rock_et_nothing

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遠くに稲妻の走る一見牧歌的な絵画、ジョルジョーネ:テンペスタ

2011-08-11 23:35:43 | アート
  テンペスト(嵐)

イタリア・ヴェネツィアで活躍した、盛期ルネサンスの夭折の画家ジョルジョーネ。
彼の代表作”テンペスタ”(嵐)は、その画面の密度にそぐわない小ぶりな作品だ。
ヴェネツィアのアカデミア美術館に、何気なく飾られていた。
真冬の曇り日の白く冷たい光が満ちたようなその展示室に、ひっそりとその作品はあった。
急いで観て回っていたなら、作品の印象で勝手に思い描いていた大きさとは違う、見落としそうな小さな作品。
だから、思いもかけないでふっと目の前に現れて、不意を衝かれたように驚いてしまう。

”テンペスタ”には、唐突に、稲妻と、乳を赤子に含ませている裸婦と、槍を持った兵士が、三角形を形作っている。
意味を考えると、何かの寓意か、それとも構図上の分かりやすいポイントとしてそれぞれのモチーフを配置させたのか、様々な解釈が出てこよう。
絵を読み解くのも面白いが、その画面の美しい構成を、絵から漂ってくる雰囲気を、味わうだけでも充分な絵だろう。
土や建物に兵士の赤い服の暖色系の色と、岩の陰から草木の緑に空の雷雲の寒色系の色が、ジグザグに絡み合い、兵士と母子の衣服や布と稲妻の白が、そこに点となり三角形を浮かび上がらせている。
または、兵士と母子の表情を見るのも面白い。
意外と穏やかな顔をしているのだ。
色の交差、点と線、人の表情など、見るべきものがたくさんある。
それが多すぎず少なすぎないバランスが、鑑賞者を飽きさせない絶妙さがある。
説明していない、想像を刺激する素材を与えつつ、絵を描くとは、ジョルジョーネ、只者ではない。
そういう意味で、異色の画家といってもいいのではないか。

彼の押し付けがましくない絵に、深く魅了されている。
このスタンスを自分も見習いたいと、常々思っている。
ぎりぎりナンセンスと袂を分かち、描き出す詩情の世界。
素晴しきかな、ジョルジョーネ!

今夜は、美しく輝く月と涼しい夜風に、遠雷が鳴り続ける。
ジョルジョーネ的夜だ。

 田園の楽奏