(荷物増えちゃいましたね)
「平気平気このくらい」
丸めた毛布と枕をまとめて縛って肩に担ぐ香さん。
(僕、歩きましょうか?)
平気って言っててもやっぱり女の子にだけ荷物もたせてるのは……
かと言って代わりに持ってあげることもできないし、ならせめてそれくらいは。
「あはは。紅楼くんと私じゃあ歩幅が違いすぎるよ。無理しなくてもいいって」
香さんはそう言ってくれたけど、僕は無視して肩から飛び降りた。
そして、「歩幅が違うなら次の足を早く出せばいいのさ!」と言葉ではなく体で表現する。
とてててててててててててて……
香さんと同じスピードで歩こうとすると、早歩きになってしまう。
……と思ったらあれ? 必死になってる間に、香さんが隣に居ない……?
「ぷっ……あっはははははは!」
少し離れた後方からの盛大な笑い声に振り返ると、香さんが腹を抱えて爆笑していた。
(ど、どうしました?)
毛布を落としそうなほど前のめりになって笑い続ける香さんに、ゆっくり近づく。
「ぷぷっ……だだ、だって紅楼くん、お尻フリフリして……
くくっ、か、可愛すぎて、あっはっはっはっは!」
(……ごめんなさい。肩に乗せてください)
それから香さんの肩に揺られること三分ほど。
「はい到着! ここが私の家だよ。それにしてもさっきの……くくくく」
(も、もういいですよそれは)
いかに面白く思っているかを体の振動で十二分に嫌というほど感じさせられる。
今度から自分で歩くことがあったら、香さんの後ろについて行こう……
「紅楼くん、ドアは通れるのかな?」
(すり抜けられるかってことですか?
昨日おじさんにぶつかったし、無理だと思いますけど……)
それでも一応「ものは試しだ」と、とりあえずそのままドアに向かっていく。
まずは毛布がドアに……ぶつからずにすり抜けた。まあそうじゃなかったら大変だよね。
物が通り抜けられないなら、香さん服脱がなきゃドアに引っかかっちゃうし。
そして香さんがドアに触れるのと同時くらいに僕のくちばしが……
コン。
(痛っ)
やっぱり駄目でした。残念。
と言うわけで。
「ドア開けて入るわけにもいかないからさ、紅楼くんはここで待っててね。
すぐ戻ってくるから」
(はい)
肩から飛び降り、玄関口で待つことになった。
体を捨てれば僕だって物のすり抜けはできるけど、その間に体に逃げられたらもったいない。
結構この体気に入ってるしね。カラスくんには悪いけど。
……いや、そもそもこの体を洗う目的で銭湯に行くんだから体を捨てたら本末転倒か。
「ただいまー」
ずぶずぶとドアにめり込んでいく香さんの体と毛布。
そのめり込んだ先、家の中からは微かに話し声が聞こえる。
ご両親かな? あ、兄弟が居たりするのかも。戻ってきたら訊いてみよう。
タオル取ってくるだけだし、すぐだろう。
……と思っていたのに、なかなか出てこない。家の中からは相変わらず話し声。
そろそろ十分くらい経ったかな? どうしたんだろう?
痺れを切らしてドアの前をうろうろてこてことてとてしていると、やっと香さんが出てきた。
(時間掛かりましたね、どうし……)
首を持ち上げて香さんの顔を見た瞬間、僕は声が詰まった。
「あ、ごめんね紅楼くん。ちょっとね」
そう言ってぱっと晴れた顔になるまでの一瞬、香さんは悲しそうだった。
その落差に余計声が詰まってしまう。
「よいしょ……っと」
毛布と枕の間にタオルを詰め込み、それを再び肩に乗せる。
「じゃ、行こうか紅楼くん」
そのまましゃがみこんで手を伸ばす。僕は返事もせずにその手に身を任せた。
「いやー、実は父さんが帰ってきててねー」
また肩に揺られていると、「まいったなー」という感じで切り出してきた。
(帰ってきてたって?)
「うちの父さん、あんまり家にいられないんだ。あ、夫婦仲が悪いとかじゃないよ?
仕事の都合。近所でも評判のラブラブカップルだしねー。
見せ付けられる娘の身にもなれって言いたいくらいなんだよ?
電話とかしてても、もー耳塞ぎたくなるようなのろけっぷりでさー」
それだけ聞くといい話だけど……でも、ここから香さんの表情にちょっとだけ影が落ちる。
「でも……生きてる内に帰ってきて欲しかったなー、なんて思っちゃって。あはは……」
「平気平気このくらい」
丸めた毛布と枕をまとめて縛って肩に担ぐ香さん。
(僕、歩きましょうか?)
平気って言っててもやっぱり女の子にだけ荷物もたせてるのは……
かと言って代わりに持ってあげることもできないし、ならせめてそれくらいは。
「あはは。紅楼くんと私じゃあ歩幅が違いすぎるよ。無理しなくてもいいって」
香さんはそう言ってくれたけど、僕は無視して肩から飛び降りた。
そして、「歩幅が違うなら次の足を早く出せばいいのさ!」と言葉ではなく体で表現する。
とてててててててててててて……
香さんと同じスピードで歩こうとすると、早歩きになってしまう。
……と思ったらあれ? 必死になってる間に、香さんが隣に居ない……?
「ぷっ……あっはははははは!」
少し離れた後方からの盛大な笑い声に振り返ると、香さんが腹を抱えて爆笑していた。
(ど、どうしました?)
毛布を落としそうなほど前のめりになって笑い続ける香さんに、ゆっくり近づく。
「ぷぷっ……だだ、だって紅楼くん、お尻フリフリして……
くくっ、か、可愛すぎて、あっはっはっはっは!」
(……ごめんなさい。肩に乗せてください)
それから香さんの肩に揺られること三分ほど。
「はい到着! ここが私の家だよ。それにしてもさっきの……くくくく」
(も、もういいですよそれは)
いかに面白く思っているかを体の振動で十二分に嫌というほど感じさせられる。
今度から自分で歩くことがあったら、香さんの後ろについて行こう……
「紅楼くん、ドアは通れるのかな?」
(すり抜けられるかってことですか?
昨日おじさんにぶつかったし、無理だと思いますけど……)
それでも一応「ものは試しだ」と、とりあえずそのままドアに向かっていく。
まずは毛布がドアに……ぶつからずにすり抜けた。まあそうじゃなかったら大変だよね。
物が通り抜けられないなら、香さん服脱がなきゃドアに引っかかっちゃうし。
そして香さんがドアに触れるのと同時くらいに僕のくちばしが……
コン。
(痛っ)
やっぱり駄目でした。残念。
と言うわけで。
「ドア開けて入るわけにもいかないからさ、紅楼くんはここで待っててね。
すぐ戻ってくるから」
(はい)
肩から飛び降り、玄関口で待つことになった。
体を捨てれば僕だって物のすり抜けはできるけど、その間に体に逃げられたらもったいない。
結構この体気に入ってるしね。カラスくんには悪いけど。
……いや、そもそもこの体を洗う目的で銭湯に行くんだから体を捨てたら本末転倒か。
「ただいまー」
ずぶずぶとドアにめり込んでいく香さんの体と毛布。
そのめり込んだ先、家の中からは微かに話し声が聞こえる。
ご両親かな? あ、兄弟が居たりするのかも。戻ってきたら訊いてみよう。
タオル取ってくるだけだし、すぐだろう。
……と思っていたのに、なかなか出てこない。家の中からは相変わらず話し声。
そろそろ十分くらい経ったかな? どうしたんだろう?
痺れを切らしてドアの前をうろうろてこてことてとてしていると、やっと香さんが出てきた。
(時間掛かりましたね、どうし……)
首を持ち上げて香さんの顔を見た瞬間、僕は声が詰まった。
「あ、ごめんね紅楼くん。ちょっとね」
そう言ってぱっと晴れた顔になるまでの一瞬、香さんは悲しそうだった。
その落差に余計声が詰まってしまう。
「よいしょ……っと」
毛布と枕の間にタオルを詰め込み、それを再び肩に乗せる。
「じゃ、行こうか紅楼くん」
そのまましゃがみこんで手を伸ばす。僕は返事もせずにその手に身を任せた。
「いやー、実は父さんが帰ってきててねー」
また肩に揺られていると、「まいったなー」という感じで切り出してきた。
(帰ってきてたって?)
「うちの父さん、あんまり家にいられないんだ。あ、夫婦仲が悪いとかじゃないよ?
仕事の都合。近所でも評判のラブラブカップルだしねー。
見せ付けられる娘の身にもなれって言いたいくらいなんだよ?
電話とかしてても、もー耳塞ぎたくなるようなのろけっぷりでさー」
それだけ聞くといい話だけど……でも、ここから香さんの表情にちょっとだけ影が落ちる。
「でも……生きてる内に帰ってきて欲しかったなー、なんて思っちゃって。あはは……」
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