rock_et_nothing

アートやねこ、本に映画に星と花たち、気の赴くままに日々書き連ねていきます。

藤の花は、妖艶な年増の女性

2011-05-08 23:43:35 | 植物たち
今日は、5月らしいからりと暑く晴れた日だった。
小さい人が、家人と田んぼへの散歩の帰り道、藤の花を一房摘んできた。
「藤の花」、なんとも妖艶かつ隠微な香りを強く放つ。
熟れた年増の色香を纏った女といった、雰囲気を持っている。
この香りに気が付いたのは、なんと昨年、家人に言われてだった。
迂闊にも、藤棚に咲き誇る藤の花を幾度も愛でる機会があったのにもかかわらず、あの強烈な香りを感じることがなかったとは。

香水で、ディオールの名品に「プワゾン」Poisonがある。
藤の花の香りとその香水のイメージが、重なるのだ。
豪奢で妖艶な女性が身に纏う香りで、周りの者たちを酔わせて虜にしてしまう。
その香りには、ほんの少しの毒気が含まれている。
安全なものが、人を惹き付けて離さない魅力が乏しいのは、恋をしたことのある誰しもが思い当たるのではないだろうか。
ジャン・デルヴィル夫人の肖像

自然の野山に自生する藤の花は、木々に巻きつき、旺盛な生命力で見事な花の房で山を彩る。
しかし、巻きつかれた木は、次第に締め上げられ、終いには枯れてしまう。
まるで、ファムファタール(運命の女)のようではないか。
その香気で虫を誘き寄せ、種子をつくり、風に乗せて遠くへと送り出す。
なにやらそう考えると、藤の花が恐ろしく思えてきた。
こうしてみると、藤についていろいろ思いを巡らすこと自体、すでに藤の香気に憑りつかれてしまったのだろう。
なんと強く魅力的なその香りよ!