欧米の原子力企業が引退したエンジニアや年配の経験者を大量に呼び戻そうとしている。今後相次ぐ新プロジェクトに対応するために、技能の空白を埋めようとしている。
ロシアによるウクライナ侵略を受けてエネルギー安全保障への不安が広がり、各国が新規建設を計画している。
近く新規原子炉が稼働する発電所で働くフランス電力公社の従業員(4月、仏フラマンビル)=ロイター
1950年代後半に始まった原子力業界の黄金時代は、86年のチェルノブイリ原発事故を機に衰退に転じた。2011年の東京電力福島第1原発事故も落ち込みに拍車をかけた。
フランス電力公社(EDF)の元エンジニア、ジャンマルク・ミロクール氏(69)は19年の退職後、入札などについて同社に助言している。
「私たちの経験を共有しないのはもったいない」。ミロクール氏は90年代後半、EDFが最後に稼働させた原子炉の立ち上げに携わった。
フランスでは2024年夏、25年ぶりに新しい原子炉が稼働する。予定より12年遅れた要因の一つは、欧米諸国で原発の新規建設が下火になり、サプライヤーを含めて技術力が失われたことにある。
対照的に中国では近年、建設能力が徐々に高まっている。国際エネルギー機関(IEA)によると、世界中で建設されている原子炉の3分の2以上をロシアと中国が占める。
米国も次世代の原子力技術の開発を進めている。米エネルギー省は、50年までに37万5000人の労働者が追加で必要になると推計している。
技術者不足はベビーブーム世代の退職が相次いでいることも一因だ。
仏原子力産業協会によると、フランスでは33年までに原子力の中核的な仕事に6万人のフルタイム雇用を追加する必要がある。
原子力の新興企業もシニアを活用している。英ロンドン、仏リヨン、伊トリノに拠点を持つ創業2年半の小型原子炉製造会社ニュークレオの最高科学責任者(CSO)は、75歳だ。
業界関係者によると、原子力は気候変動に関心を持つ若い世代を引きつけている。23年の「ミス・アメリカ」に選ばれた原子力エンジニアのグレース・スタンケさん(22)は、インタビューで「(90年代半ば以降に生まれた)Z世代の関心事は気候変動で、ほとんどの若者は原子力について話すことに非常にオープンだと思う」と語った。
米ミシガン大学原子力工学部のトッド・アレン学部長は、学生数の増加に伴い、各大学が原子力工学部に再び投資していると話す。
By Sarah White and Jamie Smyth
(2024年5月17日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)
日経記事2024.06.03より引用