ロビンソン本を読む

本とデザイン。読んだ本、読んでいない本、素敵なデザインの本。

なにかが首のまわりに

2019-09-10 17:57:30 | 日記
チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ『なにかが首のまわりに』




 美しい黒人女性の横顔が描かれたカバー。

 右端、縦にまとめられたタイトル、著者名などは、イラストに比べて控えめなのに、不思議なほど可読性がいい。

 本を開く。

 袖に著者の写真があり、ハッとするほどの美人。カバーのイラストは著者なのだろう。


 12の短編。

 舞台はナイジェリア、またはアメリカ。

 家族、夫婦、恋人、友人、見知らぬ他人との関係を、ピンセットでそっと言葉を並べるように描いていく。

 人と人は分かり合えるのか、それとも理解できないものなのか。

 少々、悲観的な見方をしているようにも感じる。

 それは、著者がアフリカ出身で、黒人で、女性ゆえに受ける、他人からの眼差しや、言葉の端々に感じる差異に気づいてしまうからだろう。

 著者のそんな繊細さの表れた物語。


 「アメリカ大使館」は、ナイジェリアのアメリカ大使館で、難民ヴィザの申請をする女性の話。

 迫害された証拠が必要だと言う担当者に、女性は不信感を募らせる。

 「…おそらくヤシ油で料理などしない人、しぼりたてのヤシ油が鮮やかな、鮮やかな赤色をしていて、時間がたつと凝固して、ごつごつしたオレンジのようになる、そんなことさえ知らない人だ」

 とはいっても、相手も血の通った人間、本気になって話せば、こっちのことを理解してくれるのではないか、そんな考えは甘いのだろうか。


 カバーデザインは鈴木成一デザイン室、装画は千海博美氏。(2019)

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穴の町

2019-09-02 17:24:20 | 日記
ショーン・プレスコット『穴の町』



 表紙は白と黒の2色。

 右半分が黒の楕円で覆われ、それは背を越え、表4のほとんどを埋め尽くしている。

 中には、白抜きで『穴の町』とタイトルが入っている。

 残り半分の白地には、死人のような真っ黒な目をした人物が2人。

 白い帯には、細く赤い文字が、呪文のように横たわり、その上に黒のゴシックでひとこと「町が消える。」。

 SFっぽいのか、ホラーなのか。

 恐ろしい顔をした本だが、読み始めると、かなり違った感触で、いろいろ考えさせられる物語だった。


 その町にやってきた男は、消えゆく町について執筆している。

 知ってか知らずか、その町も、やがて消えていく運命にあった。

 町の住人らに話を聞く男。

 彼らの話は興味深い。

 そして誰もが、確実な拠り所のない人生を送っているとわかる。

 話を聞いている男も、どこからやってきたのか本人もわからず、浮遊感の漂う人生だ。

 男は、スーパーマーケットで働く。町を離れ、ホームレスに堕ちそうになり、また同じ職を得る。

 堕ちていく友人を支えながら、踏みとどまっている。

 小さな杭で、流されないように、なんとか自分の居場所を見つけようとするかのように。

 広大なオーストラリアが舞台なのに、どこにいても風通しが悪い。

 徘徊する思考を止めるには、出口を見つけるのではなく、探すのを止めてしまった方が簡単だ。

 穴に落ちるとは、そういうことだろうか。


 装画はタダジュン氏。(2019)


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リーチ先生

2019-08-26 18:14:48 | 日記
原田マハ『リーチ先生』




 ハードカバーの本を買い、読まずにいるうちにその文庫本が出てしまうと悔しい。

 文庫用にデザインが一新されていればまだいいが、まったく同じ装丁だと少しがっかりする。

 書店で、平積みされた『リーチ先生』の文庫本を見つけた時も同じ。

 大事にしすぎて食べ頃を逸した、高級マンゴーを前にしているような気分。

 すぐに分厚く重い本を棚から出した。


 カバーは、明るい赤い地に、四角く窓が切り取られている。

 その中に描かれた素朴な動植物と、古い雰囲気の書体。

 全体に、リーチ先生が生きた、1920年代に存在したであろう書籍を思わせる。


 タイトルの「リーチ先生」とは、バーナード・リーチのこと。

 名前は知っているが、その人生は、ほとんど知らない。

 民藝運動とどんな関わりがあったのか、そんな興味を持って読み始めた。


 小説という形を取っているので、多少の脚色はあるだろうと思っていた。

 記録に残っていない会話、日常の些細な出来事、それに対する思い。

 作家の想像力がそこに注がれる。

 ところが、読んでいる途中で気になったことがあり、調べた事実に愕然とした。

 この小説の中で中心人物の一人、リーチ先生の弟子が、実在しないらしいのだ。

 固いコンクリート造りだと思っていた橋が、砂で造られていたと知らされたほどの衝撃だ。

 この小説は、どこまで信じていいのだろう。


 ただ、歴史的事実を確認しようなど考えず、気楽に読むには面白い。

 悪人が登場せず、師弟愛は涙を誘うのだから。


 装丁、装画は佐藤直樹氏。(2019)
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小鳥たち

2019-08-19 18:28:35 | 日記
アナイス・ニン『小鳥たち』




 カバーは半透明の薄い紙で、真ん中にキラキラ光る植物(?)の絵。

 蕾のような、開いた花のような、細い葉のような不思議な形をしている。

 カバーを外すと、表紙の同じ場所に、より繊細な線で同じ形の絵が現れる。

 柔らかい産毛のような。

 これは鳥の毛なのか。

 タイトルの『小鳥たち』から、そう考えてみる。

 ページのあちこちに鳥の羽が舞っている。


 エロティックな13の短編。

 「まえがき」に、困窮した作家が、お腹ぺこぺこの状態で書いたとある。

 金銭のために書かれた、エロティシズムに焦点を当てた物語は、自然ではなく、娼婦めいたものになってしまうという。

 そんな言い訳めいた説明が、興を削ぐどころか、むしろ期待を抱かせる。


 いくつかは、画家とモデルの話。

 必要最小限の状況説明と、大胆な性の描写。

 しかし、欲情目的の陳腐な小説とは異なり、どれも不思議と品がある。

 エロスを排したら、アナイス・ニンはどんな文章を書くのだろう。


 装丁、装画は柄澤齊氏。(2019)


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酸っぱいブドウ はりねずみ

2019-08-13 17:18:41 | 日記
ザカリーヤー・ターミル『酸っぱいブドウ はりねずみ』




 カバーを広げると、街が広がる。

 実際には、左端のタクシーが見えるようになるだけだが、茶色の大地、青い空、その先の何もない空間が見えてくるような気がするのだ。


 舞台となるのはシリアの街。

 覚えにくい名前の住人たちが、59もの短編に次々と登場する。

 短いものは1ページにも満たない。

 そこに綴られる日常生活は、不意に暴力が現れ、死人が出る。

 これはシリアの現実を反映しているのだろうか。

 ところが死者は、生者と同じように意識がある。

 死が怖いものとして語られない感覚は、よほど死が身近にないと生まれないのではないか。
 

 カバーに描かれた街と様々な人々。

 行き先も行動もまちまち。

 立ち止まり人と話している人、じっと他人を見ている人、いままさに殴りかかろうとしているかに見える人もいる。

 抜け目ない表情が、表面からではわからない何かに注意せよと告げている。

 
 書かれていることだけがすべてではない。

 物語は、文字通り受け止めるのではなくて、感じないと伝わってこない。

 子供が語る『はりねずみ』の方が、無邪気なだけに、些細な違和感が際立って見える。


 装画はしおたまこ氏、装丁は緒方修一氏。(2019)


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