どこかスミスら英国のパンク以降のニューウェーブ勢、80'sロックを想起させる瞬間もあります。 
 
いっぱいいっぱいのボーカルも、切迫感、生々しさ、ナイーブさ、を伝えてきます。 
 
ギル・ノートンに変わったプロデュースも、エキセントリックながらもエネルギッシュで人懐っこいポップサイドの魅力を引き出すことに成功しています。
 
 
アルバムの前半は1曲目の代表曲Debaserをはじめとしたエネルギッシュな曲が続きます。
 
5曲目のHere comes your men、7曲目This monkey goes to heavenは彼らのポップな魅力が満載の名曲です。
 
アルバム後半はローファイながらも多彩な魅力をもつ楽曲群が並びます。
 
レゲエチックなポップスの8、ハードコアパンクといってもいい9、10はギターの甘美な響きがどこかREM的、ボーカルがヴェルヴェッツっぽい名曲La La Love song、ふたたびエキセントリックなキムのボーカルが効いているNYパンク的な11、コーラスが印象的な12、フランシスのナイーブなボーカルを効かせた13、ドリーミングなんだか呪文なんだかわからない不思議な14、もしかすると一番ニルヴァーナっぽいかもしれないおまけの15。
 
ほとんどの曲が3分以内です。
 
彼らのつむぎだした乾いたパンクでポップで荒々しいギターロックサウンドは、NYパンクの流れを汲みつつも、突然変異のように姿を現しました。時代とタイミングが生み出した天然のミクスチャーと呼べるのかもしれません。
 
その新しい魅力と影響は大きく、90年代アメリカのオルタナ、グランジロックはもちろん、ブラーをはじめとするブリットポップへの影響も大きなものがありました。
 
 
カート・コバーンが手本にしたことが大きくクローズアップされることが多くなりましたが、ニルヴァーナのような激しさをこのアルバムに求めることはできないでしょう。
 
しかし、激しさだけでもない、アメリカン・オルタナティブロックの多様な魅力を、本作は盛りだくさんで伝えてくれます。
 
そして、それはフランク・ブラックも、ブリーダーズで名をあげたキム・ゴードンも、まだ若かりしナイーブな時代にだけ、産み落とすことの出来た、ある意味青春の一枚でしょうか。
 
オルタナティブロックを語る上で、欠かすことの出来ない一枚、なぜか色あせない不思議な魅力をもった名盤です。
 
 
”Debaser”

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マシュー・スウィート Matthew Sweet

2009-07-07 14:10:15 | グランジ・オルタナティブロック
Altered Beast Altered Beast
価格:¥ 1,736(税込)
発売日:1993-07-13

Matthew Sweet「Altered Beast」1993US
マシュー・スウィート「オルタード・ビースト」
  
1. Dinosaur Act
2. Devil with the Green Eyes
3. Ugly Truth
4. Time Capsule
5. Someone to Pull the Trigger
6. Knowing People
7. Life Without You

8. Intro
9. Ugly Truth Rock
10. Do It Again
11. In Too Deep
12. Reaching Out
13. Falling
14. What Do You Know?
15. Evergreen
 
Mick Fleetwood(Fleetwood Mac、Dr)
Nicky Hopkins(Key)
Pete Thomas(Elvis Costello & The Attractions、Dr)
Richard Lloyd(Television、G)
Robert Quine(Lou Reed Band、G)
Ivan Julian(Richard Hell & The Voides、G)
Ric Menck(Velvet Crush、Dr)
Fred Maher(Lou Reed Band、Dr)
 
 
上の参加メンバーを見て驚かれる方もいるだろう。
ロバートクインもリチャードロイドも前作の名作「ガールフレンド」から参加している。
伝説的な方々が、マシュー・スウィートの才能にほれたということだろうか。

あるいはグランジロック、へヴィロック全盛の90年代にあって、極めてエヴァーグリーンな60年代的ポップロックを響かせたマシューの音楽性に、全面的に肩入れしたくなったということか。
 

パワーポップというジャンルは、簡単に言えば、ロック畑のミュージシャンが演るポップスとでもいえるだろうか。
 
ビートルズ以前の50年代のポップスにも、抗いがたい魅力をもったメロディーはたくさんありました。
 
ホリーズやビートルズはそんな誰もが好きなメロディーと黒人音楽だったR&Bを、白人のロックの中に織り交ぜて自分たちのものにしていったわけで、50年代のポップスの流れが完全に断絶している訳では当然ない、ということです。
 
そんなポップスに近い場所にいるロックにも、移り変わる時代の色が映し出されてゆきます。
 
どちらかというと90年代以前のパワーポップは、”ポップ”サイドの面が強かったのではないかと思います。ポップスの職人たちによるすぐれたポップスは素晴らしいものがありますが、80年代以降には、どちらかというとポップ色の強いロックは、商業的、ということでロック的には肯定的には受け止められていませんでした。 
 
しかし90年代に入ると、パワーポップはオルタナ色を強めます。
 
精神的に、弱さや繊細さをも受けれて、ありのままをさらけ出すようなロックのあり方が、オルタナティブ、メインストリームのロックに対しての裏側のロック、として認められるようになりました。
 
裏側の人間にも主張があるんだと。
そしてな人間にこそ、ロックが必要なんだと。
そしてロックのあり方も、人の内面のあり方が様々ある数だけ、多様なものがあっていいじゃないか、と。
 
 
90年代のパワーポップは、やっぱり優しくてきれいなメロディーにはかなわないよね、という素直に自分の嗜好性を認めて、なさけない自分もそのまま抱えて、前を向いて歩いてゆこう、という時代の気分にのせてひとつのムーブメントになってゆきました。
 
 
マシュー・スウィートは、そんな時代に現れたある意味カリスマだったのかもしれません。
 
ラムちゃん好きなアニメオタクのロッカーで、キモい髪型の自分も隠そうともせず、あるがまま、とてつもなく美しいメロディーを繰り出す天才です。
 
8thアルバムの奈良美智のジャケがぴったりくるようなイメージです。
 
 
マシュー・スウィートの代表作にして90年代パワーポップの金字塔といわれているのが3枚目の「Girl friend」ですが、私個人的な好みとしてはこちら4枚目「オルタード・ビースト」です。
 
「ガールフレンド」よりもサウンドアレンジがビッグで、へヴィーなロックテイストが強い、ややハードな音になっています。
 
反面、美しいメロディーの曲とのコントラストが見事です。
 
その分全体的な音のキレがあると思います。
ハードロックとはいいませんが、彼の作品の中ではそんな位置づけかと思います。
 
CDですが、なぜか二部構成になっています。
 
どの曲も口ずさんでしまえるほどのメロディーのよさはいうまでもないところです。
 
そしてエッジの効いた粗いギターが最高な、オルタナティブな空気を出しています。
このガレージな音が、90年代です。
 
 
このアルバムのパワーと切なさは、他のアルバムの中性的な感じと比べて、男感が感じられます。その分、彼の変態性がよく表れているという気がします。
 
というか、男なら誰しも共感するサガを、どうしようもなく素直にぶっつけてくれている、という気がします。
 
そんな男感のある音の中でならされる感傷的な美メロには、もはや男の勝手なロマンさえ感じます。
そこにどうしようもない親近感と共感を感じてしまう、そんなプライベート感いっぱいのアルバムです。
 
 
こんな時代に、自らの変態性と弱さをさらけだしながら、あるがままを感傷的で天才的な美しいメロディーにのせて歌ってしまったマシュー・スウィートは、90年代以降を生きる我々の前に現れた等身大のヒーローだった、のでしょう。
 
その意味で、このアルバムの音はすべて、私自身の内面と限りなく近い。
 
みんながそんな風に思った、時代の名盤です。
 
 
”タイムカプセル”
虫が嫌いな方は、映像は見ないほうが。。。

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”Someone to pull the trigger”

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ジョージハリスンの"If I needed someone"のカバーをジョン・ハイアットとデュエット

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