さてその後、お歌の時間が終わると自由時間になったらしく、
子ども達が雪崩の如く一斉に教室から飛び出した。
その雪崩が行ってしまうと、僅かに残った数人がすごろくのボードを広げ始めた。
「紅楼くんはこういう時どうだった? 外で遊んでた? 中で遊んでた?」
その数人を眺めながら香さんが僕に尋ねる。うーん、どうだったかな? 確か……
(僕が通ってた幼稚園では、ホールになんと言うか……
大きな積み木みたいなのがあったんです。滑り台が取り付けられたりする。
だから室内でも皆と暴れ回ってたんですけど……)
「ですけど?」
うう、別の体だけど古傷が痛む。
(積み木をたくさん積み重ねて凄い急な滑り台を作ったんです。
で、服装が短パンじゃないですか。それで……
あまりに急すぎて摩擦で火傷したんです。太ももの付け根から尻にかけて)
ズボン脱いだら黒くなってたし、あれは痛かった。
「子どもならではだねー。加減を知らないって言うか怖い物知らずって言うか」
そう言ってくすくす笑う香さん。昔のこととは言え、ちょっと恥ずかしい。
(香さんはなかったんですか? そういう失敗とか)
「うーん、あんまりないかなぁ……。私もどっちかと言うと暴れ回るタイプだったんだけど」
(解る気がします)
すると、頭をぺこんと叩かれた。
「失礼だなぁ、ふふ。でもさ、そういうのってなんでか女の子は要領いいよねー。
男の子が怪我したとかはよく聞いたけど、女の子の怪我ってあんまり聞かなくない?」
(そう言えばそうですねえ。なんででしょう?)
あの頃は、それはもう「皆がお友達」感覚だったから、
男女問わずに「誰々が~」なんて話題は自然に入ってきた。
でも確かに、女子が怪我したとか何か失敗したとかはあんまり聞かなかったような。
お弁当の時間に転んじゃって中身を全部ばら撒いちゃったのも男の子だったし、
無理に高い所に上ろうとして落ちちゃったのも男の子だったし。
「不思議だねー」
どうやら女の子自身にも不思議なことらしい。
賑やかさに釣られるように外に出てみると、もうお祭り騒ぎだった。
遊具が設置されているところはもちろん、
何もないグラウンドの中心部分まで子どもでいっぱい。
「この頃って何やっても楽しかったなぁ。
ルールも何もなしにただ友達と走り回ってるだけでも」
出てすぐの段になってる所に腰掛け、香さんは懐かしそうにあたりを見回す。
(そうですねぇ。へんてこな遊び考えたりとか)
「例えば?」
(地面に丸を書くんです。その中は無敵地帯で、あとはただの鬼ごっこですよ。
だったらずっとその中に居たらいいんですが、不思議とそこには気付かないんです。
疲れた時にわざとらしくはぁはぁいいながら『無敵ターイム!』
なんてやったりするだけで)
終わった頃には無敵地帯が五個ぐらいに増殖したりもしてたような。
「今では味わえない楽しさだよねー。頭使わずにノリだけで全部済ましてる感じとか」
(年寄りが子ども眺めて微笑んでる感じですか、今の僕らって)
すると香さんが急に立ち上がった。落ちそうになる僕。
「いいやまだまだ年寄りだなんて! 私ちょっと混ざってくる!」
(ええ!? な、何するつもりですか!?)
それには答えず、ずんずん進む。その先には、砂場。
(な、何してるんですか?)
目の前では、水路建設中の男の子のお尻がふりふり。その背後で山を作る香さん。
「トラップ」
香さんの目が光る。そうしてどう見てもただの山でしかないトラップが完成。
一応誰も気付いてないようだ。砂場の隅っこだし、皆子どもらしく目の前の遊びに夢中だし。
(あれがどうトラップなんですか?)
二歩ほど下がった所で様子を窺う香さんに訊いてみる。
「もうちょっと待っててねー」
教えてもらえなかった。
暫らくすると、水路が広がってきたのか座ったままじりじり後退する男の子。
その背後には山。そしてついに、
「わわっ」
ヒット。山に突き出したお尻を押されて前に倒れそうになった男の子は、
持っていたスコップで地面を突く。
しかしその一突きは水路に崖崩れを起こしただけで男の子の体重を支えきれず、
男の子もろとも水路に落下。隣で別の水路を作っていた男の子がそれを笑う。
「やった! これでぼくのほうがすごくかってるぞ!
あっくん、くずしちゃったからつくりなおしだよ~」
どうやら水路の長さを競っていたらしい。香さん、非道いなぁ……
子ども達が雪崩の如く一斉に教室から飛び出した。
その雪崩が行ってしまうと、僅かに残った数人がすごろくのボードを広げ始めた。
「紅楼くんはこういう時どうだった? 外で遊んでた? 中で遊んでた?」
その数人を眺めながら香さんが僕に尋ねる。うーん、どうだったかな? 確か……
(僕が通ってた幼稚園では、ホールになんと言うか……
大きな積み木みたいなのがあったんです。滑り台が取り付けられたりする。
だから室内でも皆と暴れ回ってたんですけど……)
「ですけど?」
うう、別の体だけど古傷が痛む。
(積み木をたくさん積み重ねて凄い急な滑り台を作ったんです。
で、服装が短パンじゃないですか。それで……
あまりに急すぎて摩擦で火傷したんです。太ももの付け根から尻にかけて)
ズボン脱いだら黒くなってたし、あれは痛かった。
「子どもならではだねー。加減を知らないって言うか怖い物知らずって言うか」
そう言ってくすくす笑う香さん。昔のこととは言え、ちょっと恥ずかしい。
(香さんはなかったんですか? そういう失敗とか)
「うーん、あんまりないかなぁ……。私もどっちかと言うと暴れ回るタイプだったんだけど」
(解る気がします)
すると、頭をぺこんと叩かれた。
「失礼だなぁ、ふふ。でもさ、そういうのってなんでか女の子は要領いいよねー。
男の子が怪我したとかはよく聞いたけど、女の子の怪我ってあんまり聞かなくない?」
(そう言えばそうですねえ。なんででしょう?)
あの頃は、それはもう「皆がお友達」感覚だったから、
男女問わずに「誰々が~」なんて話題は自然に入ってきた。
でも確かに、女子が怪我したとか何か失敗したとかはあんまり聞かなかったような。
お弁当の時間に転んじゃって中身を全部ばら撒いちゃったのも男の子だったし、
無理に高い所に上ろうとして落ちちゃったのも男の子だったし。
「不思議だねー」
どうやら女の子自身にも不思議なことらしい。
賑やかさに釣られるように外に出てみると、もうお祭り騒ぎだった。
遊具が設置されているところはもちろん、
何もないグラウンドの中心部分まで子どもでいっぱい。
「この頃って何やっても楽しかったなぁ。
ルールも何もなしにただ友達と走り回ってるだけでも」
出てすぐの段になってる所に腰掛け、香さんは懐かしそうにあたりを見回す。
(そうですねぇ。へんてこな遊び考えたりとか)
「例えば?」
(地面に丸を書くんです。その中は無敵地帯で、あとはただの鬼ごっこですよ。
だったらずっとその中に居たらいいんですが、不思議とそこには気付かないんです。
疲れた時にわざとらしくはぁはぁいいながら『無敵ターイム!』
なんてやったりするだけで)
終わった頃には無敵地帯が五個ぐらいに増殖したりもしてたような。
「今では味わえない楽しさだよねー。頭使わずにノリだけで全部済ましてる感じとか」
(年寄りが子ども眺めて微笑んでる感じですか、今の僕らって)
すると香さんが急に立ち上がった。落ちそうになる僕。
「いいやまだまだ年寄りだなんて! 私ちょっと混ざってくる!」
(ええ!? な、何するつもりですか!?)
それには答えず、ずんずん進む。その先には、砂場。
(な、何してるんですか?)
目の前では、水路建設中の男の子のお尻がふりふり。その背後で山を作る香さん。
「トラップ」
香さんの目が光る。そうしてどう見てもただの山でしかないトラップが完成。
一応誰も気付いてないようだ。砂場の隅っこだし、皆子どもらしく目の前の遊びに夢中だし。
(あれがどうトラップなんですか?)
二歩ほど下がった所で様子を窺う香さんに訊いてみる。
「もうちょっと待っててねー」
教えてもらえなかった。
暫らくすると、水路が広がってきたのか座ったままじりじり後退する男の子。
その背後には山。そしてついに、
「わわっ」
ヒット。山に突き出したお尻を押されて前に倒れそうになった男の子は、
持っていたスコップで地面を突く。
しかしその一突きは水路に崖崩れを起こしただけで男の子の体重を支えきれず、
男の子もろとも水路に落下。隣で別の水路を作っていた男の子がそれを笑う。
「やった! これでぼくのほうがすごくかってるぞ!
あっくん、くずしちゃったからつくりなおしだよ~」
どうやら水路の長さを競っていたらしい。香さん、非道いなぁ……
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