彼は、自ら「月の精の画家」と称したという。
月の光の導きによって、プリミティブでエロティックなインスピレーションを得たのであろうか、どことなく温度を感じない絵を描いた。
赤などの暖色を使っても、暖かさを感じない。
青などの寒色で描いても、冷たいとは思わない。
真空の劇場の中で、粛々とドラマを行っているかのようだ。
ゾンネンシュターンを知ったのは、澁澤龍彦の「幻想の彼方へ」によって。
そのとき投げられた糸には、目には見えないがしっかりとしたフックがついていた。
彼の真空劇場の永久パスポートを手に入れ、時折ふらりと立ち寄る観客の一員となった。
劇場に架かるドラマは、登場人物?の容貌にもかかわらずに、悪夢的ではない、むしろ喜劇よりである。
大衆劇場で行われる身振り手ぶりよろしいサイレントドラマ、映画の黎明期の楽団付で弁士のいない活劇のような、ユーモアを映し出すドラマが展開される。
そこの入場券を手にしたものは、静かな観客として取り込まれるだろう。
幼い頃に味わった、甘美で深遠なエロティシズムを思い出し、懐かしむ為に。
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