風の回廊

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今、福島で何が起こっているのか―「未知の領域へ」~チャイナ・シンドローム

2011年03月16日 | 政治・時事
大学に入った年だったろうか、ジェーン・フォンダ、ジャック・レモン、マイケル・ダグラスらが出演した『チャイナ・シンドローム』という映画を見た。“原子力発電所の原子炉が融けだすと、建物だけではなく、地殻をも融かしやがて地球の反対側の中国にまで行きついてしまう”というストーリーの中でのジョークが、そのまま題名になった映画です。
この映画は、核の危険性をストーリー化させただけではなく、危険な核を使用した発電所でいったん事故が起り、経営の持続と利益と保身のために、経営者側が状況と危険性を隠蔽すれば、致命的な危機にまで発展するという教訓的でとても秀逸な作品でした。
翌年だったかな、まるで預言していたかのようにスリーマイル島で炉心融解(メルトダウン)事故があり、秀逸な作品がさらに脚光を浴びたのを覚えています。
それからしばらく経って、ハリソン・フォード主演の『K-19』(2002年)というソ連原潜事故の実話を基にした作品を観ました。
この作品は、些細な事故でメルトダウンを起こしそうなり、危機的な状況の中で、乗組員が被爆覚悟で決死の修復にあたる。というところが最大の見せ場で、核の危険性とともにヒューマニズムを最前線に描いた、これも見ごたえのある作品でした。

今福島第一原発の危機的状況をめぐり、二つの映画の主要テーマが、実際起っていると僕は推察します。

東電と経済産業省・保安院の後手後手に回る要領を得ない記者会見。詳細を明らかにせず、「念のために」を繰り返しながら、事故の状況を大まかに説明し、「微量な放射能漏れは人体に影響がないレベル」を言い続ける枝野官房長官とさらに具体性に欠ける菅総理の会見。
会見の主体となっている、政・財・官は、事態の収拾に向かいながらも、これまでのあまり表に露われていない事実を考えると、人命とは別の何かを守りながら進んでいるように思います。つまり直線的に収拾に向かっていないんですね。

◇本来、どんな状況でも機能しなければならない、そういう約束で作られた原発の二重三重の冷却安全システムが機能しなくなった時、事態の好転に向けてアメリカが、技術的、物質的なサポートを申し出た時、日本側は断っています。それも二度に渡り断ったと言われています。
(東電が、炉の再使用を求めたため、炉が使えなくなる収拾方法を嫌った。人命より経営利益を優先させ、それを政府が容認した)

◇コントロールが効かなくなった原発を抑え、再臨界を防ぐために、冷却の他にホウ酸水を注入しなければならなかったのに、東電は初期段階でそれを行わなかった。
(先述した理由による)

◇多くの人命に関わる危機的、致命的状況にもかかわらず、政・財・官の会見は、今実際「何が起っているのか」「どのような状況でどのような作業が行われているのか」「状況の悪化により招かれる事態はいかなるものなのか」ということを具体的に語っていない。
(パニックによる経済的損失を怖れるあまり、人命を疎かにしている)

◇詳細に与えられない状況の中で、世界レベルに達していない安直な避難指示が行われている。
(この規模の原発の危機的状況では、まず半径30㎞外への避難指示が与えられ、状況により縮小拡大するのが世界レベル。政府は、まず5㎞、10㎞、20㎞へと逆に行ってきた⇒危機管理の未熟さを露呈)

◇枝野官房長官が就任し、官邸の記者会見はフルオープンになったが、この地震を境に、フリー、雑誌、ネット、外国人記者は、参加を認められず、従来の閉ざされた記者クラブだけが参加する記者会見に戻ってしまった。
(政・財・官に加え、報まで思考停止状態。情報の入り口と出口を限定化してしまい、多様な情報が生まれない状況を作りだしてしまった。人命に関わる大事な時だからこそ、多様な情報を国民は得て選択肢が拡がる。さらに既存メディアの最大のスポンサーは、電力会社だという事実)

◇3号機は、使用済み核燃料から取り出されたプルトニウムとMOX(ウラン混合化合物)を燃料としていて、――プルサーマル計画――プルトニウムは、ウランに比べ人体に与える影響が遥かに大きく、長期間にわたる猛毒であること。
このことをこれまでの会見では大きく伝えていない。そしてプルサーマル計画は、日本が一番進めていて、事故も世界で初めてだという事実。

◇地震による東日本の電力不足は、あたかも福島の二つに原発の機能不全によるものだと思わせているような「計画停電」だが、実際は、火力発電所も被害を受け電力量が落ちていること。火力発電を抑制し、原発に依存した体制になっているので電力が不足していること。抑制中の火力発電所の容量を上げれば、電力は不足しないことを大きく伝えていない。
(原発は必要不可欠という認識を与えたいためなのかと思ってしまう。たぶんそうだと思う。実際これまで原発運転を止めたことが2003年にあったらしいが、停電は起らなかった。火力発電と他の発電で十分だった)


1号機、2号機、3号機、メルトダウンが進んでいる可能性があります。こうした報道が昨日あたりからようやく見られるようになりました。このことをまるで預言するかのように、誠実に伝えていた後藤政志さんという、かつて原発の格納容器を東芝で設計していた博士が、地震発生以来実名で、記者会見を行っていますが、ほとんどの既存メディアは、伝えていないと思う。(今日の東京新聞『こちら特報部』で大々的に掲載)
後藤さんが、会見されるのは、「特定非営利活動法人 原子力資料 情報室(CNIC)→反原発団体」とフリージャーナリストによる会見と外国人特派員協会での会見に限られています。
外国人特派員協会では、二夜連続で行われました。外国の記者たちからの注目度が高い見識を持った人なのになぜ既存メディアの記者クラブが会見を主宰しないかと言えば、先にも言ったように彼らの最大のスポンサーは電力会社だからです。
さらに電力会社は、民主党のスポンサー最大手でもあるんですね。

後藤さんの会見の模様は、Ustreamで伝えられていました。普段なら数百人程度でも多い視聴者が、連日3万~5万にも及んでいます。そしてその人たちのコメントは、圧倒的に「目から鱗が落ちた」というようなこれまで知らなかった原発の構造や、「今実際何が起っているのか」という事実を知った新鮮な驚きばかりで、実際、後藤さんが述べていることが、今福島で起こっているという衝撃です。
僕は多くの人たちに後藤さんの話を聴いてもらいたいと思っています。

■14日に行われた外国人特派員協会での記者会見
http://www.ustream.tv/recorded/13320522
■15日に行われた外国人特派員協会での記者会見
http://www.ustream.tv/recorded/13339131


原発反対も推進も容認もなく、多様な情報の中から向かわなければならない方向を私たちは考えなければいけない。多様性の中にしか正しい方向は存在しません。閉ざされている現況を考えるととても恐ろしい感じがしてなりません。閉ざされた報道の中で、メルトダウンは進んでいる。
仮に止められたとしても(止めなくてはなりません)放射能の拡散は、数ヵ月から1年続くと言われています。
海外の報道では、すでにスリーマイル島(レベル4)を超えたレベル5~6(最悪はチェルノブイリのレベル7)に進んでいるという、日本の報道と乖離した報道が早い時点で見られます。

これまで起ってきた悪夢のような現実。そして良い方向へ向かうとは思えない「未知の領域」を僕なりに見つめて思うのは、時代は、価値観のダイナミックな転換を求めている。ダイナミックに価値観を変換しなければならないと感じています。
このことについては、いずれ書きたいと思います。

そしてもうひとつ、映画『K-19』の最大のテーマが、福島で連日続けられていることです。
被曝を覚悟した、決死の冷却活動です。東電の現場職員、技術者。協力会社の現場職員。そして自衛隊とアメリカ軍の精鋭のみなさんが、健康と命を引き換えに悪化し続ける事態を鎮静化させようと壊滅的で危険な現場で、多くの国民の健康と命を護ろうとしている現実。多くの犠牲者を必要とするような現実が、今起こっていることを認識しなければいけません。


武井繁明


*写真はロイターから引用
左:人災で破壊された福島第一原発 右:被曝し隔離された家族とガラス越しに話す婦人。





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4 コメント

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Samさん (武井)
2011-04-08 16:10:39
こんばんは。
日記を読ませていただき、mixiを留守にされていた理由が分かりました。
どうぞ、無理せず治療に当たってください。速やかな快癒を願っています。

そしていきなりですが、、
そうなんですよ!だいたい『核分裂が止まっている』停止状態に陥った事に問題があって、その後の二重三重の冷却安全システムが機能しないなんて、『想定外』という理由で、免責されるものではありませんよね。
言い訳にもなりません。

すでに原子炉としてその時点で破綻していますよね。

御用学者が現時点で、「放射能は微量だから安全です」といくら言っても、冷却が上手くいくわけではなく、ここまで来てしまえば、事態がこのまま終結しないのが、核の怖ろしいところですから、早く決断しなけれないけませんね。
保安院の連中が逃げて行った50㎞までの避難指示と、各県への受け入れです。秋田では、自主的にすでに始まっているようです。

僕もこのところ後藤さんの会見を全部聞き、学生時代、地理学で使った地震に関する本を3冊読み直していますが、原発にも触れていて、原発を制御するのは、冷却しかないようで、それも実に単純なんですよ。
でもその単純さは、事故が起こっても同じで、制御機能が失われれば、人海戦術による冷却方法しか残されていないんですね……

もう致命的過ぎます……

後藤さんが、今日涙ながらに、「残念ながら残された方法は、犠牲を伴う方法しかない……。現場で必死に作業されている方は、被曝覚悟で行っている。こうした事態になっていることを認識しなければいけない」と言っていました。

スリーマイル島の時は、格納容器の下部を融かしながら、偶然にもわずかなところで止まったらしいです。
だから被害が、それほど広がらなかった。

どうも、祈りの領域に入ってしまったようです……


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危惧であってほしい (Sam)
2011-04-08 16:09:34
久しぶりに病から(一時的に)復帰する古林です。
いつも詳細な情報を適確にまとめていただいて感謝です。

さて、私も一言簡単に。
数日前に、ニュージーランド人の科学者で国連職員の友人から簡単なメールが入りました(実際は日本人の奥さんから)。
日本のメディアや政府筋、東電が説明する内容はおかしいのではないか。海外ではもっと深刻にとらえているが、どうなっているのか。
そんな内容でした。私も漠然とそれを感じていました。
『核分裂が止まっているのだから制御棒の温度さえ下げればさほどの問題ではない。』
これが御用学者のような顔をした専門家たちの説明でしたが、問題は、その温度を下げることが可能なのか、どんな手立てがあるのか、でしょう。
実際には、その手立てはもうほとんどなくなってきているのではないでしょうか。
今日も自衛隊ヘリが水をぶっかけに行ったものの危なくて引き返しました。
手立てがなくなったときに何が起こり得るのか。おそらく海外ではそのことが指摘されているのでしょう。
今日の東京新聞での後藤政志氏の説明でもそのことが明確に指摘されていました。
『制御棒の熱は(確か)2000℃にも達し、その熱によってあらゆる防壁は溶けてしまう。炉心が溶ければ膨大な量の放射性物質が外に流れ出すのだ。』
このシナリオ、本心から危惧であって欲しいと願う次第。
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名無しさん (武井)
2011-04-08 15:45:36
ご忠告ありがとうございました。
訂正いたしました。
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4号炉 (名無し)
2011-04-08 15:21:06
4号炉は稼働していません。メルトダウンは炉心溶融の事です。炉内に燃料は有りません。
一応
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