スズキは60歳以上の再雇用社員の基本給を現役並みに維持する制度を導入
60歳以上で再雇用したシニア人材の収入を高める企業が増えている。
スズキは2024年から再雇用した従業員の給与を現役並みに引き上げた。日本精工やジーエス・ユアサコーポレーション(GSユアサ)も賃上げに踏み切った。待遇改善で優秀な人材を確保し、深刻化する人手不足に対応する。
21年施行の改正高年齢者雇用安定法で70歳までの就業機会確保が企業の努力義務となった。
ただ定年延長はまだ少なく、多くは再雇用となっている。シニア再雇用の場合、非正規となり給与も半分近くに減ることが多い。
スズキは60歳以上の再雇用社員の基本給を現役並みに維持する新しい人事制度を作った。
定年前と同じ内容の業務を担当してもらうことを条件に65歳まで再雇用し、基本給を維持する。60歳以上65歳未満の約1200人が対象となる。これまでは一律に給与を引き下げていた。
定年延長は役職や退職金などの面から企業にとって導入の負担が大きい。
スズキは定年延長についても検討中とした上で、「私生活も含めた環境変化を考慮し、現状の60歳定年制度の枠組みの中で改定した」という。
専門的な技術や知識にたけたシニア社員に意欲的に活躍してもらえるようにする。
再雇用者へのベースアップ(ベア)など賃上げの動きも広がる。
GSユアサは今春、再雇用者のベアを2年ぶりに実施。一律月1万4000円と、現役世代の社員と同額とした。日本精工もシニア社員のベアを8000円と、23年から2000円上乗せした。
人手不足は深刻だ。24年3月の有効求人倍率は1.28倍(季節調整値)とコロナ以降最高水準が続く。
日銀短観の雇用人員判断指数(DI)は24年3月調査時点でマイナス36と「不足」が「過剰」を大きく上回る水準で推移している。
少子高齢化で労働市場では50代以下の現役世代が減少し、バブル世代にあたる60代前後以上の比重が高まっている。
総務省の労働力調査によると、23年は60歳以上の働く人は前年から14万人増え1468万人で、就業者全体の21.8%を占めた。65〜69歳の就業率は前年比1.2ポイント増の52%と過半を超え、今後も上昇する見通し。
企業にとってはシニア人材の活用は不可欠になっているが、再雇用で待遇が下がることで働きがいがなくなるという課題を抱える。物価上昇もあり、賃金で報いることがつなぎ留めに不可欠となっている。
再雇用制度を見直す動きもでている。伊藤忠テクノソリューションズは4月から3つの等級制を取り入れた。
これまでは一律で給与を引き下げていたが、フルタイムで働ける再雇用者は正社員と同水準の給与とし、約200人が対象となった。 働ける期間を延ばす動きもでている。
住友電設は23年末に、70歳までとしてきた再雇用上限年齢を撤廃した。
東北電力は25年度以降、65歳としていた雇用上限年齢を段階的に70歳に引き上げる。熟練者が長く働けるようにする。管理職への登用も可能とし、管理職には手当も支給する。
トヨタ自動車は8月以降、一部にとどまっていた65歳以上の再雇用を全職種に広げる。電気自動車(EV)シフトなどへの対応で生産・開発現場の専門人材が不足する中、シニア層に実務や若手の育成に携わってもらう。