風の回廊

風を感じたら気ままに書こうと思う。

燃料ペレット溶融

2011年05月10日 | 政治・時事
今日メディア各社一斉に「1号機の燃料ペレットの大半が損傷、融解し圧力容器の下部に溜まっている」旨の報道が流れました。「理由は、圧力容器が損傷し、冷却水が漏れている」というような内容です。
さらに、「現在行われている水棺も格納容器が損傷しているため水が貯まらない」ことも発表されました。

たとえばアサヒ・コムでは、こんなふうに伝えています。

『核燃料の大半溶け圧力容器に穴 1号機、冷却に影響も』という見出しで……
http://www.asahi.com/national/update/0512/TKY201105120174.html

なぜ今このような報道をするんだろう……
なぜなら格納容器に水が貯まらない現象はともかく、1号機の燃料ペレットが、大半以上損傷し、圧力容器の下部に溜まっていることは、事故直後から予測可能だったからです。
これまでの東電の会見での発表とパラメータから、17時間も炉心が冷却されなかった『空焚き』状態では、設計温度を遥かに上回る熱上昇があったことは、容易に推測可能で、燃料ペレットがメルトしていたと素人でも推測できます。(注:ウランの融解温度はおよそ670℃だが、安全を期すために燃料ペレットは、ウランを含みセラミック化され、その融点は2700℃~2800℃)

僕はこれまで、東芝で格納容器の設計をしてこられた、後藤政志さんと、京都大学原子炉実験所・小出裕章助教の会見やインタビューでの発言をずっと追ってきたのですが、(反原発者だけの意見だけでは偏るので、御用学者と言われている東大の早野龍五教授、同じく御用学者のレッテルを貼られている大阪大学の菊池誠教授、お二人と仲がいいKEK- 高エネルギー加速器研究機構 野尻美保子教授も追っています)
お二人とも1号機について、東電と政府が発表する、けして確信的だと言えないデータから、その知識と経験を活かして

『注水を繰り返しても水位が燃料棒の半分ほどしかなく、燃料の大半が損傷し融けている可能性が高く、融けた溶融物は圧力容器の底部に溜まっていると推測もできます。水位が上がらないのは、圧力容器の底部が損傷している可能性が高いからです』
(福島第一の炉は、燃料ペレットを底部から差し込むタイプで、高熱が加わると差し込み部分が、破損する欠点がある―後藤さん)

お二人はこのようにかなり早い段階から言い続けてきましたが、どうも推察どおりの展開が、いまさらに酷くなっているようです。
さらにお二人は、格納容器の水棺に対しても疑問を呈していました。

『上手くいってもらいたい。その気持ちは強く、速やかな収束を願っている。しかし、高さが40m近くもある巨大な格納容器を水で満たすことは容易ではない。格納容器は、水を貯めるために設計しておらず、水圧に対する強度も計算されていない。そこに水を満たして、たとえば大きな余震が起こった際生まれる大きな応力に耐えられるのかどうか……2号機は、サプレッションプール(圧力抑制室)の破損を東電が認めているので、高い放射線の中で塞がなければ、水棺は不可能……』

お二人だけではなく、何人もの専門家や研究者が、このような指摘をしているので、今さら僕は驚いたりしませんが、おそらくメディアも知っていたと思います。確信していた。
東電の記者会見に毎日、ついこの間までは、東電の記者会見は、一日何度も(深夜も)行われていたくらいですから。
ではなぜ今このように一斉に記事になるかと言えば、東電が口頭で明らかにしたからですが、東電が明らかにしたのは、水位計が壊れていて、修復したところ、これまで思いこんでいた圧力容器に半分くらい貯まっていたと思われた水が、底部にしかなかったからです。
しかし、運よく適度に冷やされ、それ以上の大事に繋がっていなかった。

ここで3時間ほど前、こんな未確認情報をあるジャーナリストが語りました。

『官邸筋から情報。公式情報ではありません内容は個人で判断下さい。福島1号機は超危機的状況。官邸危機管理官が真っ青で対処を検討中。近い内にベントの可能性あり?仮に実行すれば高濃度放射線物質が飛散』

さらに細野首相補佐官が、11日の統合会見で明らかにしたように、今日12日、謎の原子力専門家外国人と福島入りしたのです。
http://news.nicovideo.jp/watch/nw61580

僕はこれまで不確定情報を載せなかったのですが、もし『官邸が真っ青になって対処を検討中』であれば、発表のタイミングが繋がってくるのです。

東電もメディアも早い時期から、燃料ペレットの大部分が損傷し、圧力容器底部に溜まっていたのを認識し水が半分以上貯まらない理由も知っていたでしょう。
では、計器が復旧し正確な水位が判り、これまでの危機感を超える危機感を覚えたのでしょうか。
専門家なら、当然ながらそこまで推測できるはずだし、もし想定していなかったとすれば、東電だけではなく、保安院も原子力安全委員会もそして政府も大失態では済みません。

細野首相補佐官が、統合本部専任に就任した直後BS朝日に生出演しこのように語っています。
「3/11から3/22までは、モニタリングポストが殆ど機能せず。遠方の観測データのみ原発自体の放射線を推定していた。政府・東電は確たるデータなしに安全を強調していた。
1号機が爆発後、水素爆発を防ごうとしたが手立てがなかった。格納容器からの漏れでありメルトダウンと考えていたが、そう積極的に発表する気分にはなれなかった……』

こうしたことから、すべて解かっていた。推測を超える確定的認識が、東電、保安院、原子力安全委員会、そして政府にあった。その確定的認識は、メルトダウン。しかし今現在、原子炉が暴走した時必要な「止める」「冷やす」「閉じ込める」のうち、これまで何とか成果を見せていたと思われてきた「冷やす」術が、綱渡り状態で推移していたことが、具体的に明らかになってしまった。

小出さんや後藤さんが指摘していたように、早いうちから1号機では、核燃料ペレットが溶融し、圧力容器底部に溜まっていた。
そして想定される最悪のケースは、空焚き状態で水にふれて起きる水蒸気爆発。あるいは溶融物が圧力容器の底部を溶かし、脱落し格納容器内水にふれて起る水蒸気爆発。
いずれも、圧力容器と格納容器を木端微塵にし、これまで人類が経験したことのない高濃度の放射性物質が大拡散する……

最後の部分は、最悪のケースをあえて書きましたが、現実としては、これまで首の皮一枚で繋がっていた状況が、皮がさらに薄くなっていると言えるでしょう。

この間にも新しい事実が報道されているかもしれません。ただ情報の受け手になっているのではなく、主体的に能動的に情報を得ることをお薦めします。
政府や東電は、護ってくれません。日本中すべての人を護るのは不可能です。
自分とその周りの身は自分で護る他ないようです。何と言っても私たちは『未知の領域』にいるのですから。


タイミング良く小出さんの発表後のインタビューが行われました。
ぜひお聴きください。

http://hiroakikoide.wordpress.com/2011/05/12/videonews-may12/?utm_source=twitterfeed&utm_medium=twitter


武井繁明


シニア決死隊―異端者たちの覚悟

2011年05月10日 | 政治・時事


新聞やテレビで報道されているかどうか判りませんが、福島第一原発の危機的な状況の中行われている収束作業に向け、「もう子供も作らない、放射線の影響も少ない60歳を過ぎた私たちが志願して、現場で作業をしようじゃないか……」と提唱し国家的プロジェクトへ向けて歩み始めたシニアの方たちがいます。

『福島原発 暴発阻止行動 プロジェクト』http://bouhatsusoshi.jp/
(人々はシニア決死隊と呼んでいます)

現在80名くらいの方たちが志願し、毎日10人くらい増え、賛同者は300人を超え、その中心は60年安保時代、東大で冶金工学を学び、卒業後、住友金属で技術者として研究者として、数々のプラント設計に携わり、退職後はコンサルタントやボランティア活動をしてこられた、山田恭暉さんという方です。
60年安保では、社会主義学生同盟副委員長を務めていたというから、当時はバリバリの左翼です。

こうした元技術者を中心としたメンバーが、高濃度の放射能が蔓延している原発内で収束に向けた作業を志願するというのですから、並々ならぬ使命感に燃えていると思いきや、山田さんたちのインタビュー動画を見ると、必ずしもそうではなく、「歳もとった、放射線の影響は、若者よりずっと少ない。原発プラントは携わらなかったが、素人よりはましなことができるし、収束は、私たちが必然的にしなければならないことだ」と実に淡々と語ります。これは山田さんの想いですが、他の参加者は、「若者にそんな危険なことをさせるわけにはいかない」「幼い孫たちの表情を見ると私たちの世代で責任をしっかり取らなくてはならない。本当に恵まれた世の中で生活することもできたし……」とさまざまです。

http://www.ustream.tv/recorded/14516552 山田さんインタビューのアーカイブ
フリージャーナリスト岩上安身さんのブログから

しかしどんな思いであれ、放射能の影響は若者に比べれば少ないとはいえ、実現すれば、死と隣り合う世界で作業することになり、決意した人の恐怖感は、私たちでは量りようがありません。
現に「そりゃ怖いですよ」と言っていました。

毎日のように行われる、統合記者会見(政府=細野担当補佐官、東電、保安院、時々原子力安全委員会、文科省)では、このプロジェクトについて、同じ会見の場で、東電は把握していないと言い、細野さんは、把握して政府としても検討していると言い、保安院は、尊い申し出に感謝しているという、相変わらずの一緒の場でのバラバラ会見ですが、山田さんの発言から、一定の方向へ進んでいることが窺えます。

それはそれとして、山田さんたちがあまりにも淡々と語るので、視聴していた僕もあまり危機感や恐怖感が生まれず、賛同の気持ちはあるのですが、死と向き合う環境へ拍手を持って送りだすことにもなるので、とても複雑で何とも言いようのない気持ちになり、やはり今は『未知の領域』なんだ……とあらためて思いました。
みなさんはどう感じます?

そして、リアルな恐怖感とある種の感動を与えたのが、小出裕章、京都大学原子炉実験所助教、の今日のインタビューでの発言でした。
(同じく、岩上安身さんのインタビュー動画です。生放送は途中途切、途切れしているので、いずれアーカイブが掲載されるはずです)

小出さんは、以前ここでも書きましたが、およそ40年間、原子力の研究をされ、それも原子力の危険性を研究してこられた方で、その40年間ずっと「原発は危険なものだから造ってはいけない、廃止しなければいけない」、と訴えてこられた方で、政、財、官、学、報で構成される主流派である原子力推進者が集まる、「原子力村の住人たち」から見れば、「異端」です。
この異端者たちは、京都大学原子炉実験所にかつては6名いて、京都大学原子炉実験所が在る地名から「熊取6人衆」と呼ばれましたが、4人が退職され、現在は、小出さんと今中哲ニ助教2名になってしまいました。


小出さんの講演
【大切な人に伝えてください】小出裕章さん『隠される原子力』


小出さんは、福島原発事故以来、毎日のようにメディアに登場します。それも地上波ではなく、ソーシャルメディアであったり、ラジオ放送の電話インタビューであったり、衛星放送の電話インタビューです。また、研究活動が忙しい中、請われれば講演会で発言したり……

そんな小出さんが、今日の岩上さんのインタビューの中で、岩上さんの質問に対し「私も決死隊に志願したひとりです」と答えたのです。そして理由をこのように述べました。
『小出裕章(京大助教)非公式まとめ』ブログより抜粋http://hiroakikoide.wordpress.com/

“私も60を過ぎていて放射線感受性は低い。私には原子力に携わってきた人間として責任はある。推進してはいないが責任はあると思う。事故収束にむけて自分にできることがあれば、したい……
たとえば私の職場で事故が起きたら、収束に役立つのは現場をよく知っている実験所の所員。外部の人が来たとしても、私から見ると「危険もあるし、役に立たないかもしれないから、結構です」となるだろう。だから、福島の事故についても福島原発を知る人がいいだろうとは思う。ただ、被曝をさせるためだけに必要な作業というものはある。西成の労働者のことが報道されているが、そのように特別な能力がない人であっても出来る仕事はあり、そういうことであれば私も福島で役に立つかもしれない。ただ、一歩でもいい方向に向かうために私の力が使えるかと考えると、多分ないかもと思う……”

小出さんの静かな決意と、山田さんと同じような淡々とした物の言いようと、独特の静謐で誠実な雰囲気から、小出さんの著書を読み、小出さんの発言を聴いてきた僕は、かなりやられてしまいました。
ちょっと言葉に表せません。

小出さんの最後の言葉に深い意味があることは、福島第一の状況を考えると解かるかと思います。このような後がない危機的状況で――『未知の領域』――で最も頼りになるのは“異端の力”だと思います。そして異端を支え、“正統”に導く私たちの覚悟と力ではないでしょうか。

小出さんは、原子力の知識や問題を聴く者に与えるだけでなく、言葉で直接現わすわけではありませんが、人生の大切な何かをいつも静謐に示唆してくれます。
そんなことを踏まえながら、アーカイブを視聴していただけると幸いです。


小出さんにやられてしまい、まったくまとまりのない文章になってしまいました……


再掲『小出裕章(京大助教)非公式まとめ』http://hiroakikoide.wordpress.com/
事故発生以来の小出さんの発言が、アーカイブとテキストでご覧になれます。


武井繁明