(有)妄想心霊屋敷

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リテイク Scene14 「手」

2007-05-24 18:28:21 | リテイク
長さを競ってた割に曲がりくねってたりして非効率的なのは、
また子どもであるが故の遊び心なんだろうな。そもそも効率なんて考えてないんだろうけど。
「も~。こんなところにやまつくったのだ~れ~?」
足と手についた砂をぱんぱんと払いながら恨めしそうに背後の山を見る、転んだ子ども。
もちろんそこには誰も居ない。少なくともこの子の視覚上は。
(ちょっと可哀想じゃないですか? 香さん)
「いや~……まさかここまでの結果になるとは思わなくて」
その誰も居ない筈の空間でそんなやりとり。
男の子が作った水路は跡形もなくぐちゃぐちゃになってしまっていた。
それを見下ろし、ぽりぽりと頭を掻く香さん。
(手に砂ついたままじゃないですか?)
「あっ」
ばちが当たりましたね。

その後、めげずに水路建設を再開する男の子に一度謝ってから、その場を離れる。
そしてグラウンドの隅にある、高さ3メートルくらいの山のてっぺんで座り込んだ。
すぐ隣を、上に登っては走り降りる、という行為を繰り返している男の子数人が通過する。
(僕、降りときましょうか?
 見えないままぶつかられるよりはその方がいいと思うんですけど)
ぶつかられて地面に落とされた挙句、そのまま踏まれたりすることを考えるとゾッとするし。
「そう? でも大丈夫かなぁ。
 見つかったら見つかったでオモチャにされたりとかしないかな?」
(それでも今のままよりは安全でしょうし)
よく考えたら香さんに移動してもらえばいいんだけど、
まあ子ども見て嬉しそうだしいいか。でも現れる瞬間を見られるのは不味い。
ということで、子どもが全員山から降りるタイミングを待って……今だ!
香さんの肩から飛び降り、地面に着地。
その直後、一番に登ってきた男の子が僕を見つける。
「カラス! みんな! カラスがいるー!」
その声に、後から登ってきた数人がひょっこりと顔を出した。
「あ、ホントだ」
「うわー、こ、こわい……」
山のてっぺんで仁王立ちの僕に、男の子達は立ち止まった。
どうしよう、お邪魔かな? とここから移動しようか考えていると、
最初に登ってきた男の子が一歩、踏み出してきた。
「カラスなんかこわくないって! ぼくがつかまえるからみてて!」
捕まえるところを見てもらってなんの意味が?
なんて野暮な突っ込みはやめておこう。相手は子どもだし。
山の途中から覗く子達の緊迫した視線を受けて、じりじり近寄ってくる男の子。
僕は特に動きを見せない。その僕にそろ~っと手が伸びてきて……
「うわっ!」
何もしてないのに、触れた瞬間に手が引っ込められた。そして再度チャレンジ。その結果、
「つ、つかんだ!」
掴まれた。そして持ち上げられて、覗いていた子達のほうへ連れ去られる。
後ろから香さんのくすくすと笑う声が聞こえてくる。
多分また可愛いとか思われてるんだろうな。
「すごい!」
「ぼくもさわっていい?」
てな感じで次々伸びてきた手は、最初はそろそろ。
そしてだんだん痛いくらいになっていき、最終的には、
触ってるんだか押してるんだか殴ってるんだか解らないくらいもみくちゃにされた。
「おとなしいね、このカラス」
「そうだね。よくみたらかわいい?」
「けどなんか、ぐったりしてない?」

自由時間が終わって子ども達は教室に戻っていく。
「大丈夫? 紅楼くん」
置いて行かれて地面に伏した僕を、香さんが拾い上げる。
(笑顔で心配されると、余計元気がなくなりますよ……)
「そう? でも『ずっと笑っていてください』って言ったの紅楼くんだしさー」
それは……そうなんですけど。
(わ、解りましたよ。ならそれはもういいですから、
 少しこのままぐったりさせてくれませんか。もう肩に停まる体力もないですよ……)
「あはは。じゃあ暫らくの間、お休み」
膝の上に胴体着陸。多分今、鳥の死骸みたいになってるんだろうなぁ。
あ、もちろん生きてるよ? ギリギリな気もするけど。恐るべし子ども。
(香さん)
「何かな?」
(手を乗せてもらっていいですか? 布団代わりってことで)
「野生動物は身一つなんじゃなかったのかな? ……うそうそ。はい、これでいい?」

ああ、やっぱりこの手が一番だなぁ。……子どもの手の後だと、一層強くそう思う。


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