ちぎれ雲

熊野取材中民俗写真家/田舎医者 栂嶺レイのフォトエッセイや医療への思いなど

台風12号災害から知ったこと 1)扇状地地形は危ない

2013-10-31 | 危機管理と災害
 2011年9月に紀伊半島を襲った台風12号大災害から、もう2年が経過してしまいましたが、せっかく色々思い出したので、当時ブログに書こうと思ってそれきりになってしまっていた記事をいくつかアップしたいと思います。当時、土石流&河川氾濫の災害地を歩いて気づいたこと・わかったことなどです。

1)扇状地地形は危ない

 2011年台風12号では、有名な那智の滝(那智勝浦町)のある那智川流域は、何本もの土石流が発生し、土石流が川を塞き止めたことで河川が氾濫し、土石流+水害という大規模な災害域になってしまいました。
 町長のご自宅も土石流に呑まれ、よりによってその日結婚式当日だったというお嬢さんを含むご家族を失うという(でも町長だから町全体の災害対策の指揮をふるわなくてはならず、自宅に駆けつけることも、ご家族の救助捜索に加わることもできなかったという)気の毒というか壮絶というか何と言っていいか、未だに忘れることができません。

 私が那智川流域に入ったのは、災害の1週間後だったのですが、一歩踏み入れた時の印象は、「まるでそこらじゅうに爆弾が落ちたみたいだ」

 谷の右からも左からも土石流があり、まだ山が崩れ動く時の土や泥水の臭いがたちこめるような(まだそこらじゅうに爆弾の火薬の臭いが残っているような)嫌な雰囲気があり、私の頭の中のキケン察知本能が「今すぐこの場から離れろ」信号を送ってきます。山登りをやる人の例えで言えば、まるで「雪崩の巣」に入ったみたいな。その中を自衛隊の人々や車両が行きかい、本当に戦場のよう、不謹慎な言い方ですが、まるで日本ではないみたいでした。

 そこで私が衝撃(?)を受けたのは、土石流の跡(土砂の堆積)がすべて扇状地になっていたことでした。
 あそこも、ここも、こっちの家が半分埋まってる土砂も、町長のご自宅があったはずの宅地を埋めている土砂も、ぜーんぶ扇状地。
 キケン本能が頭の中でチカチカしている中で、それとは別に小学校の時に習った「扇状地は水はけがよい」「果樹園に向いている」「扇状地の端では湧水」……という教科書の文章が次々に頭に浮かんできます。

 扇状地とは、上流の大規模な土砂崩壊によってできた地形なのでした。
 果樹園に適したほのぼのと広がる丘の上、というイメージでいたので(そんなイメージ、私だけか!?)、今さら認識した事実にショックを隠せませんでした。

 扇状地は災害地形なのだ。


昨日アップしたのと同じ写真ですが、家々を飲み込んで扇状地地形に広がる土石流堆積。

 今さらWikipediaなんかを検索してみても、「扇状地が形成される条件には、上流に土砂生産が活発な山系(大規模な崩壊地や地すべり地)が広がっていることがある。したがって、扇状地における土地利用には、集中豪雨時の土砂災害発生のリスク、天井川化した河川からの洪水発生のリスクを抱えることになる。」って書いてありますね。(引用Wikipedia:http://ja.wikipedia.org/wiki/扇状地

 調べてみると、扇状地における災害予防について、いろいろ研究がされているんですね。
 例えば、
扇状地における土砂災害の実態に関する研究 ー主として、土石流による土砂の流出と堆積の特性についてー

扇状地における土砂氾濫災害危険度の評価

 調べるといっぱい出てきます……。


 そして、これはまた章を改めて書きますが、「一旦崩壊堆積した土砂は、年月が経過しても、あまりその地形を変化させない」 これは、2年経過して、先日私が金山の土石流跡を再調査に行ってわかったことです。(11/5追記:書きました→「台風12号災害から知ったこと 5)災害後の地形は簡単には変わらない」)土石流発生直後は、水や空気をたくさん含んでやわらかい堆積物になっているので、2年も経過すれば、土砂がしまってきたり、ある程度の雨や水流で浸食されて、ちょっとは地形が変わるかと思っていたのですが、全然そうじゃないことがわかりました(その土地の地質にもよるでしょうけれども)
 つまり、扇状地の形に堆積した土石流は、次に再び地形が変わるような大災害が起こるまで、その形を維持する、ということです。

 扇状地がたくさんある場所は、その上流域に崩壊地や地滑り地があるのだという指標になるかもしれません。

 また、扇状地の上は一見快適な土地に見えて、災害地形であるという認識が必要かもしれません。
 田舎のちょっとした小さな扇状地でも、上に家々がたくさん建っていますが……。
 認識のあるなしでは、避難のしやすさも違ってくるかもしれません。


 台風12号から2年経過した現在、当時土石流の堆積で扇状地になっていた場所は、すべて土砂が撤去され、大規模なコンクリートの砂防ダムが建設されていました(多くは今も建設工事中)

 砂防ダムで大丈夫?(すぐに土砂で埋まっちゃったり、また崩れたりするんじゃ??)とつい思ってしまったりしましたが、堆積土砂の上に畑を作ったり家を建てたりするよりははるかにいいんだろうなあと思った次第です。



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