風の回廊

風を感じたら気ままに書こうと思う。

シニア決死隊―異端者たちの覚悟

2011年05月10日 | 政治・時事


新聞やテレビで報道されているかどうか判りませんが、福島第一原発の危機的な状況の中行われている収束作業に向け、「もう子供も作らない、放射線の影響も少ない60歳を過ぎた私たちが志願して、現場で作業をしようじゃないか……」と提唱し国家的プロジェクトへ向けて歩み始めたシニアの方たちがいます。

『福島原発 暴発阻止行動 プロジェクト』http://bouhatsusoshi.jp/
(人々はシニア決死隊と呼んでいます)

現在80名くらいの方たちが志願し、毎日10人くらい増え、賛同者は300人を超え、その中心は60年安保時代、東大で冶金工学を学び、卒業後、住友金属で技術者として研究者として、数々のプラント設計に携わり、退職後はコンサルタントやボランティア活動をしてこられた、山田恭暉さんという方です。
60年安保では、社会主義学生同盟副委員長を務めていたというから、当時はバリバリの左翼です。

こうした元技術者を中心としたメンバーが、高濃度の放射能が蔓延している原発内で収束に向けた作業を志願するというのですから、並々ならぬ使命感に燃えていると思いきや、山田さんたちのインタビュー動画を見ると、必ずしもそうではなく、「歳もとった、放射線の影響は、若者よりずっと少ない。原発プラントは携わらなかったが、素人よりはましなことができるし、収束は、私たちが必然的にしなければならないことだ」と実に淡々と語ります。これは山田さんの想いですが、他の参加者は、「若者にそんな危険なことをさせるわけにはいかない」「幼い孫たちの表情を見ると私たちの世代で責任をしっかり取らなくてはならない。本当に恵まれた世の中で生活することもできたし……」とさまざまです。

http://www.ustream.tv/recorded/14516552 山田さんインタビューのアーカイブ
フリージャーナリスト岩上安身さんのブログから

しかしどんな思いであれ、放射能の影響は若者に比べれば少ないとはいえ、実現すれば、死と隣り合う世界で作業することになり、決意した人の恐怖感は、私たちでは量りようがありません。
現に「そりゃ怖いですよ」と言っていました。

毎日のように行われる、統合記者会見(政府=細野担当補佐官、東電、保安院、時々原子力安全委員会、文科省)では、このプロジェクトについて、同じ会見の場で、東電は把握していないと言い、細野さんは、把握して政府としても検討していると言い、保安院は、尊い申し出に感謝しているという、相変わらずの一緒の場でのバラバラ会見ですが、山田さんの発言から、一定の方向へ進んでいることが窺えます。

それはそれとして、山田さんたちがあまりにも淡々と語るので、視聴していた僕もあまり危機感や恐怖感が生まれず、賛同の気持ちはあるのですが、死と向き合う環境へ拍手を持って送りだすことにもなるので、とても複雑で何とも言いようのない気持ちになり、やはり今は『未知の領域』なんだ……とあらためて思いました。
みなさんはどう感じます?

そして、リアルな恐怖感とある種の感動を与えたのが、小出裕章、京都大学原子炉実験所助教、の今日のインタビューでの発言でした。
(同じく、岩上安身さんのインタビュー動画です。生放送は途中途切、途切れしているので、いずれアーカイブが掲載されるはずです)

小出さんは、以前ここでも書きましたが、およそ40年間、原子力の研究をされ、それも原子力の危険性を研究してこられた方で、その40年間ずっと「原発は危険なものだから造ってはいけない、廃止しなければいけない」、と訴えてこられた方で、政、財、官、学、報で構成される主流派である原子力推進者が集まる、「原子力村の住人たち」から見れば、「異端」です。
この異端者たちは、京都大学原子炉実験所にかつては6名いて、京都大学原子炉実験所が在る地名から「熊取6人衆」と呼ばれましたが、4人が退職され、現在は、小出さんと今中哲ニ助教2名になってしまいました。


小出さんの講演
【大切な人に伝えてください】小出裕章さん『隠される原子力』


小出さんは、福島原発事故以来、毎日のようにメディアに登場します。それも地上波ではなく、ソーシャルメディアであったり、ラジオ放送の電話インタビューであったり、衛星放送の電話インタビューです。また、研究活動が忙しい中、請われれば講演会で発言したり……

そんな小出さんが、今日の岩上さんのインタビューの中で、岩上さんの質問に対し「私も決死隊に志願したひとりです」と答えたのです。そして理由をこのように述べました。
『小出裕章(京大助教)非公式まとめ』ブログより抜粋http://hiroakikoide.wordpress.com/

“私も60を過ぎていて放射線感受性は低い。私には原子力に携わってきた人間として責任はある。推進してはいないが責任はあると思う。事故収束にむけて自分にできることがあれば、したい……
たとえば私の職場で事故が起きたら、収束に役立つのは現場をよく知っている実験所の所員。外部の人が来たとしても、私から見ると「危険もあるし、役に立たないかもしれないから、結構です」となるだろう。だから、福島の事故についても福島原発を知る人がいいだろうとは思う。ただ、被曝をさせるためだけに必要な作業というものはある。西成の労働者のことが報道されているが、そのように特別な能力がない人であっても出来る仕事はあり、そういうことであれば私も福島で役に立つかもしれない。ただ、一歩でもいい方向に向かうために私の力が使えるかと考えると、多分ないかもと思う……”

小出さんの静かな決意と、山田さんと同じような淡々とした物の言いようと、独特の静謐で誠実な雰囲気から、小出さんの著書を読み、小出さんの発言を聴いてきた僕は、かなりやられてしまいました。
ちょっと言葉に表せません。

小出さんの最後の言葉に深い意味があることは、福島第一の状況を考えると解かるかと思います。このような後がない危機的状況で――『未知の領域』――で最も頼りになるのは“異端の力”だと思います。そして異端を支え、“正統”に導く私たちの覚悟と力ではないでしょうか。

小出さんは、原子力の知識や問題を聴く者に与えるだけでなく、言葉で直接現わすわけではありませんが、人生の大切な何かをいつも静謐に示唆してくれます。
そんなことを踏まえながら、アーカイブを視聴していただけると幸いです。


小出さんにやられてしまい、まったくまとまりのない文章になってしまいました……


再掲『小出裕章(京大助教)非公式まとめ』http://hiroakikoide.wordpress.com/
事故発生以来の小出さんの発言が、アーカイブとテキストでご覧になれます。


武井繁明



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