新元號に 惟ひ致す。
航海中、船中での 唯一 外部からの情報源は BBCニュース衛星放送である。
四月一日の發表は たまたま乘船中の日本人コーディネーターが毛筆で墨書した掲示板で知る。
一瞥して、『りょうわ』だと承知した。
神戸に下船して 巷の音聲を聴くと、なんと 「れいわ」だと謂う。
なれば、菅 義偉官房長官の掲げる筆書は 「マ令」なのかと納得した。
歸宅して 新聞その他を精査するに;
出典は 萬葉集巻第五 梅花謌卅二首 幷序 (岩波書店・日本古典文學大系によると 筆者については、大伴旅人、山上憶良、等 諸説ありと。)
天平二年正月十三日、萃于帥老之宅、申宴會也。
于時、初春令月、氣淑風和、梅披鏡前之粉、・・・
であると。 即ち、 太宰(だざい)帥(のそつ)大伴卿宅で 梅花の宴が催されたのが天平二年、西暦730年の事で、大伴淡等(旅人)六十六歳。 翌731年に歿する。
吉備眞備が 二十年に及ぶ長安滞在を切り上げて歸朝したのが、五年後の西暦735年。
四十年後、眞備歿年に空海誕生。
弘法大師空海が 留學生(るがくしょう)として長安に渡り、傳法灌頂を授かって歸朝したのが
西暦806年。 随って 旅人の時代は 「呉 音」一色で、「漢 音」が導入される以前の作である。
大修館・大漢語林(初版)を索(ひ)くと、「令」はあるが、「マ令」は見當たらない。
しかし、筆順の説明に 「マ令」が遣はれてゐる。
貝塚茂樹 角川 漢和中辭典には「令」のみで「マ令」についての説明も言及もない。
手許にある最古の漢和辭典である 三省堂昭和二年初版 宇野哲人 明解漢和辭典も同様。 なれば, 日本には 「マ令」は存在しないのか?
野口國民學校で 擔任の阿部静子先生に、『命令ハ「マ令」、聯合艦隊司令長官ハ「令」』だと教はった 慥(たし)かな記憶あり。
岩波・廣辭苑(第四版)やいかに? 「りょう」も「れい」も総て「令」で印刷されてゐる。
小學館・大辭泉(第一版初刷)も また然り。
岩波・古語辭典(大野 晋)には 「律」はあるが、「りょう」も「れい」もない。
日本の凸版印刷(株)で刷られた小學館發行 北京・商務印書館編集 中日辭典には
なんと ling として「マ令」あり。 逆に 「令」は 記載なし。
同じく 凸版印刷 愛知大學編集 大修館 中日大辭典には ling「マ令」括弧して(令)の記載あり。
北京第二新華印刷廳印刷 現代出版社 漢英小詞典には ling 「マ令」 command, orderとある。
元々 支那の源字は「マ令」であって、いつの頃か 日本で これを「令」に置き換へたと考へられる。
畑 や 畠 同様、漢字ではなくて 倭字だと考へるべきであらう。
爲念、日頃 全く使ったことのない、清水書院發行 山岸徳平編「清水國語辭典」
(昭和四十四年初版、 横山印刷(株)印刷、 凸版印刷(株)製本)を索いてみた。
ありました。 寔に明解。
「律令」(りつりょう)、「律マ令」(りつれい)、「令旨」(りょうじ)、「マ令」(れい)
「マ令旨」(れいし)。
加へて、「當用漢字改訂音訓表」の中に、「マ令」が 「レ イ」として記載されてゐる。
「マ令」が「漢 字」であり、「令」は 「國 字」だと謂う事になる。
出典が 「國 書」なら 文字も 「國 字」たるべし。 しかし 天平二年、わが國には 漢音は未だ導入されてをらづ、「呉音」一色の時代である。
確信を得た。
字畫は 「令 和」。 そして 訓(よ)みは 呉音で、自分一人だけの爲に
『りょうわ』としよう。
因みに BBCの報道は、「order and peace」であったが、 政府は後に
“beautiful harmony” の英譯を公表した。
The Japanese government announced on April 1 that the country’s new imperial era name will be “Reiwa”.
The name was taken from “Manyoshu”, the oldest collection of Japanese poetry.
The Reiwa era will begin on May 1.
Many Japanese showed a positive reaction after hearing that it is the first era name chosen from a Japanese classic instead of a Chinese one.
Some foreign media reported Reiwa’s two Chinses characters mean “order” and “peace” but the government later gave the translation as “beautiful harmony”. (source Tokyo Shinbun)
(2019/04/20)